WONDERFUL WONDER WORLD
隅田 天美
大いなる厄災、西から
序章 死と再生
ある狙撃手は愛用のアサルトライフルM24に指をかけ、標的を狙うとき、いつも考えることがある。
――人生と言うものを考えたとき、最終的には『生か死』という二択になるのではないか?
人は生まれ落ちた瞬間から、死に向かい歩き始める。
人類の歴史は、それを超克しようとする歴史ともいえる。
二十一世紀になった今でも、多くの人たちは大なり小なり、『死』という恐怖から逃げようとする。
科学や宗教は複雑化している。
しかし、本当に『死』は恐怖するべき、唾棄すべきものだろうか?
彼は、そうとは考えていない。
生と死は表裏一体のものであり、神が与えた素晴らしいものだと思う。
昨今は、一部の宗教などが「死は救済」だと言い、何も知らない若者が『死は芸術』と嘯く世相になっている。
これは、神に対する冒涜である。
美しい乙女に厚化粧や装飾品をつけるようなものだ。
乙女は、素肌のままが美しい。
――自分は、その乙女の従順なる
相手に知られぬようにそっと舞い降り死を告げる。
具体的に書くのなら相手の頭蓋骨を貫通し脳を壊す。
運転手であり通信を担当する男が告げる。
「そろそろ、ターゲットが出てきます」
狙撃手は、そこで一旦、思考を止める。
耳栓をする。
神経を指先に集中させていく。
呼吸を整える。
静かに、音もなく、闇に意識を沈めていく。
音が消える。
光が消える。
全てが沈黙し、闇にひれ伏す。
やがて、スコープの中に一人の男が映し出される。
引き金を引く。
次の瞬間、ターゲットは倒れた。
続けざまに数回引き金を引いた。
闇に光がよみがえる。
周囲では他の客たちによる怒号や悲鳴が上がったようだ。
「出してください」
同じく耳栓をしていた男に肩を叩いて知らせる。
運転席の彼は、素早く車を発進させた。
狙撃手もライフルを車内に入れ窓を閉めた。
これで、この仕事は終わった。
そして、これが始まりであった。
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