第95話尾行

 どうした物か・・・俺は頭を痛めていた。原因はどこぞの英雄様(笑)だ。緩やかではあるが、監視されている。やはり同郷人と疑われているのだろう。


 正直、関わらないでほしい。どうせ碌な事にならないのだから。疑われる原因は明らかだ、例え髪を金、目を青にしようが、顔が周囲に比べると薄いのだ。無論酷い違和感を感じる程度ではない。だが、彼はそれでも俺を警戒している。俺と同じように、頭のおかしな同郷人に襲われた経験があるのかもしれない。



 というかだ、尾行がバレバレすぎて腹が立ってきた。尾行って隠密行動でやるのが普通だよな? なんで女とイチャつきながらやってんの? しかも、一人増えてるし。



 嫉妬ではないですよ?マジで。これで自分は気付かれていないと思ってる事が腹立たしい。



 よし、正面から言おう。迷惑だと。



 路地裏への道に入り、曲がり角を曲がり、そこで待つ。当然追いかけてきた、マヌケどもと鉢合わせになる。



「クーフーリンさん、何の御用でしょうか?正直迷惑というか、男に尾行されて非常に気持ち悪いのですが」



「気持ち悪いは酷いんじゃない?」取り巻きの女冒険者、ハーレム構成員その1が文句を言う。以後ハの1と呼ぼう。



「では貴女は見ず知らずの男に、初めてきた土地で、バレバレな尾行をされたら気持ち悪くないんですか?」



「クー様には悪いけど、そう考えると気持ち悪いかも。そもそもクー様なんでこの人を尾行してたの?」ハーレム構成員その2もハの1の意見に賛同する。思ったよりマトモそうだ。



「それは俺も非常に気になる。あまりに身に覚えが無い」



 英雄殿・・・なんか呼び方が落ち着かないな・・・真君でいいか。実際はそうは呼べないが。


「ダイスさん。それは本名ですか?」



「鑑定とやらで見たのでしょう? 家名はありませんし、ダイスですが?それが?」



「確かに、鑑定は貴方をダイスと読み取りました。でも、僕の勘が貴方が同郷人だと告げている」



 少しばかり演技をする必要がありそうだ。上手くやれると良いが。


 取り巻き達が見守る中、俺は困った表情を浮かべた。



「名前から何故同郷人の話に?正直意味が分かりません。それにです、もし、仮に同郷人だったとしましょうか。何故付け回す必要があるのですか? 因みに、俺はライカの先にある山中の集落の出だ。ああ、こんな意味が分からない奴に丁寧に話す義理もないな」



「それで、お前の故郷とやらは、牢獄か何かで外に出たのは脱獄者かなにかか?」


 無論暴論である。少しばかり怒気を孕ませながら言う。少なくても俺がそう思わせたい怒りと、その理由は伝わるだろう。無論演技だが。


「勘違いみたいだ、申し訳ない」




 ハァとため息を付き「許しましょう。ただし、あまり関わらないでほしい。尾行していたつもりだろうが、俺には両手の花を見せびらかしている様にしか見えなかったぞ。それでいて尾行しているつもりというから腹立たしい。まぁ良い、俺としてはお前のような面倒な奴とは、関わりたくない」



 ハの1と2はだんまりだ、彼氏?が怒られている所だから仕方ない。自分達にも心当たりがあるから、なおの事だろう。



「ああ、すまなかった。極力近づかないと誓おう」



 それはギャサかなと言いたくなるのを押さえて。



「それで良い」と言ってその場を後にした。


 俺の演技も捨てた物じゃない、という認識でいいのだろうか?ゴリ押しただけな気もするが。とりあえず、厄介事を一つ回避したと言えるだろう。







               補足


ギャサ、ゲッシュとも言い。神に誓いを立てる事で様々な恩恵があり、反面破ると、厄災があると言う。


 この誓いは、厳しい物ほど効果は大きいとされる。


 真君のクーフーリンは物語上、このキャサを逆手に取られた事が死因の一つとされている。

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