断章
ミナ・ハーカーからジョン・H・ワトソン博士への手紙
ワトソン博士
はじめまして。わたしはミナ・ハーカーと申します。いえ、あなたにはミナ・マーレイと名乗ったほうがよいでしょうか。もうお気づきですね。そうです。アフガンの戦場であなたといっしょだった、あのマーレイの姪です。あなたの話は叔父から何度も訊かされていました。残念ながら叔父は五年前に病で亡くなってしまいましたが。かの名探偵シャーロック・ホームズの助手、ワトソン博士の命を救ったことは、叔父にとって死ぬまで自慢の種でした。
さて、前置きはこのくらいにしておきましょう。ドラキュラ伯爵について知りたいという話でしたね。セワード先生からは話してもらえなかったそうですが、どうか彼のことを責めないであげてください。きっと話したところで信じてもらえないと思ったのでしょう。実際、わたしもそう疑わざるをえません。実際、もしこれが他人事であったならば、わたし自身とても信じられなかったでしょう。それほどまでに荒唐無稽な出来事でした。こうして手紙を書いている今も、あなたがたに真実を明かすべきかまだ迷っています。
しかし、わたしはこう思うのです。それが信じられるか決めるのは、話を聞かされた本人にまかせるべきではないかと。断じて話す前に「どうせ言っても信じないだろう」などと勝手に決めつけて、真実を秘するべきではないのです。
わたしたちとドラキュラ伯爵にまつわる出来事を伝えるには、このほうがよいだろうと、当時わたしたちが書いていた日記の写しを同封しました。わたしがタイプライターで打ち出したものです、相当な分量があるので、読み終えるのにかなり時間がかかるかと思います。けれど最後まで目を通してもらえれば、四年前に何があったのか、きっとご理解いただけることでしょう。
ウィルヘルミナ・ハーカー
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