第96話真

 僕は力を得た。荒事に向いた物ばかりではあったが、この世界では当たりだったと今では思える。


 この世界に来たとき、最初にあったのは、奴隷狩りだ。適当な人間を捕らえ、首輪を嵌め、遠くで売る。



 まさに外道の所業をやる連中だ。当然僕は獲物でしかなく、人数差もあり、捕まるかと思った。しかし、結果は違った。元々爺ちゃんに言われて、空手をしていたのだが。その型が、まるで自動で出るかのように、適切に、相手を捕らえた。結局8人を倒し、その時捕まっていた人の案内で町に行けた。



 奴隷狩りを縛り馬車に載せ、警備兵に引き渡したら、ある程度のお金を貰った。



 爺ちゃんはよくこう言っていた「善行は積む物、返る物。それに期待しすぎるのは良くないが、成さないよりは良い」



 少し矛盾するけど、確かに返ってきた。きっとあの神様がくれたこの力も、善を成す為に授かったに違いない。



 自分が思う善。独善になるのかもしれないけど、それでも、それを貫こうと、その時誓った。


 そうして一年、自分なりに善行を積んできた。だが、悲しい事に、同郷人の殆んどが力に溺れ、悪行を成していた。3人、今まで牢獄に送った同郷人の数だ。



 他にも、そう思われる悪行を耳にする。今回の彼は、判断材料は全て違うと結論を出すが、僕の勘は日本人であると告げている。



 幸い彼は悪行でこの世界の理不尽に屈するというより、商才で自分の道を作る様に見えた。でなければ、あれだけの大金で、あれほどの量の買出しはしない。



 どう見ても行商人のそれだ。一つ懸念しているとすれば、彼が襲われて命を落とす事だが、多分彼は僕より強いから大丈夫だろう。これも勘でしかないが。



 一つ願うなら、彼がクーフーリンを知らないでいてくれれば、良いのだが。人の、しかも英雄の名前をまるパクリとか、同郷人から見たら、恥ずかしい奴以外の何者でもないのだから。


  

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