第32話領主とギルド長
「やぁ、君の事だ、そろそろ来るんじゃないかと思ったよ」
相変わらず軽薄そうなこの男。正直私はあまり得意ではないわ。
「流石はギルド長、全部掌の上の事なのかしら?」
「いやいや、領主殿。今回は彼の行動が早いお陰で、粗方状況が把握できた。それだけだよ。さぁ単刀直入に聞こうか。彼に何を求めているのかを。場合によっては、仲介するのも僕は吝かではないよ」
「ただし適当な嘘は無しだ。その時点で僕は、彼を全力で君の届かない所に置く体勢を取るよ。僕に嘘が通用すると思うのなら試してみるのもまた一興かもね」
先に釘を打たれてしまったわ。彼の洞察力は良く知ってる。だって彼は有能だからこそこの町のギルド長なのだから。少し表現が違うわね、この国の担当のギルド長と、言った方がただしいかしら?
どちらにしろ、お手上げね。分かって来たのも有るけれどやはり苦手よこの男。
「ダイスという青年は優秀よ。武力は限定された条件下で優秀。パンやお酒等の技術。これはそちらが買うのでしょう?そこは譲るわ。私が欲しいのは金属精製する技術の方よ。貴方が食堂もどきにしてしまう前はそういう場所でしょう?」
「確かにそうだったね。今ではあまりに人気で、そっちのほうはこの周囲の鍛冶屋しか来てないとか。良い鉄を扱ってるって評判は上々。君のような領主が何故そんな物を欲しがるのかな? 僕はそこを聞きたいんだ。」
でしょうね。
「私はもうすぐこの領をハンスにある程度任せ。西の地に街を築くわ。町ではなく街よ。森は切り開いた、魔物は討伐した。でもね、技術者が足らないの。それを成す為の人員に彼が欲しい。なんならその街にギルド建設の許可も出すわ、どうかしら?」
「実に魅力的な案件だね。僕から他のギルドに掛け合って、技術者を手配しよう。それで彼はいらない。違うかい?」
「分かって言っているのでしょう?それではその街で、ギルドが力を持ちすぎてしまう。王はそれを望まない。街を築く事、これは王の勅命でもある。だからこそギルドに頼り過ぎず、事を成す必要があるの。それとも王の邪魔をしたいのかしら?」
「ハハッ、まさか、僕もこの国の国民だよ?なんで邪魔をする必要があるのさ?僕は才あるギルド加入者が、心無い貴族に使い潰されている現状が許せないだけだよ? それともあれかい?我が王はギルドにいる人間を不当に使い潰して良いと仰ったのかい? もし、そうであればギルドはこの国を去らねばならないね」
「それは私が彼を、使い潰すと言いたいのかしら?」
「そうは思わないさ、もしそうなら門前払いしてるよ?ただね、君にしては強引だ。有能だから監視して、二人での会話と人払いした状態で、ハンス君を横に控えさせていたのだろう? 彼自身元々警戒心が高い、抜けてるところもあるがね。それには気づいていたのだろう? なのにだ、それなのに、強引な手段に出たのは何故だい?」
少し沈黙が流れ。
「もう一度聞こう。彼の何が欲しくて、いや、何の技術が欲しいんだい? 僕も暇ではない。そろそろ聞かせてはくれないかい?」
「その答えを聞く覚悟はあって?」
「当然だとも、彼は僕の友人だからね」
「良いでしょう。この価値は巨万の富と同等だと先に言っておきますわ。もし・・・皆まで言うのはやめましょう」
私はこの男に包丁を一本、指輪、ネックレスを渡した。
「これは?」流石のこの男も、見ただけでは分からないようだ。
「この包丁は、普通に使い、一切手入れをしてません。血が付いた状態で3日ほど放置もしてみました。本人はこれを売るときに、錆びにくい鉄と言っていましたね」
「次は、この指輪、ある金属と別の金属の組み合わせで、色を作る試みのようですね。最後にこのネックレスですが・・・多分クズ銀で出来ています。この意味わかりますね?」
「これ程とは・・・藪を突いて蛇所か、龍が出て来た気分ですよ。貴女が焦るのもわかる。成る程、これで彼をギルドだけで保護しようものなら、先に何が待つのか考えただけで恐ろしい。しかし、貴女だけで扱える案件でもないでしょう?」
「そんなの無理ね。ただし、ギアスで裏切りを無くした上で、貴方と組めば上手くやれるはず。無論クズ銀なんかは封印してもらうけど」
「良いでしょう。ただし、彼を一方的に利用しようとした時点で我々は敵です。努々忘れぬように」
それからが凄く疲れたわ。ギアスの内容を二人で精査して、終わったのは夜中だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます