「蔵の中の遺品」

津久毛家の蔵は江戸時代に作られたという土蔵だった。


中に入ると桐の良い香りがし、

おかしな影もなりを潜めスミ子は少し安堵する。


「どうやらここは、

 何らかの対策がしてあるみたいだな。」


ユウキが小さくつぶやくのが聞こえた。


みれば土蔵の扉の上には小さな神棚が備え付けられており、

扉の近くに来た奇妙な生き物たちが、

土蔵を避けるようにして歩いていくのが見えた。


津久毛の話では家の人間に週一くらいで開けてもらい、

空気の入れ替えをしているそうだ。


「古い神社だから古文書とかもあるしね、

 歴史や考古学の先生が文献を探しにここを訪ねることもある。

 中には蔵ごと改築して一般公開するべきとかいう人もいるが、

 …まあ、家内が掃除が大変だと文句を言うから止めているんだ。」


奥さんは現在、

友人とともに温泉巡りをしているという。


「息子の仕送りがいいから遊んでるんだよ。

 アキラは神社の後継には向かないが稼ぎはいいからね。

 ま、多少の余裕もあるし、後継問題はゆるゆる考えていくさ。」


そんなのんきなことを言いつつ、

津久毛は土蔵の二階に上がると大きなつづらを出してきた。


「親父は俺が生まれてから、そう経たないうちに死んじまったからね。

 神社の祭事のやり方はもともと母方の祖父がしていたから問題なかったが、

 お袋もあまり親父のことは話さなかったし、何にも知らないんだよ俺は。」


そう言いながらも津久毛がつづらを開けると、

何冊ものアルバムや本やレコードが出てきた。


「お、これ新婚旅行の写真かな。

 お袋も若いなー。二年前の遺影にこれを使えばよかったな。

 このレコード絶対廃盤になってるし鑑定に出してみるか?」


中から出てくるものに、いちいち興味を示す津久毛に対し、

曽根崎はせっせとつづらの中身を床に並べていく。


津久毛はそんな曽根崎に文句を言う様子もなく

相変わらずつづらから出てきたものを楽しんでいるようで、

スミ子はなんとなく神主だけどマイペースな人なんだなと感じる。


「…ん、これはなんだろう。」


そうして、つづらの奥から曽根崎が出したものは、

一抱えはありそうな四角いブリキの缶だった。


斜めにするとジャラリと何かが動くような音がする。


「津久毛、中身が何か知っているか?」


それを聞くと、津久毛は肩をすくめて見せた。


「いや、親父が死んでから神社を継ぐことに忙しかったからね。

 ここにつづらがあること以外、本当に知らなかったんだ。

 …ま、とりあえず開けてみよう。何かわかるかもしれない。」


津久毛はそう言うと蓋に手をかけ開けようとするが、

缶はなかなか開こうとしない。


「ん?どうした、力でも足りないのか?」


曽根崎が横から手を出すも、やはり開かない。


そして、缶は曽根崎からユウキに渡され、

それでも開かないということで床に置かれる。


「どうする、油でも差してみるか?」


相談し合う男性陣に、

スミ子はなんとなく缶に手をかけ

ちょっと力を入れてみる。


…すると、缶はいとも簡単にカパリと開き、

開いた缶を見せるスミ子に津久毛は苦笑しながら缶を受け取った。


「ありがとね。なーんで今まで開かなかったのかな?」


そう言いつつも、津久毛は蓋を傍らに置き、

中をゴソゴソと探り始める。


「…ん、これかな。音の原因というのは。」


そして津久毛が摘んだものに、

スミ子の毛はざわりとした。


それは、見覚えのあるプレート。

金属の輪に繋がれた二枚の一組のプレート。

一枚は無地で、一枚には牛の文様が入ったプレート。


続けて津久毛が取り出した冊子に

全員の注目が集まった。


『信者に告ぐ、「未来の牛」の今後について』


それは紙のこよりで閉じられた、

A4サイズの手書きの冊子。


天城カズラと名前が印刷された冊子。


それは、津久毛の父親、

須藤ミカゲが天城院長の信者だったという、

決定的な証拠だった。

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