37.白銀級の冒険者達

 闇司祭ダークプリーストの討伐および風を断つ者達ウィンドブレイカーズの勇者ランディと神官戦士バドの救出依頼は、白銀級シルバー相当の案件と定められた。

 だが、臨時のパーティーを結成した、宗谷とミア、それと風を断つ者達ウィンドブレイカーズの狩人トーマス、女魔術師レベッカの四人の中には、白銀級シルバー持ちは居なかったので、白銀級シルバーの冒険者を誘い、パーティーリーダーになって貰う必要があった。

 四人は冒険者ギルドの隣にある、冒険者の酒場に向かったが、まだ時間が早い為か空席が目立ち、店内には、少数の冒険者の客が居るだけであった。

 

「僕は誰がどんな等級ランクか知らないので。お誘いは、皆さんにお任せします」


 宗谷が仲間を見返すと、トーマスが顔をしかめていた。トーマスの視線を追ってみると、壁際の席に二人組の男が陣取り、談笑をしている。

 一人は銀髪を七三分けにした長身の男。板金鎧プレートメイルを纏っているので、おそらく戦士ファイターだろう。もう一人はボサボサの長い赤毛を後ろで結った男。くたびれた革鎧。右眼に眼帯。腰には二本のダガーと盗賊道具シーフツール。こちらは盗賊シーフで間違いなさそうだ。


「トーマスくん。彼らがそうですか」

「ああ。とりあえず話をしてくる」


 トーマスは浮かない顔で二人組の男の方へ向かった。宗谷はミアやレベッカの方を見ると、彼女たちも何やら不安そうな視線を送っていた。


「ミアくん。彼らをご存じで」

「ライドさんとジャッカルさんのコンビです。等級ランクが以前と変更が無ければ、二人とも白銀級シルバーの冒険者の筈です」

「訳ありですかね」

「ジャッカルさんの方。いえ……今は止めておきます」


 何かを言いたげそうにしていたミアだったが、口を閉ざし、両手を組んで祈るような仕草で俯いた。


「ライドさん、ジャッカルさん、力を貸してもらえないだろうか」

「……ん? なんだ。トーマスじゃねえか。お前、まだ勇者野郎のパシリやってんのか」


 軽蔑するような口調のジャッカルに対し、トーマスは深々と頭を下げた。


「ま……お前のパシリっぷりに免じて、話だけは聞いてやるよ。ほれ、金貨1枚」


 ジャッカルは、トーマスに不慮の事態が起きたのを察したのか、ニヤついていた。トーマスは無言のまま、腰に下げた革袋から1枚の金貨を取り出し、テーブルに置いた。



 トーマスが風を断つ者達ウィンドブレイカーズに起きた事と、ルイーズが出した再依頼の事をライドとジャッカルに説明した。二人は無言で聞いていたが、話が深刻になるにつれ、ジャッカルの表情は愉快そうになっていった。

 

