72.草妖精と知識神の神官
「ソウヤさん。リンゲンの街はご存知ですかね?」
「ええ。南東の山道を越えた処にある街ですね。訪れたのは随分昔の事ですが」
宗谷は行商人のぺリトンにせがまれたサインを書きつつ、二十年前の冒険を想起した。
依頼で一度訪れた記憶のある街だった。ただ、拠点にしてた事のあるイルシュタットと比べ記憶はおぼろげで、これといった印象を持っていなかった。
「高級
ぺリトンは安心しきったように笑っているが、宗谷は彼が
冒険者には等級による序列というものがある。冒険に関係の無い平常時ならともかく、依頼において今一番高い
「……募集人員は五名以上という事でしたね。ルイーズさん」
宗谷はルイーズに確認をした。今集まっているのは、
「ええ。待機中の
ルイーズは冒険者ギルド内で待機している、十名程の冒険者に呼びかけを行った。
メリルゥが来るまで
「んー……オイラも護衛に参加していいかな。
一早く手を挙げて、カウンターに近寄って来たのは、薄く軽量な革鎧を身に着け、やや癖のある茶色の髪と瞳をした、小柄な少年だった。彼は耳が大きく、そして耳の先端がほんの少し尖っていた。
(……おや、
「ソウヤ兄さん、よろしく。オイラは
「よろしく、タットくん。笛吹きか。是非演奏を聴かせて貰いたいね」
タットは宗谷に笑うと、腰に下げた縦長の布袋から、木製のフルートを取り出して、即興の演奏を始めた。
金管フルートのような高級な音色ではないが、柔らかな音色が中々心地良い。演奏の腕前は中々良さそうに思えた。宗谷が彼を観察すると、腰に投擲用のスリングショットとダガー、それと数本の針金を下げているのが見えた。笛吹きは副業の為の一芸で、彼の本職は恐らく
冒険者ならば
一分程の簡易な演奏が終わり、お辞儀をするタットに宗谷は拍手をし、タットに一枚の銀貨を手渡した。
「……おい、タット。オマエ、護衛なんてこなせるのかよ」
メリルゥが、銀貨を貰って喜んでいるタットの傍にやってきて、ちょっかいを入れた。
メリルゥは身長一五〇センチちょっとくらいの背丈だが、タットはさらに低い。一三〇センチ程度で、見た目は耳の形を除けば、人間の子供同然だった。
「あっ。メリルゥ姉ちゃん! うん。護衛なら少しいけるよ。
タットは呼吸をしながら、徒手空拳による戦闘の
「悪くない構えだね。メリルゥくん、タットくんとは知り合いなのだね?」
宗谷が訊ねると、メリルゥは、何とも言えない表情で溜息を吐いた。
「知り合いと言えば知り合いだな。……
「でもオイラの方が、メリルゥ姉ちゃんより、少し客が多いと思うよ」
「……タットは
妖精族同士は、
そして、タットは
「ふむ……
ぺリトンはタットに対しては、これといって興味が無さそうだったが、参加を拒む様子も無かったので、内定と考えて良さそうだった。残る募集人員はあと一名。
「あの……あたしも、参加しても構わないでしょうか?」
タットに続いて、手を挙げ、カウンターに歩み寄ったのは、
「……アイシャさん、お久しぶりです。……あの、お元気でしたか?」
「……ミア。こんにちは。……一応、元気。……あの、あたしは
ミアと面識があるらしい、アイシャと呼ばれた女性は、随分と
(……
宗谷はアイシャを観察していた。先程カウンターに近づく時も、荷物が重いのか、少し足取りがふらつき加減であった。体力面に問題を抱えているのかもしれない。
その上で
「……アイシャくんと言ったね。護衛は山道を通る事になるようだが。大丈夫かね?」
宗谷はアイシャに尋ねた。アイシャは宗谷の質問に対し、無言で少し迷った素振りを見せていたが、やがて口を開いた。
「大丈夫……だと思います。……山道を歩いた事は無いですが。……今回依頼にありつけないと、大切な本を売らなくてはいけなくて。……どうしても、参加したいです」
アイシャの返事は、あまり頼もしいとは言えなかった。要は経験は無いが、切羽詰まって不慣れな依頼を受けたいという事である。
とはいえ、誰もが最初は初めてであり、経験という物はゼロから積まれていく物である。もしこの依頼を達成出来れば、彼女にとって、良かれ悪かれ一つの経験となるだろう。
「ふむ……どうにも、バランスが悪い気がしますな。ですが、ソウヤさんが居れば大丈夫ですかね?」
ぺリトンが先程とは変わって、やや不安そうに宗谷に尋ねた。
確かにある程度の偏りは覚悟していたが、若干面子が魔法使いに寄っている気がした。そして専業の
宗谷は冒険者ギルドの中を見回したが、どうも待機中で
二名ほど
「……まあ、問題無いでしょう。
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