45.報酬と一つの別れ
砦での激闘を終え、イルシュタットに帰還してから三日後。冒険者ギルドから報酬が正式に渡される事になった。
金貨八二六枚を五等分すると、一人あたり金貨一六五枚ほどとなるが、宗谷の強い希望で、トーマスとレベッカに多く報酬が割り振られることになった。殆どの
七等分で計算して報酬は一人あたり金貨一一八枚。トーマスとレベッカだけ、二人分である、金貨二三六枚分の報酬が渡された。
翌日。討伐隊として参加した宗谷たち五名は、町外れにあるイルシュタットの馬車停留所に居た。メンバー二名を失った
「ソウヤさん、世話になったな……ありがとう、こうして生き残れたのは貴方のお陰だ」
停留所の馬車の前で、狩人のトーマスが、宗谷に頭を下げた。
「トーマスくん、助けられたのはお互い様です。……故郷の村に帰るのですね。それと冒険者を辞めると聞きました」
「ああ。ランディの両親に報告をしなくちゃいけないし、レベッカはしばらく療養が必要だ。放ってはおけない……勇者の従者としての役目は終わった。俺は狩人に戻る」
トーマスは元気が無かったが、精神が不安定な状態のレベッカと違い、しっかりとした受け答えが出来ていた。飄々とした性格の彼は、村に戻ってからも心配は無さそうに思えた。
「それより、かなり報酬を貰ってしまったが、本当にいいのか……?」
「これから色々大変でしょうから、遠慮無く。ランディくんの遺族への補償や、村行きの馬車の代金もあるでしょう」
「しかし……」
「トーマスくん、年配の者の奢りは素直に受け取る物だ。歳を取ると、何かと若者に対して格好付けたくなる。わかってくれたまえ」
宗谷は微笑を浮かべ、気取ったようにトーマスに伝えると、無表情だったトーマスは、少しだけ表情を崩し、笑みを見せた。
「わかった。素直に受け取っておくよ。……ソウヤさん、貴方の事は忘れない」
会話の後、宗谷とトーマスは堅い握手を交わした。
「あばよ、トーマス。弓の並び撃ち、楽しかったぜ。……最後に。わたしとお前、どっちの方が、弓の腕が良かったかな?」
メリルゥはにやけたように笑うと、上目遣いでトーマスを見上げた。勝ち誇ったような態度からして、彼女は自分の方が上手いと思っているようだった。命中率でも数えていたのかもしれない。
「そりゃ……俺かな。弓のでかさが違う。……メリルゥさんの玩具みたいな弓じゃ、二回当ててやっと俺の一回分だ」
「……お、玩具って、おまえ、言い方をな! ……んなでかい
上背が四十センチは違う、トーマスとメリルゥでは、手持ちの弓のサイズが大きく異なっていた。メリルゥの
「はは、俺は力が取り柄だからな。……でも冒険者としてはメリルゥさんの方が上だ。風はトモダチって言ってた意味がよくわかったよ」
「……ふん、いい狩人になれよ」
メリルゥは、トーマスの誉め言葉に機嫌を直すと、トーマスの広い背中を叩いた。
「……トーマスさん、どうか、レベッカさんをよろしくお願いします」
ミアは、心配そうな表情でトーマスに頭を下げた。レベッカは、馬車の中でランディを納めた柩に寄り添ったまま、挨拶には来なかった。
「ああ、任せておけ。……すまなかったな。ランディの事で色々。まぁ、あいつなりに真面目な思いがあったと思う、あくまで、俺から見た感じでだが」
トーマスの言葉にミアはうつむいた。ランディやレベッカを含めた人間関係に悩まされていたが、このような形でレベッカと和解をする事になったのは、彼女にはとても辛い事だろう。
「あとは、レベッカが挨拶に降りてこなくてすまないな。……でも、ソウヤさんが、ランディの亡骸を助けてくれた事を強く感謝してた。俺からも礼を言う」
それを聞いて、宗谷は少しだけ心が軽くなった気がした。ランディの亡骸が残った事は、せめてもの慰めにしかならないかもしれないが、今の彼女にはそれが必要かもしれない。
「……皆、それじゃあな。縁があったら、また会おう」
トーマスとレベッカ、そしてランディの柩を乗せた馬車は、三人の故郷へ向けて走り出した。その様子を宗谷たちは、馬車が見えなくなるまで眺めていた。
「さて……あいつらの見送りも終わったし、帰って飯でも食おうぜ」
メリルゥのあっけらかんとした声に対し、宗谷もミアも、別れの余韻が残ったままなのか、沈黙したままだった。
「……なんだなんだ、二人とも暗いな。……よし、今日はわたしの奢りだ。派手に飲み食いしようぜ」
「おや、メリルゥくん……いいのですか?」
「ソーヤ、お前、年配の者の奢りは素直に受け取る物と、さっき言ってただろ。……言っておくが、わたしの方が年上なんだぞ」
年上ぶるメリルゥを見て、宗谷は笑うと、メリルゥの髪をくしゃくしゃと撫でた。
「メリルゥくんは、いい子ですね。では遠慮なく御馳走になります」
「あっ……ソーヤお前、くそっ、皆して子供扱いしやがって……ふざけるな!」
メリルゥが頭から宗谷の手を払い除けると、宗谷を睨みつけた。
「くくっ……では、ミアくん、行きましょうか」
「……あ……待ってください」
笑いを堪えながら、身を翻して歩き出した宗谷を追うように、ミアも歩き始めた。
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