第197話雇用と市場調査(食べ歩き)
その日は宿を取り。次の日早朝に宿の食堂でガルと落ち合った。
ここのパンは比較的柔らかい。食文化もこちらの方が、早計過ぎるな。ガルはガツガツとパンとスープを平らげていく。
「ダイスさんは今日はどうする?」
「そうだな。どちらにしろ最終的には精霊を引き取りに戻る訳だが。まずは店の確認、従業員や売り物の必要量なんかもそれで変わるものがある。それから市場調査だな。やる事は冷やかしと食べ歩きのようになる」
「それなら俺も付き合うぜ。どうせ帰り先は一緒なんだ。リスクも減るし丁度良い」
「ガルさんが居てくれるなら心強い。まぁ今日一日は大丈夫なのでしょう?羽を伸ばすとしますか」
「羽を伸ばす?」
「休みで仕事の面倒事なしでゆっくり好きな事をやろうぜって事さ」
「なんとなくわかったぜ。面白い言葉だな。母国の言葉か?」
「そうですよ、どの国でも面白い言い回しはあるものだ」
15分位歩いただろうか?渡された地図を見ながら進むと。
「おい、ダイスさん。まさかアレはないよな?」
地図の位置にはどう見ても豪邸。庭こそ狭いものの建物の大きさはリシャー商会の物と比較しても遜色ない。
「流石にないでしょう。丁度住人というか使用人の人がいるから聞いて見るか」
「じゃあ俺が聞いてくるよ」
「可愛らしい女中さんだからって。欲望に忠実すぎやしないか?」
「五月蝿せい。御近づきになれるチャンスがあるなら行くのが男ってもんだ」そう言ってガルは女中のもとへ向かい。話しかけている。
そして、慌てた様子で戻ってきた。
「おい、ダイスさんや」口調がおかしい。
「あの屋敷で間違いないらしいぞ」
「は?」
「だから、伯爵がダイスさんに出した報酬はあの屋敷丸ごとだそうだ」
「伯爵ってすげぇ。あんなもん簡単に出せるもんなのかよ。甘く見てた」
だが同時に嫌な予感もひしひしとしてた。これは貰いすぎだ。そしてそういう場合は碌な事は無い。互いに適正と思う取引は実際はどうであろうと問題ない。しかし、あえて多く渡すってのはあまり良くない。この屋敷がコンビニ程度のサイズなら納得した。しかしこれは・・・
「申し訳ありません貴方がダイス様でしょうか?」
先程の可愛らしい女性だ。赤みがかった茶髪に愛嬌のある可愛らしい整った顔。歳は俺と大差ないか?
「俺で間違いない。一応聞くが俺はここの所有権を得たって事で間違いないのだろうか?」
「それで間違いありません。ここでお話しするのもなんです。御自分のお屋敷にどうぞ」俺とガルは案内されるがままに屋敷へ進む。というか店をくれるといったが全然店じゃない。というかだ。ここの使用人はこの子だけではあるまい。雇用はどうなっている。
屋敷に入ると「「ようこそご主人様」」老若男女様々な人間が14人くらい俺を出迎えた。まずはやるべき事をやるか。
「始めまして私は・・・俺はダイスという。貴族のような言葉使いはあまり期待しないで貰えると助かる」
使用人であろう人たちは一言一句聞き逃すまいとするがの如く、真剣にこちらに耳を傾けている。
「まず大切な話をしよう。ここは商会となる。無論屋敷としても使用する。そこでまずは確認したい。これは諸君らに取ってとても大切な事だ。伯爵からの雇用状態の把握をしたい。一人ずつ俺と話をしてもらいたい」
その後執務室に案内され、そこで状況の把握に努める。ガルには客室で待ってもらう事にした。
そして話を聞くにこうだ。
今月分までの給金はすでに支払い済み。給金は役職で違うが平均すると季節ごとに金貨2枚。俺が雇わない場合は伯爵の所で働くらしい。
俺がどちらで働きたいか選ばせると、皆この屋敷には愛着があるらしく、是非ここで働きたいとの事。
なので俺は全員を元の雇用条件で雇う事にした。商家として使うので業務が多少変わる事も了承してくれた。
とりあえずはこれで良いだろう。俺の監視役としての可能性は十分すぎる程にある。だが、俺に雇うか選ばせたという事はどちらでも良い程度という事だろう。これが給金を伯爵が負担するとなると確実に監視だ。
使用人達に仕事に出ると伝え。執事に金貨を数枚渡しこれで皆と食事にでもいくと良いと伝え俺とガルは屋敷を出た。
「なぁダイスさん。あの子口説いたらダメか?」
「既に口説いてた癖に良く言う。恋愛は俺の中では自由だ。責任さえ持てばとやかく言わないさ。良い事を教えてやろう。俺の周りの仲間なんかはすぐにくっつく。気付いたらパーティー解散してるレベルでな」
「うぁ~それはなんと言うか・・・でも今回は使用人だし問題ないよな」
「ああ、問題ないとも」
「で?ダイスさんは彼女は?」
「・・・」
短くは無い沈黙が流れた。
「嘘だろ?」
「煽ってんのかガル」
「いやいや。おかしいだろ?強いは金はあるはで性格も顔も悪かねぇ。モテ無い理由がねぇじゃねぇか」
「止めてくれ。慰められると余計惨めだ」
色々な店に入りながらこんな下らない話をしていると。路地裏のほうを見てガルが俺を呼び止めた。
ガルが見ている方向を見ると、明らかに暴漢に少女が襲われている様に見える。
「ダイスさん。助けよう」
行こうとするガルの腕を掴み俺は引きずる様に、その場を離れた。
「ダイス。何で逃げた。まだ間に合う。助けに行くぞ」
「お前は何を助けるつもりだ?ガル」
「あの子供に決まってるだろうが」怒鳴るように俺に言う。
「もし助けるとしたら。あの暴漢の方だ。今頃死んでる可能性が高いがな」
俺は鑑定で見たあの少女の数値が速度を除いて1000以下が無い。明らかに強者だ。更に吸血鬼。ロリ吸血鬼とか今となっては、ド三流ラノベや素人小説ですら恥ずかしくて出てこないような存在だ。
実際に見るとおぞましい。
「どういう事だ?」
「吸血鬼だよ。多分やりようによっちゃ戦えなくないが、正面からやれば10秒と持たずバラバラにされるぜ俺たちは」
「そんな訳あるか」そう言って俺の手を振り払い、走っていく。仕方ない追いかけるか。
その路地の周りに人だかりが出来ていた。ガルは事情を聞いたらしく、こちらに戻ってくる。
「で?どうだった?」
「男が3人バラバラにされて殺されたらしい」
「納得できたならそれで良い。俺たちがあの中に混ざってた可能性があった。それが回避できただけ良しとしよう」
「すまねぇダイスさん」
「気にすんな。さぁ夜も近づいてきやがった。ここからは酒屋が開く。飲もうぜ」
ガルは少し考えて「おうよ、今日は俺が奢るぜ」
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