第三話『初勝利はほんのり火薬のかほり』

「いいー!」

 紙芝居を母親達に手渡して、ドクソー星人戦闘員は戦隊五人へと近づいてくる。手には刀身が幅広で、両手で持たなければよろけてしまうような超重量の剣を握っていた。心なしか、刀身は曇っている。

 白い頭巾で顔を覆っているだけに、その様子は傍から見ると怖い。

「刀身が血で曇ってる!?」

「なんつー凶悪な武器だ」

 レッドとブラック以外の三人はなんとなく腰が引けている。戦闘員はその様子に興奮しているのか無意味ににやつきながら近づいてきた。顔がにやついているのはレッドの想像だが。

 その数は、十体。

「ふん。片手で十分だ」

「言うじゃないかニヒル男」

 ブラックが腰についたホルスターから銃を取り出す。六発まで打てるリボルバーマグナムである。ブラックは、レッドの言葉には特に反応せずに無造作に引き金を引いた。

 公園に空気を貫いて進む弾丸。

 六発の銃声は全て向かってくる戦闘員の胸に吸い込まれた。

 倒れ付すドクソー星人戦闘員。その胸から流れ出てくるのは赤黒い液体――。

「ひ、人殺し!」

 何故か子供達に紙芝居を見せていた奥様達は半狂乱になって叫び、自分の子供を胸に抱えて逃げ出していた。甲高い悲鳴が響く中で、残った四体の戦闘員は動かずにブラックの様子を見ている。ブラックは空になった弾倉に弾を補充する。

「異星人に赤い血が流れているとはな」

(ていうか、戦隊物なのにレーザーが出るような武器はないのな)

 何故か戦闘用のスーツはブレスレッドによって装着されるというのに、とレッドは心の中で思う。しかしすぐに思考を目の前の敵戦闘員に戻して、腰に右手を添える。

 そこには鞘に収まった剣があった。

「必殺剣・クリスタルゲイザー!」

 言葉を叫びながら腰の右手を引き抜くと、そこには剣が握られていた。まるで水晶から削り出したかのように、その刀身は光り輝き、日の光が反射して地面に虹色を浮かび上がらせている。

「行くぞ! 疾風怒濤剛力大虐殺【ジェノサイド・エクスプロージョン】!(注・意訳)」

 レッドはそう叫んで、まずは身近な戦闘員を切り捨てた。そのまま足を止めずに二体目の首を切り飛ばし、三体目は胴から真っ二つ。四人目は両手両足をめった刺しにした。

 一瞬で前の五体の後を追わせる。

 周りには戦闘員から流れ出た液体が染み渡っていた。


 説明しよう! 

 疾風怒濤剛力大虐殺【ジェノサイド・エクスプロージョン】とは、とにかく体力にものを言わせて敵をばったばったとなぎ倒す技なのだ!


「なんかとってもクレイジー」

 ピンクがマスクに覆われた口元に手を当てて震えながら言う。イエローにいたってはその光景を見れずに地面にむせっている。しかしグリーンは流れてくる赤黒い液体に指をやって付けると、マスクの隙間から自分の口に運んだ。

「でもどうしてトマトジュースが流れてくるんだろう?」

「体にいいだろう?」

 グリーンの問いに答えたのは戦隊の残り四人ではなかった。

 声のしたほうへと一斉に顔を向けると、そこには杖を突いた男がいた。

「さて問題です。最初は四本、次は二本、やがては三本になるのはなんでしょう?」

「……にんげ――げほげほ」

 まだむせていたイエローが答えていた。

「その通り。まあ私は人間ではないが!! 私の名はテイ・バーン! 【ドクソー星人地球制圧軍中隊長】である!! ちなみにこの姿は相手を油断させるものだ!」

 そう叫んだのは明らかに人間の男だった。齢は八十歳を超えていると言っても間違いではないだろう。ランニングシャツに身を包み、腹には腹巻。下は股引。足元は草履という出で立ちである。

 確かに戦えるようには見えないが、言ってしまってはどうしようもない。

「ふふふ……貴様らがあの名高い王道戦隊か。久しぶりに歯ごたえのある相手だ」

「有名も何も今日がデビューなのですけど」

 ピンクが律儀に応じるも、テイ・バーンはかまわずに会話を続けてくる。

「だが、私を倒せるかな? 戦闘員とは一味――」

「ふんばぁああ!!」

 その瞬間、イエローがテイ・バーンの右横へと回って蹴りを繰り出していた。その巨体にしてはかなり素早い動きである。

 ずっとふさぎこんでいたかと思えば、どうやらテイ・バーンの死角へと徐々に移動していたらしい。マスク越しでも顔の青さが分かることからも早々と任務を終わらせて寝たいのだろうが。

 しかしテイ・バーンは右手を掲げて重そうな一撃を受け止めていた。

 巨漢に物を言わせての蹴りを受け止められて、イエローは驚愕のうめきをもらして後退した。うめきはそれだけのものではなく、下がった先でそのまま地面に倒れた。流石に限界が来たらしい。

