第7話 第二次上田合戦

一六○○年 九月 上田城

幸村 三十三歳


 徳川秀忠率いる三万八千。

 関ヶ原で行われようとしている徳川家康対石田三成の戦いに向かう途中の軍勢だ。

 対する真田軍は上田城に篭城する三千。

 上田城で秀忠軍を足止めすることにより石田三成優勢の状態を作る。

 秀忠軍には家康の参謀、本多正信。徳川四天王の一人、榊原康政。

 そして幸村の兄の信幸がいた。

 昨日の戦いで攻めてきた信幸に支城の砥石城を明け渡したため、真田軍に残るは上田城のみ。

 いくら上田城の守りが強固とはいえ、秀忠軍の兵数は十倍。

 敗れるのは時間の問題だった。

 ただ、指をくわえて敗れるのを待っている昌幸と幸村ではない。

 幸村は二百の兵と共に、秀忠本陣のある染屋原の近くに潜んでいた。

 昌幸の合図で一斉に奇襲をかけることになっている。

 昌幸の作戦はこうだ。

 秀忠本陣が上田城に気をとられている間に横から幸村隊が一斉射撃、その後突撃。

 混乱し、後退する秀忠隊が神川にさしかかった時、神川の堤防が切られ、秀忠隊が濁流に巻き込まれる。

 幸村隊は秀忠隊を可能な限り神川付近にまで後退させなければならない。

 昼過ぎ、上田城から銃撃戦の音が響くと同時に、幸村隊奇襲の合図の狼煙があげられた。

「幸村隊、構え!」

 幸村の掛け声と共に、鉄砲隊百人が秀忠本陣に鉄砲を構える。

「放て!」

 秀忠本陣に一斉射撃。

 横から突然鉄砲で撃たれた秀忠本陣は慌てふためいている。

「突撃!」

 続けざまに幸村を先頭に刀を持った百人が秀忠本陣に突撃する。

 この百人は幸村が抜擢した乱戦に強い百人だ。

 秀忠隊は混乱と共に確実に後退していた。

 しかし、想定外の人物がそこにいた。

 黒と緑色の甲冑に「無」と書かれた旗。

 榊原康政。その人である。

 上田城攻めに参加しているはずなのに。

 馬上の康政の周りだけが幸村隊の突撃に動じていなかった。

 全軍が後退しなければ意味がない。

 幸村は康政の元へと向かった。

 俺自らが討つしかない。

「榊原康正!」

 名前を叫びながら康政に突っ込む。

 康政は幸村の声に気づくと、嬉しそうな声をあげた。

「おお! 昌幸のせがれか!」

 康政は幸村に向かってきた。

 相手は馬上。

 そのまま馬に飛び乗って背中から襲うか。

 もしくは馬から引きずり下ろして襲うか。

 どちらの方が奴を確実に討てる?

 馬に飛び乗った方が一対一で戦える。

 地上には仲間もいるが敵もいる。

 康政が幸村の眼前まで近づいてきたところで、幸村は跳躍し、康政の馬上で背後をとった。

 と思ったが、康政は馬を半回転させ、幸村は康政の脇に落下した。

「ははは! 貴様を馬に乗せてたまるか」

 舌打ちと共に即座に体勢を整えようとする幸村だったが、既に康政隊の刀の矛先が囲んでいた。

 やられた。

「これは思わぬ拾い物じゃ」

 康政は笑いながら、仰向けの幸村を見ている。

 くそっ。こんなところで俺は終わるのか。

 家康の配下ごときに。

「者ども! やれい!」

 康政の号令と共に俺に向けられた刀が一斉に振り上げられた。

 その時、どこからか聞いたことのある鳴き声が聞こえた。

「クキキキキキキキ」

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