第211話月の勇者、その背後
渡されたのは旗印。槍に旗が付いている物だ。多分これは仲間の鼓舞とヘイトの集中を誘う物なのだろう。どこぞの聖女様とやらは、これをただの小娘となんら変わりない能力で、持って戦に出たと言うから驚きだ。
俺が持つ理由当然目立つ為。主力を叩きたいのはこちらも同じ。わざわざ御足労頂けるのだ。分かり易い目印くらいつける親切があっても良いだろう。
「月が出てきましたね」総長は上を見上げる。満月、しかも赤い。ブラッドムーンというやつだろうか?
「来たみたいだな」ギルドの連中には交戦せず通すように指示が出されている。被害を抑えるためだ。
そして俺と総長の前に黒目黒髪の青年と金髪へ碧眼の女性が到着する。
「出迎えご苦労。この前の借りを返しに来たぜ。一応名を名乗ろうか。アルト、お前等を殺す者だ」
日本人じゃないか。はいはいお約束のテンプレ量産型君ね。そろそろ君みたいなタイプには飽きてきたんだが。
「何がアルトだ。恥ずかしい。その歳で厨二病か?本名を名乗れ。俺はサクライ イチ」
「御同郷か。名前が少し古臭いが、時代が違うのか?」少し空気が和らいだ。こいつ、多分同郷の人間と会うのは初めてなのだろう。
「昭和生まれだ。キラキラネームよりはマシだろう?」
「違いない」ククッと笑い同意する。
総長は会話をしてる隙に離脱して貰った。アルトも当然気づいているが。見逃しているらしい。こちらの鑑定に気付く素振りも無い。今のうちに確認して。全て下げておこう。
レベル93
力2950
HP4001
防御1511
MP350
速度800
思考230
死に戻りレベル5
精神隷属レベル2
月の勇者レベル14
治癒魔術レベル8
過剰治癒レベル9
まごうなき化物よな。精神隷属とか字面が最低だ。
一度きりのスキルなのね。じゃあこれはどうでも良いや。月の勇者は治癒とステ上昇に特化したスキルね。全部10ずつ下げましょうね。ついでにレベルも下げましょうね。
全て3割程度になったか。死に戻りがレベル0に出来ないのが厄介だな。それと一つ気になる事がある。横の女、精神隷属の対象になっている。魔術師としての素養も高い。スキル構成の中に性技が入ってる時点で利用目的は察するべきかね。
「なぁ聞いても良いか、アルト」
「ああ、止めてくれ。同郷人にそれを言われるとキツイ。俺は日高 良太だ」
「では日高。そこの女に何をした?正気にも見えないし、不穏な力を感じる」
「それは俺の玩具だよ。当然の報いさ。こいつ、俺を呼び出すだけ呼び出して。使い潰して殺しやがった」
その女もクズか。
「殺しやがったって。お前生きてるじゃねぇか。ゾンビか?」
適当に返しておく。色々聞き出してからでも殺すのは遅くない。
「ああ、俺は死んだ時、呼び出された時間まで遡れるんだよ。例えアンタにここで敗れたとしても。次を模索すれば良いだけ。その時は当然対策を取ってアンタを殺すがな」
「その女は自分自身の仇って事か。俺には理解できんな。俺なら早々に殺してる」
これは本心だ。用途は想像付くが理解が出来ない。
「そうか?見てくれは良いし使い心地も良い。戦力にもなる。こう言う物語じゃセオリーだろ?」
誰だ、そんなくだらない話を書いたクズは。復讐者じゃなくてそれでは欲情者だ。本当に憎悪する者はそんな劣情は抱かない。
「お前とはもうお別れの様だ」
「おいおい、もう少し話そうぜ。殺しあうのは後でも良いだろ?」
「殺し合いは別にしないさ。俺が手を下す必要はなさそうだしな」
「は?」
日高の腹部に剣が突き刺さっている。無論俺がやった訳ではない。なに、簡単な話だ。隷属を解いた。それだけ。
された方からすれば辱めを受け続けた訳だ。殺す理由には十分。後はいつもの魔術を展開すれば終いだ。
女も含めその場に倒れこむ。立つのは俺だけ。
「てめぇ何をしやがった」
「そこの女を解放しただけですよ?胸糞悪い話しでしたので。それにさ、俺の友人を痛めつけてくれといて、普通に死ねると思ってるのかい?」
「お前の能力は分かった。次は殺す。だまし討ちしやがって」
「次?そんな物はねぇ。この空間はな。神であろうが無能に落ちる。魔力も無い。真の意味で原初を再現した空間なんだ。ここで死ねば魂すら残らない。残念だったな」
「畜生・・・寒い。でも、疲れてた所だ。丁度良かったのかもな」
日高は眼を閉じる。死んだ様だ。
「女、復讐の機会はくれてやった。今のお前自身には罪という罪は本当は無い。しかしだ」
「わかってます。私の家は完全に敵対してしまった。私の首を取れば被害も最小限で済むでしょう。異界人を使いまわした罰なのでしょうね。家臣の者達に出来るだけの温情をお願いします」
「可能な限り全力でその願いに応じよう」
空間を解除してから首を刎ねた。
後味最低だな。結局無抵抗な女の首を刎ねただけじゃねぇか。全く、嫌になる。
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