第199話辺境伯

 効果が無い訳ではない。証拠に立ってはいるが、攻撃は来ない。



「主は何をした?」



 思わぬ事態に少女は動揺を隠せておらず。おどおどしている。言葉の落ち着きようとは真逆である。



  俺は無言で近づき少女を蹴る。字面は最悪だが。問答無用に攻撃してきた相手だ。手心など加えない。




「痛い、痛いぃ。何故じゃ。この程度の攻撃に痛みを?それに再生を何故せん?主は何をした」困惑と恐怖が入り混じる表情でヒステリックに問う少女。



「お前は何故俺達を襲った? 答えないならそのまま殺す。話しが信じられなくても殺す。理由がくだらなくても殺す」



「お前如きに私は殺せない。不死に近く、日の光をも物ともしない。吸血鬼の頂点を殺せるならやってみなさい」



「そうか」



 少女の足を踏み砕く。悲鳴が聞こえる。当然だろう、正真正銘この空間ではただの少女なのだから。



「答える気になったか?今のお前は正真正銘、人間の子供と変わらん。強いて違うとするなら精神だけだ」



「それはどういう意味よ。答えなさい」



 俺は剣を抜き、振り上げる。生かしても良い事は無いだろう。




「待て、待て待って。分かった私の負けよ。」



「ダイス止めろ。多分だがその方はアルド辺境伯である可能性が高い」



 ガルが這いずる様にこちらに向かいながら叫ぶように言う。辺境伯ね。国によってその立ち居地は変わるだろうが。面倒には変わりない。



 少女も助かったと言わんばかりに表情を緩める。痛みで苦しいのは変わらないのでその差は良く見てないと分からない程度だが。



「ガル、助かった。ここで確実に殺す事にした。貴族にここまでして報復が無いわけが無いからな」



 少女の顔が歪む。助かったと思った先から、想像と逆の反応があればそうなるのは当然か。



「何故よ。何故そうなるのよ。普通は逆でしょ?」



「そうだぞダイス。辺境伯を殺したのが分かれば、後で洒落にならない事になる」




「そうか?今、目の前にいるのは。見た目こそ幼いが、強者で賊である事には何の変わりも無い。大義名分はこちらにある。それに死体なら帰りに海にでも捨て行くさ」



「ダイス。頼む、その方はこの国に必要な方なんだ。この国の情勢は旦那から聞いているだろう?件の国と隣接する場所の領主が彼女だ」



 成る程ね。諍いが絶えない隣国の防波堤を勤めるのがこの少女ね。



「ではガル。俺には何のメリットがある。こいつを生かせば十中八九、俺はお尋ね者だ。商売どころではない。俺としてはこいつは生きているだけで害にしかなりえないんだがな」



「それでも、頼む。俺に出来る事はやれるだけやる」



 そんな必至に懇願されては俺が悪役ではないか。おれは自衛に勤めてるだけのはずなんだがな。



「私を助けて欲しい。二度と敵対もしないし、今回の件の賠償もしましょう。どうか助けて下さい」



 言葉こそしっかりしてるが。声は震え、今にも泣き出しそうだ。


 ああ、もう。仕方ない。



「その言葉、努々忘れるなよ」



 解除すると見る見る回復していく少女。ガルはすぐに立ち上がりこちらに駆けて来る。



 今のうちに、自分のステータスとスキルを虚実で限界まで上昇させる。即死しなければどうとでもなるはずだからな。



 今回分かった事はあの魔術も万能では無いという事だ。いつかは平然と動き出す奴がいるかもという認識で動くべきだろうな。とりあえず事情を聞こう話しはそれからだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る