「お前はもう休んでなよ」

 グリーンがうつ伏せに倒れたイエローの背中をさすっている。レッドとブラックとピンクはテイ・バーンが口だけではないことを悟って警戒を強めた。

 テイ・バーンは手を振りながら言う。

「ふん……敵が話している間に攻撃してくるとは、『王道戦隊』の名が泣くぞ……おかげで骨にひびが入ったわ」

 顔はとても辛そうにゆがんでいた。脂汗まで滴らせて、周囲の地面が濡れている。

「強いのか弱いのかどっちだよ……」

 そう言いながらレッドは剣を身構える。ブラックも銃を向け、ピンクは腰にささっていた武器を取り出す。それは新体操で使われるようなリボンだった。

「油断せずにいくわよ! 女王様とおよび!!」

 何故か怖いことを叫びながらピンクが仕切って飛び出した。後に続いてレッドとブラックも走り出す。

 その瞬間、空気が変わった。

「電・光・石・火【ライトニング・レイ】(注・意訳)!」

 テイ・バーンが咆哮し、口を開ける。そこから飛び出したのは光の奔流だった。

 溢れる光に目をくらませながらも、三人は斜線上から飛びのいて、勢いを殺せずに倒れる。そのうちレッドは鉄棒を支えている柱に頭から突っ込んで、のた打ち回った。

 光が消えた後を見ると、特に何も変わっていなかった。

 破壊されたものは何も無い。その光景にグリーンは安堵して、テイ・バーンへと悪態を吐く。

「なんだよ……見掛け倒しか」

「ひゅん。ほのわじゃはほんなほのふぇはなひ(ふん。この技はこんなものではない)」

 テイ・バーンは外れた入れ歯を捜しながら言った。やがて目当てのものが見つかるとそれを口の中に押し込み、説明を続ける。

「この技を食らうと人間だけが消し炭になるという技だ。ただ射程距離が一メートルだが」

「じゃあ、あの光の長さは何なんだよ!」

「単なる視覚効果だ!」

 思い切り胸をのけぞらせて声高らかに笑うテイ・バーン。しかし、その直後にレッド達にも聞こえるほどの大きな音が空気を振るわせた。

 それはあたかも人の腰が砕けるような、そんな音であった。

「……ぬう。持病のぎっくり腰が」

 のけぞった体勢のまま固まるテイ・バーン。

「若いのか年取ってるのかどっちだよ……」

 そう言いつつも、剣を構えて瞳に凶器の光を灯しながら近づいていくレッド。

 明らかにこれから起こる惨劇を想像させるその瞳を見て、額に汗を浮かべながらテイ・バーンは呟いた。

「こうなれば最終手段だ! 巨大化!!」

 その瞬間、場の空気が急激に冷える。

 レッド達が感じたのは本能的な恐怖だったのかもしれない。とにかく、テイ・バーンから離れるとひとつに固まった。流石にイエローも吐き気をなくして立ち直っている。

 のけぞったままのテイ・バーンの体が震えながら巨大化していった。傍にあった二階建ての建物よりも高くなり、見た感じ五十メートルほどまでになる。

「やけに早いぞ!? もっと展開を考えろ!!」

「そんなこと言ってないでなんとかしなさいよ!」

 レッドが憤りを巨大化していくテイ・バーンへと向ける。それを横で抑えるピンク。

 グリーンもイエローもどうしようか分からずにぼんやりしている中で、動いたのはブラックだった。

「俺達も巨大ロボを要請だ!!」

 巨大ロボ、という言葉の響きに混乱から目が覚めた四人は、ブレスレッドに口を近づけて同時に叫ぶ。

『キングロードロボ! 発進!!』

 一番大きな声はブラックだった。

 出動要請により、彼らの本部の一部が割れ、そこから五体のロボットが出撃する。空を翔ける五体の勇姿。時間にしては一分も掛からず五人の下へとやってきた彼らを見て、戦隊の面々は驚愕した。戦隊物みたいな武器は無いのにロボがあるのはこれいかに。