「……おい、ライド、聞いたか? 風を断つ者達ウィンドブレイカーズがしくじったんだと。あれだけ調子こいててな。ウケるわ」

「おい、ジャッカル」

「あは……あはははっははははっ……! ざっっっまぁねえなァ! あの勇者の小僧、ヘマしやがった!」

「ジャッカル。止せ」

「さんっざん人を下衆呼ばわりしやがって! いい気味だなぁオイ!」 


 腹を抱えて悪趣味に笑うジャッカル。ライドは舌打ちすると、呆れ顔で溜息を付いていた。一応ジャッカルを咎めてはいたが、強く止める気は無いようだ。


「……ひ、酷いじゃないですか! ジャッカルさん、なにが、何がそんなにおかしいんですか!?」


 レベッカが前に出ると、殆ど泣きそうな表情と震え声で、ジャッカルに抗議をした。


「レベッカちゃん、俺は君には同情的だぜ? あの勇者野郎は、君を見てなかった。……一途にずっとついてきたのに可哀想になァ」

「そんな事は、今は関係ないじゃないですか……それに、私が好きで勝手についていって……」

「はっはっ、あの自己中野郎に、天罰が下ったのさ」

「ううっ……うううう」


「ジャッカルさん」


 ミアがジャッカルと泣き崩れたレベッカの間に入り、ジャッカルを睨みつけた。


「おっ……ミアちゃんじゃねえの。お久しぶり」

「レベッカさんは、ランディさんが心配で仕方ないんです。貴方がランディさんと仲が悪いのは知っていますが、心無い言い方は止めてください」

「怒ってる顔も可愛いねえ。でもさ、ミアちゃんだって、本当はあの野郎が嫌だったんだろ?」

「それは今は関係無いでしょう。……ランディさんが無事であって欲しいと思っています」

「へぇ……」


 ジャッカルは、舌なめずりすると、ミアの身体を舐め回すように見ると、腰のポケットから、白銀級シルバーの冒険者証取り出した。


「なぁ、ミアちゃん。この銀ピカが必要なんだろう? ……それなら、ミアちゃんが一晩お相手してくれれば、喜んで協力するぜ」


 ジャッカルはニタニタ笑うと、ミアに手を伸ばそうとした。


「流石に度が過ぎるのでは?」


 宗谷がミアの間に入り、ジャッカルの手首を掴んだ。


「……てめぇ、何者だ?」

「宗谷と言います。……ランディくんに下衆と言われたそうで」

「喧嘩売ってんのか……離せよ」


 ジャッカルは宗谷を睨みつけるが、宗谷は臆する事も無く、手首を掴み続け続けた。


「……正しいのでは。下衆そのものだろう? 不愉快極まりない」

「……なに締め続けてやがる! 離しやがれ!」


 無理矢理拘束から逃れようと、ジャッカルが力を込めた瞬間をあえて狙い、宗谷は手を離した。


「うおおおっ!」


 ジャッカルは勢い余ってバランスを崩し、派手に転倒しかけた。


「離してやりましたが」

「……眼鏡野郎。……くそっ……てめぇ、ぶっ殺してやる」


 宗谷は、普段冗談をかわす時のような薄い笑みは無く、殺気を帯びた冷たい視線を向けていた。一方、恥をかかされたジャッカルは、ダガーに手を伸ばしかけたが、ライドがその手を抑えた。


「ジャッカル、いい加減にしろ! ルイーズさんに迷惑をかけるな。……ソウヤと言ったな、すまない。察しの通り、コイツは根っからのクズ野郎で、俺も手を焼いている」

「おい、ライド、相棒に対してそういう言い方はねえだろ?」

「黙れ。お前が盗賊ギルドの幹部じゃなければ、とっくにぶちのめしてる。いや、その前にルイーズさんがお前を斬り捨ててるな」


 ライドが今度は強く嗜めると、ジャッカルは悔しそうに舌打ちし、今度は黙り込んだ。


「トーマス、お前の話はわかった。だが、依頼の誘いの件。答えはノーだ。先程の話、甘く見積もっても、白銀級シルバーで受けるのはリスクが高すぎる」

「……ライドさん。どうしても無理ですか? 貴方はランディとは仲が悪くなかったようだから、少し期待をしていた」


 トーマスは縋るようにライドに頼んだ。最初から性格に難のあるジャッカルを除いて、彼だけを連れて行きたかったのかもしれない。


「……闇司祭ダークプリーストが居たと仮定しよう。少なくともそいつは小鬼ゴブリン二十匹以上を従えるだけの強制力と統率力。そして、ランディとバド二人を相手にして勝てる戦闘力。……これは楽な仕事じゃない。お前が一番良く知ってるだろうが、ランディの奴は腕は確かだ。それを負かした奴の相手はしたくない」


 ライドは冷静に依頼内容の分析を披露すると、なおも続けた。


「これは黄金級ゴールドの案件で出すべき依頼だよ。ルイーズさんが、一刻も早く救助を行いたいから、査定を一段落としたとしか思えないな。あの人らしくない」

「……なるほど、冷静な分析だ。ライドくん、貴方の言う事は一理あります」

 

 宗谷はライドを称賛した。敵戦力をよく分析をしている。だがそれ故に、勧誘が上手くいかなさそうな流れに、傾いてしまいそうだった。

 

「ソウヤと言ったな。もしアンタが黄金級ゴールド並の実力でもあるならば、ルイーズさんの見立てもわからなくもないが。……見ない顔だ。新人ルーキーか?」

「これが冒険二回目となります。……ライドくん、貴方に来て貰えるなら助かります」

「……すまないが、他を当たってくれ。救助の成功を祈ってる」


 ライドという男は慎重だった。同じ白銀シルバーの戦士でも、ランディとは真反対の性格のように思えた。


「残念。……やれやれ。振り出しに戻ってしまった。困ったものだ」


 白兵戦および魔法戦、両の戦術に長けた宗谷でも、冒険者証の色だけはどうにもならなかった。何としても白銀級シルバーを見つけて勧誘しなくてはいけないが、この二人の男を説得するのは最早不可能だろう。

 その時、酒場の入り口から、何処かで聞いた事のある声がした。


「……さて。今日も稼いだな。……こんだけあれば、若鶏のハーブ焼きが三人前は食えるぜ」


 宗谷が振り向くと、銀髪のおさげをした森妖精ウッドエルフの少女が、酒場の入り口に居た。


「このタイミングで、唯一の白銀級シルバーの知人と会えるとは……やあ、メリルゥくん。五日ぶりだ」

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