第2話

 気のせいではない。やはり雨は強くなっている。コンクリートに弾ける雨粒の音が大きいのだ。


「信じるよ」


 普通に考えれば雨を降らせることが出来る人間なんてありえないだろう。よほどの雨女ではないかとも考えた。しかし彼女が雨を降らせることが出来るのを証明するように雨が強くなっているのは確かだった。それに、なぜか彼女が嘘をついているようには思えなかった。


 彼女はまたしても驚いたような顔をしてその後に少し笑った。


「あなたは優しいですね」


 いきなり強くなった雨だったが僅かにおさまった気がする。


「そんなことはないよ。それより、雨が強くなったのも君の力なんだろ?」


「はい。私が雨を降らせることが出来ると気づいたのは小学生の頃でした」


「私の能力についてわかっていることは二つ。意図的に雨を降らせたり止ませたりすることが出来ないということ、私の感情が雨に影響するということです」


「意図的にというと、例えば今から雨止んでくれと祈っても止まないということ?」


「そうです」


「なるほど。じゃあ君は感情に大きな変化があったときに雨を降らせてしまうことがあるということか」


「はい。こんなにすんなりと理解してくれる人は初めてです」


 雨の中泣いている女の子、会話の中で変化する雨、そして感情という言葉からある程度察することは出来た。


「じゃあ君は雨を降らせる能力を無くしたいということ?」


「私の感情ひとつで多くの人が雨に曝されるのは嫌なんです」


「そっか。さっきから質問してばっかりで申し訳ないが最後にもうひとつ、なんで泣いていたの?」


 彼女が雨を降らせる能力で悩んでいることはわかったが泣いている理由はまだわからない。こんなことを聞くのは良くないことだ。まるで路上に咲いている花を誤って踏んでしまったような罪悪感に襲われる。


「実は私、今日告白されました。でも、こんな私が人と付き合えるはずがないと思い断りました」


「そうしたらその告白をした男の子が『ちょっと告白されてるからって調子にのるなよ』と怒鳴ってきて私......」


 彼女の声が尻すぼみになっていくのと同時に雨が強くなっていく。


「君は悪くないよ。どう考えてもその男が悪い」


 もちろん彼女もそんなこと言われなくてもわかっていると思う。でも今の俺にはそんな言葉しかかけられなかった。


 彼女は少し俯いたままありがとうございますと言った。


 雨は次第に弱くなっていく。


「もし俺でよければ、役に立つかわからないけど協力するよ」


「それと......」


 少しだけ言うのを躊躇ってしまう。


「君は可愛いし優しいんだからもっと自信もっていいと思うよ」


 気がつくと雨は止み日が射す。


 彼女は少し頰を赤らめながらありがとうございますと言った。


 その後のことはあまり覚えていない。照れている彼女を見て何故かこっちも照れてしまったからだ。


 家に帰ってから携帯電話を見ると加藤優菜という人物から『今日はありがとうございました』というメールがきた。俺はそのメールに返信するか悩んで返信するのをやめた。


部屋の窓から空を見る。雨の止んだ西の空は赤く染まっていた。




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