この小説ってヤラセだらけなんだけど!

ちびまるフォイ

心よ安易なハッピーエンドに還れ

「えーー、では、これから流れを説明したいと思います」


「流れ?」


「この小説の流れです。

 まず、世界的な規模で視力が悪くなるウイルスが蔓延します。

 メガネとかコンタクトとかつけても無駄です。めっちゃ見えません」


「はぁ……」


「みなさんは、ここで目が悪くなったように振る舞ってください。

 あと、この小説のオチは第六感が目覚めて

 目で見る必要がなくなるというものなので、くれぐれもバラさないように」


登場人物への案内が終わると、登場人物はふらふらと足元がおぼつかなくなった。


「くそ! なんだこのウイルスは! ぼやけて何も見えない!」


主人公は失った視力3.0に戸惑った。

そして、予約していた病院に自転車で直行する。


「先生、この病気はいったいなんなんですか!?」


「わかりません……。新種のウイルスかと思いますが……。

 私も感染してしまったので、目が悪くなって見えないのですよ」


「そんな!」


「くれぐれも外には出ないほうがいいですよ。

 空気感染だけでなく、雰囲気感染もしますし、

 すべての人の視力が悪いので、いつ自動車にひかれるかわかったもんじゃありません」


「なんとか治す方法を探してみます!」


主人公は病気の解明のために、ウイルス研究の第一人者のもとを訪れた。

そして――



「おい、なんだよこのクソ小説は」


「ストップストップ! 小説止めろ! なんだ君は!」


「なんだ君はってか。そうです私が……」

「おい、小説からつまみ出せ」


おじさんを小説から連れ出しても批判の種はまかれてしまった。


「なんで目の悪いのに、主人公は自転車乗ってるんだよ!」

「それに、視力0.1で自動車運転する人っているのか?」

「なんでウイルス第一人者と知り合いなんだ! おかしいぞーー!」


「うるせぇぞモブども! 整合性を気にするんじゃねぇ!!」


「ヤラセ小説じゃないか!」

「そうだそうだ! 本当はウイルスなんてないぞ!」


「焼き払え!!」


ガヤを黙らせたがあたり一面が火の海になったので小説は中断。

後日、また頭から小説を仕切り直すことにした。


けれど、翌日のニュースではこの一件がすでにスクープされていた。


『エキストラの扱いもひどいもんでしたよ。

 セリフ一つももらえないで、目の悪いふりをさせられてたんです』


『はい。目の悪くなるウイルスなんてありませんよ。

 それらしく振る舞ってくださいと指示されました』


『参加者にはシナリオが事前に配られていましたね。

 オチまで書いてあるので、余計なことはしてくれるなよって感じでした』


※プライバシー保護のため音声を変更しています



小説のヤラセ報道が加熱すると、あっという間にバッシングの嵐が吹き荒れた。


「小説プロデューサー、どうするんですか。

 このままじゃ小説のオチまでたどり着けませんよ」


「しかし、いまさらあの話の続きをしたって、批判で邪魔されるだろ」


「それじゃ、俺たちスタッフはこんな生煮えのまま投稿公開されるんですか!?

 モブからはヤラセ野郎だと後ろ指さされて!?」


その言葉にプロデューサーはひらめいた。


「それだよ! 奴らはヤラセだと批判しているだろう。

 あいつらの批判そのものをヤラセということにすれば良いんだよ」


「どういうことですか?」


「後出しで、批判厨どもの振る舞いをシナリオにするんだ。

 アイツラの批判はそのシナリオ通りにやってことだとバレれば、

 ヤラセだと批判する行為そのものが、演出ってことになる」


「すぐに内部作家を呼んできます!!」


スタッフは優秀な内部作家をスカウトして連れてきた。


「今のヤラセ騒動は知っているだろう?」


「視力ウイルスのやつですよね」


「ああ、そうだ。君には奴ら批判する側のシナリオを書いてくれ。

 この騒動が大きくなった頃合いでそれを発見して、逆に追求するカウンターをする予定だ」


「……わかりました」


「よく言った。逆らえば、お前の人物描写を赤ふん一丁にするところだったぞ」


作家はしぶしぶながらシナリオを書いていった。

ヤラセ批判するモブたちの行動を網羅したヤラセ台本ぽいものだった。


「しめしめ、せいぜい調子にのって批判すればいい。今に見てろよ」


のちに開かれた小説ヤラセ裁判では多数のモブと、プロデューサーが召還された。



「えーー。では、この度の視力ウイルスについての

 ヤラセ的な物語展開があったことについて審理をはじめます」


「異議あり!!!」

「まだ何も言ってませんよ」


「裁判長、それよりも彼らを追及すべきではないのですか。

 実はある筋からこういったシナリオを入手しました」


「こ、これは!! 批判するまでのシナリオ!?」


「そうです。彼らはさも自分の自由意志で我々を批判したかのように見せて、

 その真実はヤラセ台本に従って動いただけなんですよ!」


「ねつ造だ!」

「そんなシナリオ知らない!」

「勝手なこと言うな!!」


「……という、セリフも、ほらここに書いてあるでしょう?」

「たしかに……」


裁判長はシナリオに間違いがないことを確かめる。


「彼らは、視力ウイルスを批判して裁判シナリオに移行させようとする

 小説ハイジャック犯なんですよ! あっちを裁くべきです!」


「しかし……すでに裁判シナリオに物語は転がっているのでしょう?

 今さら、最初のに戻したとして、よろしいんですかな?」


「え? 裁判長? どうしたんですか急に。

 誰かに洗脳された?」


「すでに物語終盤である以上、ここからの舵取りは難しいと判断します」


慌てて作家の書いたシナリオを確かめた。

そこには批判している彼らだけでなく、この先の展開も書いていた。


オチは自分が謝って、仲直りの握手をして、仲良く夕日に向かっていくエンド。


「なんだよこれ……」


「あなたもヤラセをしていた。でも相手もヤラセをしていた。

 それって、似た者同士って事かもしれないですな。ハハハ」


裁判所がどっと笑いに包まれ和やかな空気になっていく。

すでに物語はハッピーエンド。


「さぁ、お互いに仲直りの握手をしましょう」


「これ以上逆らっても、オチがつかないだけで終わるよ」

「無駄に物語を長くすることになんの意味があるんだ」

「どうせ短編なんだからそろそろ終わらせるべきだ」


モブ達はシナリオを持って迫ってくる。


「なにもかもヤラセなんだ。逆らう意味なんてないだろう?」


「認めない! こんな……こんなシナリオいやだ!」


「いいから次のセリフを言え! それですべて終わる!

 何もかもヤラセで片付けるんだ!」


モブ達に取り押さえられて台本を突きつけられる。

そして、セリフを発した。


「見えない……」


「あ?」



「み、見えない! 本当だ! 急に何もぼやけてシナリオが見えなくなった!

 メガネをコンタクトを付けても変わらない! なんだ!? どうなってる!?」

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