第26話風呂は心の洗濯

「以上が報告になります」


 私は出遅れた。ダイス、彼は多分貴族になにかされて逃げてきた類の人間でしょう。私が領主である事は彼も知っている。警戒してギルドの後ろ盾を求めに行ってしまった。下手な行動は出来ないわ。まだこの町のギルド長だけで他にまでその価値は知れ渡っていないはずよ。


 更に面倒な事に銀級のパーティーが護衛に付いてしまった事。ハンスに監視させるのも危なくなるわ。彼の力はどうしても部下に欲しい。出来れば協力的に、時間も限られているの。ギルド本部に囲われれば勧誘のしようがないもの。



「ハンス準備をして頂戴。あの人材はこの間賜った地に必要です」



 私が出きる最大限を譲歩してでも欲しい。あれだけの技術と知識があれば、彼の地の開拓に必要な物を作り出す可能性は高い。



 その頃アトリエ・ヘパイストスという名の、9割の客が飲食目的な地金屋にて。三人の少女は興奮気味にダイスに詰め寄っていた。無口なレイナすら積極的だ。原因は風呂だ。そう、作ってしまったのだ。




 銃を作る際、錬金術で木材の形を自由に変化させた時に俺は思ったのだ。この能力で複数の木から一つの木材を作れないかと。結果は出来た。しかも薪になるような枝も混ざっているのにだ。無理だろうと半ば思ってただけに驚いた。同時に歓喜した、最高の浴槽を作れると。



 出来は最高だった。まるで巨木から削りだしたかのような曲線、素材の柔らかな質感。前の世界には存在しない凄い物を作ったのかもしれない。手入れは難しいが抽出で水分等を取り除いて乾燥させてやればできるはず。



 そして前から作っていた物がある。石鹸だ。鑑定先生がいなければ作れなかった会心の出来だ。香り付けにはスランの実を使用している。タオルは準備した、石鹸も良しだ。強いて不満があるといえばシャンプーとトリートメントが無い事だがこの際仕方ない。この世界で始めての風呂だ。しかもこんなに素晴しい浴槽を使って。



 そう、今入ろうと上着を脱ごうかと手を掛けた時だった。



「何してるの?」



 三匹の悪魔がいたのだ。



 俺は前世での感覚が抜け切れていないのか、とんでもない愚を犯した。



「風呂だよ。今準備が出来たから、入る所だ」なんでこう答えたのだろう。少し考えればその価値は分かっただろうに。この連中とは仕事を依頼してある程度打ち解け、特に女性陣が(ミル)に関しても一切遠慮をしなくなっていた。



 長くなったが結論を言おう。俺の一番風呂は奪われた。俺は押し出され、彼女達は脱衣所へ。こうなれば男の俺には手出しは出来ない。ただ彼女達の楽しそうな聞こえる中放心状態で立ち尽くしていた。とまでは言わないがへこんでいた。



 どうやって作ったとか、明日もお願いとか、他にも色々。可愛らしい彼女等ではあるが、正直軽く


殴りたい。無論やりはしない。大人気ないし、くやしいがやったところで俺のほうがまだまだ弱い。




 結局の所価値を忘れた俺が悪いのか。女性からすれば風呂とは貴族レベルの贅沢で、ある種の憧れでもあるのだから。



 そして今に至る。



「なんでお前等が先に入るんだ。普通に考えたら作った俺が先だろうが?」




俺はミルを引き剥がしながら「ああ゛、鬱陶しい。俺は一刻も早く風呂に入りたいんだ」






「本当は一緒に入りたかったんでしょう?ほれほれ~」なんの色気も無い肢体をくねらせポーズを取るミル。釣られて胸を張るリム。こちらもそこまで発育は宜しくない。




 強いて点数をあげられるのはいつもの無表情のレイナが恥ずかしそうに、良く分からないポーズを私もやらなきゃ、といった感じで頑張る姿が素晴しかった。





「ああ・・・うん・・・そうだな。じゃあ、俺、風呂にいくから・・・」






 可哀想な者を見るような目をしながらそう言って、脱衣所に逃げ込む。






 それどういう事よなどと申しておりますが、自分の胸に手を・・・当てれば分かるだろ?物理的に。領主様を見習えば良いと思うよ。






 そうして風呂に入ろうと上を脱ごうとした時。






 ガイが急に入って来て「旦那、領主様がお会いしたいそうです」






 どうやら風呂には入れないようだ、泣きたい。

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