第27話領主との会話

 店に向かうと領主はいた。俺は最近見つけた植物、レモングラスのお茶を出した。この辺ではこの草を編んで虫除けとして使うそうだ。



「頂くわ」一口のみ、「意外だわ、お茶としても使えるのね。本題に入りたいのだけど宜しいかしら?」



 なんというか、焦りのような物を感じる。どうしたのであろうか?護衛の者達は部屋を出る。当然の配慮ではあるかもしれないが。ありがたい。



「とりあえず人払いは問題ないでしょう。ただの商人に領主様がどのような御用件でしょうか?」


「やはり、貴方は貴族が嫌いなのですね?」


「はてさて、私は弱者です。圧倒的強者がこのように訪ねて来たら恐ろしいですとも」本心だ、ただの良い所のお嬢様ならそれでも構わない。うちの商品を気に入っただけかもしれないから。しかし、領主、更に言えばここの領主であればそうはいかない。



 俺の店に来てあれだけ買い物をした領主だ。気になってどのような人物か聞いたことがある。聞いたのは今の護衛たちと鍛冶屋の人たちにだ。



 曰く、この栄えきった町は彼女が1から作り出したといっても、過言ではない。12年前まではこの地は王国軍でも中々に手を焼く魔物が跋扈する森だったそうだ。それを切り開き、町を作り領主になったのが彼女だ。



 曰く、個人の武力に置いても優秀である。実力は金に届くとまで言われる程だ。




 曰く、大商人である。13の時には一つの商会を立ち上げ、今ではこの大陸で有数の商会の長でもあるそうだ。


 これだけの人物が、俺の所に来る理由などそう多くは無い、技術だ。ステンレスを初めとする特殊な合金を彼女は買って行った。かなりの値段でだ。




 当然色々試した事だろう。そしてクズ銀の価値に気付いたとしたら・・・やはり俺は迂闊だ。能力に浮かれてとんでもない物を、とんでもない人間に見せてしまっているのだから。



「そのように恐れなくとも大丈夫ですよ。少なくても私は平民上がりの成り上がり者に過ぎませんから」




 「その平民から貴族になる過程を聞きましたが。私はそれが余計に恐ろしい。商才や武力は勿論、平民上がりであれば妨害もあったでしょう。それを跳ね除ける政治的手腕、天は貴女に何物をお与えたになったのでしょうね。ただの買い物ならここは店です、お売りしましょう。しかし、それ以外は出来ればご遠慮願いたいです」





 困った顔をしながら、それは持ち上げすぎです。と言った後彼女はこう言った。「御自分の技術や魔術の価値がどれ程の物か理解しているのでしょう?」






 技術は良い、商品を買って分析すれば未知の物だとわかる可能性があるから。しかし、魔術だと?俺は護衛以外に見せていない。もしや・・・いや、ギアスに抜け穴があるとは思えない。いや、俺であれば極々小さな書き換えができるが。



 とりあえず探りを入れよう「魔術は初級の物しか使えませんが?この程度に何の価値が?」




「技術についてはお認めになるのですね。魔術についてですが、私は知っています。貴方には密かに護衛を付けていましたから。雷の音と共にオークのような巨体をも一撃で絶命させる魔術を」



 見られていた?あれだけ開けた場所でどうやって?こちらを見つけるという事はこちらからも見つかるという事だ。音は聞こえても、視力的に何が起こったかまでは分からないはずだ。



 考えてもしょうがない。これはかなり危険な状況だ。話次第ではすぐにでもギルドに逃げ込んで対処法を考えるべきだ。



「何故、話を聞いていないのに、逃げようとなさるのですか?」



 嫌な汗がブワッと出た気がした。




「私の店ですよ?何故逃げる必要があるのですか?それに護衛とは建前でしょう?監視が正解でしょうに?要するに貴女は私を利用して、何かしらの利益を上げたいそういうことですね」



「やはりダイスさんは何処かで権力者階級に酷い事をされたのですね? 普通ならチャンスと思うものですよ」



 普通ならだ。俺の持ってる物は個人で使うだけで他に渡さないなら良いが、広めればとんでも無い事になる物もある。銃だって力を早く手に入れる為に作った物で、ある程度したら封印するつもりだった。



「いい加減本題に入りましょう。仕事を頼みたいのです」

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