第132話鼠はあっけなく
あっけないくらい簡単に事は済んだ。あのスパイ自分が信頼されているという自信がよほどあったのであろう。証拠を殆んど隠してなかったらしい。書類はまとめて見つかったようだ。
隠蔽のスキルを持つから派遣されたようだが、あまりに酷い。お陰で内通者や、他のスパイらしき者も次々捕縛されている。ここは巨壁の国だ。進入が難しい国、逆に言うと脱出も難しい国なのだ。
少し時間が掛かるから部屋で待って欲しい。そう言われて通された部屋には爺さんがいた。
「上手くやったようじゃの。まさかここまでしてくれるとは、助かるわい」
「丸投げしといてよく言う。俺自身人間だが基本的に人間って奴を信用しない質でね。特に宗教家ってのは質悪い。神のせいにして悪逆を繰り広げる」
「本当にそれだけか?」
空気が変わった。威圧。いや、違うこの感覚表現できない。ただ相手が真剣なのは良く分かる。
「なにが言いたい?」
「わしは確かにおぬしを気に入っておる。これは嘘偽り無しじゃ。じゃがそれだけでは同族殺しを無かった事にはできぬ」
「それでは何故、俺を招いた。俺を恐れている訳ではないはずだ」
一応術式の準備だけはしておこう。
「まぁ、理由はある。元々わしはあの時、全ての同胞におぬしへの手出しを禁じていたのだ。まぁ、馬鹿が一匹無視して返り討ちになったがの」
「手出しを禁じた理由は?これからの付き合いに大きく響く事柄だ、正直に頼む」
俺が爺さんをある程度信用してるのには、いくつか理由がある。最も大きいのは理由が無いからだ。圧倒的な強者が弱者の俺に対してそれをする必要がないからだ。
「精霊じゃよ。お主が何処かに連れ出したのじゃろ? 売り飛ばしたという訳でもなさそうじゃ。今は亡き友の娘子は元気にしておるかの?」
「元気にしているよ、妖精達と共に俺の領地で」
「お主、領主だったのか。いや、おかしい。あの娘が人間達と暮らせる訳がない。散々追い回されてきたのだそれは無理なはずじゃ」
「俺の領地に来る事が可能な人間は、知る限り俺を含める2人だけだ。精霊、妖精、後は自然のみだ」
「そんな土地は・・・あるのかもしれんな。いつかわしも行きたいものじゃな」
「あそこは、俺が信じた者しか入れない。精霊や妖精は裏切る必要が皆無だから招待しただけだ」
寧ろあいつらの為に準備したと言っても過言ではないが、なんとなく言いたくない。
「そうか、真に信用できる来た時でよい。契約交わしても良い。いつか、そこへ連れて行って欲しい。リュエの忘れ形見も見ておきたい」
何故精霊と関係があるか問うた所「匂いじゃよ」と答えてくれた。ドラゴンは犬並みの嗅覚があるのか?と更に問うと。
加護や祝福には届かないが、近しいものが俺にはあるそうだ。
爺さんは信用できる、全ては無理だが、いつか連れて行きたい物だ。
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