第176話一時の

 まずい。本格的にまずい、完全にやられた。国内のギルドに冒険者は今やいないと言っても良いのかもしれない。私からの交渉が始まる以前に撤退を終らせていた。詳しくは別の村や町の民草を短期で雇い別の町のギルドへ職員の様に振舞わせた。



 ただこれだけだ、元々移動の動きが活発すぎて、民草が混ざる事を把握できなかった落ち度だ。



「軍務卿を呼べ、各地の領主もだ」


 ギルドに帰ってきてもらう交渉は無論だが、それまで自衛する事が今は急務だ。村や町を出ればすぐに、危険な魔物が闊歩する領域となる。



 それが何故ある程度安全な道になるかと言うと、冒険者ギルドの存在に他ならない。彼らは魔物を狩って、その素材を売り、あるいはその討伐依頼をこなし、生計を立てる。ある程度は自然に魔物を減らしてくれる。こちらは対価を払う。共生関係にあるのだ。



 今回の件でそれが崩れた。利が傾いたのが原因だ。最悪、恩人であり部下でもある彼女を裁かなければならなくてはならない。いいや、それだけは出来ない。一国の主としてはあまりにお粗末な判断だろうが、これだけは譲れない。



 だが、愚かな私を更なる問題が襲う。アヤが逃げ出したのだ。



 この時私はアヤが何をするつもりか分かり、すぐに追っ手を出したが、足取りは掴めていない。念の為件の人物の元パーティーがいると言う町に護衛役を派遣した。気休めだが、やらないよりは良い。



 一人部屋で王は苦悩する。最善を知りながらそれを出来ない、己の愚かさを呪いながら。





 俺は、ようやく店に着くと扉を開ける。




「いらっしゃいませ、ってダイスじゃん。今日はもう来ないのかとおもったよ~」母親になったと言うのに違和感しかないこの女。ミルである。どうみても幼女。一児の母等とは思えない・・・ルイもだが。



「ギルドでひと悶着あってね、少し遅くなった。今この町にガイとリムが来ている。大丈夫だと思うが気をつけろよ」



「ダイスさんが警告するとか。それは穏やかではありませんね」イケメン系ロリコンのスロート。



「ダイスさん、今絶対失礼な事思ってましたよね?」



 俺はないない、と手を振りながら「ロリコン野郎がとか全く思ってないから」と否定しておいた。



 後ろで必至に抗議してるロリがいるが無視無視。スロートの方は多分弄られすぎたのだろう。もうそれで良いですと諦め気味だ。



「遅いよ、早くお菓子を作っておくれよ」と10代に手を出した残念なショタおっさん。



 こんな残念な連中ではあるが、馬鹿な事を話たり出来る数少ない俺の友人である。全員に全ては話せないが、そんな事は何処の世界の人間も同じ事だ。



 その日は菓子を焼き、つまみを作り、酒を飲みながら。我ながら少々だらしないが心地よい一時を過ごした。



 もしかすると俺は・・・いや、それはないな。

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