71.弁解と新たな依頼
「参ったね。……言い訳になるが、
宗谷は先程シャーロットから受け取った、赤い魔石をメリルゥに見せた。
「
弁解をした宗谷に対し、メリルゥは一応納得したように頷いていた。
ミアも興味深そうに宗谷の話を聞いていた。彼女の方は、神聖術を限界まで行使し、魔力を使い果たして昏倒していた為、
「あの
「……まあ、そういう気持ちが多少あった事は否定しませんが。それよりも、シャーロットくんは優れた
宗谷は、若干早口気味になった事に気づき、言い終えた後、取り繕うように、わざとらしく大きな溜め息をついた。
しかし、メリルゥは
「……まあ、いいじゃないか。ソーヤ……あれは完全に誘われてるぜ。家でどんな
「止めてくれ。あの成り行きは、僕にとっても不本意だ」
茶化すように肘で小突くメリルゥに対し、宗谷は不快感を示した。
実際に不本意であり、シャーロットに正体を感付かれ、探られているのでは。と不安に思い始めていた。
自分の正体が魔術師レイである事を、今はまだ知られたくない。それが世間に知れ渡った時、宗谷としての冒険は終わりを告げるだろう。
不本意ながら
(……結局、女神の言う、世界の危機に直面するまでの
気持ちの正体など、とっくにわかっている。重責を好んで背負う英雄気質など、二十年前から持ち合わせて無かった。宗谷は勇者などでは無いのだから。
「ソウヤさん。シャーロットさんは良い人ですよ。私も
口を閉ざして話を聞いていたミアが、宗谷にシャーロットとの出来事を伝えると、柔らかに微笑んだ。
純真な物言いである。ミアの言う通り、基本的には親切な良い人なのだろう。そしてシャーロットの
「……あの、ソウヤさん。それと、私もシャーロットさんみたいに、ソウヤ様と呼んでもいいでしょうか?」
悪意の無い笑顔のミアの言葉に、宗谷は本気の溜め息と共に、両手で顔を覆うと、やや落ち込んだような、
「……いや。ミアくん。その呼び方は止めてくれないか。特に気に入ってる訳では無いんだ」
◇
翌日。
宗谷とミアは、新たな依頼を探す為、冒険者ギルドに足を運ぶ事にした。
まだ返事を聞いていなかったが、ミアと生活を共にしている、メリルゥも同伴していた。
シャーロットとかわした約束も頭の隅にはあったが、その事は棚上げする事にした。すぐに借りを返してとは言ってなかったし、そもそも宗谷やシャーロットが到達している魔術のレベルは、一日、二日の指導でどうにかなるものではなく、従って急ぎの用にはなり得なかった。
「昨日スレイルから帰ったばかりだが、大丈夫かね。すぐ依頼が見つかるとは限らないが、見つかって即出発という事もありえる」
「ええ。楽しんできただけですから。かえって体調は良くなったと思います」
ミアもメリルゥも、微塵も疲れた様子はなかった。
遊びに行っただけとはいえ、スレイルの森までは半日程の距離があり、旅慣れしてない者には中々厳しい距離だった。さらに森も歩き回ったとすると、以前にも思った事だが大したものである。
「メリルゥくん、君もあてにして良いのかな。僕とミアくんは正式に組んでいるが、君からまだ返事を貰っていない」
「……ついていけるレベルの依頼ならな。ミアが心配だからよ。……こないだの
「なるほど。では、よろしく頼むよ。……僕も
当分という含みを持たせたのは、セランやドーガ、ルイーズとの話題となった赤い角の
故郷を滅ぼされたセランの仇敵であり、イルシュタットで冒険を続ける限り、いつか相対する存在になり得る炎の悪魔。昔から何かと悪魔とは縁がある。冒険を重ねて行けば、いずれ関わる事もあるかもしれない。
◇
「……あら。こんにちは。依頼を探しに来たのね? 丁度良かった」
冒険者ギルドの受付には、受付嬢のルイーズが居た。
ルイーズの近くには、中背で、やや小太りである、髭を蓄えた中年の男性が座っている。傍には大きな
「……メリルゥ、貴方が必要な案件よ。彼はぺリトンさん。護衛で
「なるほど……わたしの出番か。ぺリトンさん。護衛なら、このメリルゥさまに任せな」
メリルゥが嬉しそうに、
自分の等級頼りという状況は嬉しい物なのだろう。少し前に、古砦の依頼で
「荷馬の護衛依頼。目的地は南東の街リンゲン。報酬は総額で金貨一二〇枚。戦闘があれば二割上乗せ。冒険者五名以上。
「うむ……そうは言ったものの、ルイーズさん。その
ぺリトンと呼ばれた行商風の男は、椅子から立ち上がり、メリルゥの顔や身体を一通り見ると、露骨に不安そうな表情を浮かべた。
「どう見ても、まだ、お子様じゃないか。……本当に大丈夫かね?」
「……ああ? 誰がお子様だ? おっさん、何処見て言ってるんだよ」
メリルゥが不機嫌そうに、ぺリトンに突っかかった。
お子様と判断したのは、幼い顔立ちと、フラット寄りな胸を見ての事だろう。それが彼女の癪に障ったらしい。
「まあまあ、メリルゥくん。……依頼人と揉めてはいけないよ。護衛依頼か。メリルゥくんが引き受けるのであれば、僕たちも御一緒させて貰いたいね」
「こんにちは、
宗谷が喧嘩にならないようにメリルゥを嗜めつつ、ぺリトンに対し、ミア共々護衛依頼を引き受けたい旨を伝えた。ミアもそれに応じ、控え目に挨拶をした。
「……むう。貴方は同業者の商人……いや、
ぺリトンは宗谷とミアの身なりを見て、メリルゥの時と同じように難色を示していた。
職業を指名しなかったのは経費を抑えたいからか、あるいは出発を急いでいるのかもしれない。もし急ぎであれば、交渉次第で、すぐ依頼にありつけそうではあった。
「ぺリトンさん。そういう時は、職業指名料を乗せるのがルールです。……メリルゥは精霊術の達人で、弓術、野営術、いずれも高い技術を持っています。
ルイーズが宗谷たちに助け舟を出すと、ぺリトンが
「……何っ?
「ええ。僕が宗谷です。はは、どれくらい噂になってるかは知りませんが。丁度依頼を探していた処でした。ぺリトンさん。もし良ければ、彼女共々、依頼を引き受けさせて貰いたい」
「それは是非、お願いしたい。……よろしくお願いします。ソウヤさん。……それと、サインを頂けますかな」
ぺリトンが興奮した様子で、
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