「すごい……」

「呆気に取られるのは後だ! 乗り込むぞ!!」

 そう言ってレッドは飛び上がる。それと同時に体が急激にひきつけられ、彼は赤いフェニックスを形作っているロボのコックピットへと収まっていた。

「……すっげえ!」

 レッドもコックピットに乗り込んでから、凄さに呆気に取られた。

 彼はコックピットから見える視界に映る四体のロボにも心奪われていたのだ。

 自分が駆る赤いフェニックス。

 その他には黒い龍。

 黄色いゴリラ。

 緑の猿。

 ピンクの白鳥がいる。

 心の底から湧きあがる高揚感に包まれたレッドは勢いで叫んだ。

「王道合体!!」

 適当に身近にあったレバーを引くと、そのままフェニックスは変形を始める。他の機体も変形し、合体しやすい形状に変わっていく。

 鈍い衝突音。

 そしてコックピットが急に広がったかと思うと、他の四人が椅子と共にスライドしてきた。レッドは他の四人を見回して、呟く。

「中にいると、迫力ある合体シーンが見れないんだな」

 残念そうにレッドが呟くと、スクリーンにロボの全体像が現れた。

 フェニックスが胴の上半分。

 メインの体は黄色いゴリラ。

 足の部分は緑のサルとピンクの白鳥が担当。

 黒い龍は背中に付いていた。

『初陣を華やかに飾るのだ! この【ダイオウドウ】でな!』

 ロボの全体像にうっとりしている五人の前に、新たなスクリーンが映し出される。

 そこに見えたのは石島剛三だった。

 出動前に見た制服姿ではなく、アロハシャツを着て頭の上にサングラスまでつけている。その姿になんとなく殺意を覚えつつ、レッドは聞き返した。

「ダイオウドウ?」

『そうだ! このロボの名前だ』

 胸を張って答える石島に、グリーンがぼそっと呟く。

「大往生とかけてるんですか?」

『くるぞ!』

 思い切り話題を遮って石島が叫ぶ。そこでようやく自分達が戦闘中だったことを思い出した五人は、テイ・バーンの襲撃に備える。

 しかし、敵は巨大化を止めてから一歩も動いていなかった。

 そもそもこれまで攻撃がこなかったからこそ、石島との話を続けていたのだ。

 油断無く身構えていても、テイ・バーンには動く気配は全く無い。

 しばらく時間が経ってから、イエローが呟いた。

「もしかして、腰が痛いから動けないのかな?」

 その呟きがスピーカーを通して外に聞こえたのか、テイ・バーンが身じろぎする。

 どうやら図星だったらしい。

「……いくぞ! 必殺剣!!」

 レッドが叫び、ロボが背中についていた黒龍を手に取ると、それは剣へと変化した。

 黒光りする刀身がうっすらと光でコーティングされる。

 そしてその刀身は円の奇跡を描き、光の粒子が空気中に放出されていく。



 ――空気が、震えた。


『一・刀・両・断【ファイナル・ブラストスラッシュ】!(注・意訳)』


 五人の声がそろい、渾身の一撃がテイ・バーンへと頭上から振り下ろされる。

「最初だからか! この待遇はどうよーっ!」

 驚愕の表情を浮かべながらも動けないテイ・バーンは、真っ二つにされて両側へと倒れていく。

 そして、地面につく前に爆発――せずに砂となって消えていった。

 まるで最初から何も無かったかのように。

 後に残ったその砂さえも、五人が見ているその数秒のうちに消滅していった。

 ……残ったのは静寂。五人。そして、巨大ロボだ。

「……派手さが足りないな」

「ていうか、ピンクの白鳥って意味不明じゃん」

 テレビで見るような大爆発を期待して落ち込むレッドと、意味不明のツッコミをするグリーンを内包したダイオウドウは、その初陣を飾ったのだった。





「何はともあれ、終わったな」

 赤井豪は疲れきった声をそう言った。横を歩く四人も言葉には出さなかったが、疲労は隠せずに深く頷く。と、そこで気づいたことがあったのか、豪が止まった。

「そうだ。ブラック」

 豪の呼びかけにブラックだった男が立ち止まり、振り向く。二人が止まったことにつられて三人も立ち止まり、二人を見ている。

「お前、名前なんていうの?」

 ブラックは一瞬顔を引きつらせたが、クールさを前面に押し出した。一度咳払いをして間を取り、言葉を発する。

「俺か? 俺の名前は――」

「そんなことより疲れたから早く帰ろう」

 緑川栄太が見も蓋も無いことを言い切って、帰ろうとする。それを遮ったのは桃白伊織だ。長い髪を撫でながら、栄太を諭すように言う。

「そんなこと言わないで聞いてあげましょう? 名前覚えてもらえないのは寂しいわ」

 何か釈然としないものを感じつつも、ブラックだった男はもう一度咳払いをして、一気に言い切った。

「俺は黒場隆だ。……よろしくな」

『ああ。よろしく』

 残り四人が一斉に手を差し出してくる。その手を少し照れくさそうにしながらも、隆は握っていった。

「でも戦隊でいるときは色で呼び合おうぜ。なんかそれのほうが戦隊物っぽいし」

 伊織の気遣いを一刀両断する豪へと、隆は苦々しげに視線を向けていた。




 こうして、キングロードの初陣は終わった!

 だが敵はまだまだ凶悪な者達が控えている!

 邪悪な者達から日本を守れ! 頑張れ僕らのキングロード!

 王道戦隊、キングロード!!




『続く!!』







 次回予告!

 ついに戦隊としてドクソー星人の前に姿を見せた五人。

 だがそこには最初の強敵、幹部クラスの一人が待ち構えていた!


 次回、『王道戦隊キングロード』第四話。


『美しき戦士、その名はザンシン』


 五色の光が、敵を穿つ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る