Tear-外伝
薄(ススキ)
夜の女神は不敵に微笑んだ
Prologue-2.1
――遥か昔、世界に一つの星が落ちた。
それを嘆き悲しんだ女神は、
一人の少年と共に世界を再生させた。
だが女神は力を使い果たし、
眠りについてしまう。
女神は言った。
「私を目覚めさせよ」
――――――――――――――――――
暗い路地。建物と建物の隙間。
壁に寄りかかる銀の髪の少年は、左手で血の滲む脇腹を押さえながら、頭をよぎったオルフィス教の聖書の一節を思い出した。
思わず、舌を鳴らして呟く。
「あんたのせいで、俺達は迷惑してるってのに」
透明な天蓋越しに衛星ニクスが闇を照らす。
夜の女神は不敵に微笑んだ。
――――――――――――――――――
遠くでカチャカチャと、金属製の鎧が鳴るのがわかる。メタトロニオス王国の宗教軍だ。
メタトロニオス王国はオルフィス教を国教にしている。
オルフィス教を守るため、という名目で結成されたのがこの宗教軍だ。
だが近年、オルフィス教信者が増えたことでオルフィス教自体が強力な権力を持ち始め、宗教軍を我が物として使うようになったのだ。
話し声が聞こえるほど近付いてきた。
「―――命に捧げられし癒し、彼の者を救済せよ……」
自身に"癒"属性の術をかける。
腹部の辺りや、他の切り傷にも温かな光が溢れる。
だがそれは数日、数時間の話で、一瞬で、とはいかない。
すぐに傷を癒したいときは術を使って治すしかない。
それに銀髪の少年、シロガネは。
「おい!例の『
赤と青をバランスよく配置した軍服を着たものが、シロガネを指差す。
思わず、早すぎだって、と呟いてしまう。
左手を突き出し、炎の塊を手の平から出現させる。
手首で軽く弾くように火の玉を飛ばす。
それは一直線にスピードをあげながら、シロガネを見つけた宗教軍兵の顔面に激突する。
悲鳴のような叫びを背に、シロガネは駆け出した。
様々なの属性を駆使し、時に跳ね、時に姿を消し、時に時を止めた。だが
人気の少ない路地に入り、周囲を確認して天蓋越しに空を仰ぐ。
もうこの都市に用はない。
地面のかわりに透明な板が水の上を敷き詰める、水上都市ハルワタートを出ることにした。
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