第63話苦悩の王の光明

 玉座の上で考え込む日々が増えた。希望になりそうな出来事が起こっても、すぐそれは我のてから零れ落ちる。この前もそうだ。この国にオーガをほぼ単独で24匹も仕留めた魔術師が現れた。だがそれもすぐに姿を隠し、見当たらない。せめてどのような魔術か知りたかったが、メンバーはギアスに縛られておりどうにもならなかった。



 それにはまだ良い、降って湧いた幸運を見逃した程度だ。問題は闇奴隷、違法奴隷だが、これがどうにもならん。



 王とは所詮庭師のような物、必要な木を植え、駄目な枝を切り落とす。そうして健全な庭を作っていくのだ。しかし、この問題はどうだ。だめになった部分があまりに多く、何処まで切って良いか判断に困るのだ。



 切り落とすにも、肥大化しすぎて難しい。せめて切り落とす大々的な口実があれば、粗治療気味に強行できるのだが。向こうもその辺はわきまえているのだろう。忌々しい。



 悩み、どう対処するか苦悩する日々だったが、方策は思ったよりも簡単にやってきた。



 エルフの領地が、我が配下の者に襲われたのだ。しかも、辺境伯。本来なら国際問題なのだが、幸いエルフは少数民族。国とはいかない。更に良い事に、被害らしき被害は出ていないそうだ。



 無論国としては大幅なマイナスだ。しかし、これを口実に違法奴隷を強制的に根切りできる。ここまで大々的な敗北、そしてその理由を知れば文句の出しよう等ありはしない。あってもその時は、後ろめたいものがあると自分で公表するようなもの。



 更にお膳立てと言わんばかりに、その時ギルド長であり金級冒険者である、ガウェイン殿まで戦場にいたと言う。最近流行り出した、シロップの販売契約の調印の為にいたそうだが、これ以上の証人はいない。



 後は簡単だ。目星は既に付いている。今回の事件を前面に押し出して、強制捜査を敢行する。



 エルフへの賠償は手厚く行い、我自身も謝罪に行くとしよう。普段なら気が重く、逃げたくなるような事態だが、今なら何の苦にもならない。



 ようやく、ようやくだ。先王からの問題を解決できる。



「大臣、今から言う者共を集めろ、今すぐにだ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る