4.野盗集団との戦い
宗谷を囲む四人の男達はじりじりと包囲の輪を狭めるが、なかなか攻撃してこなかった。
一瞬で一人を制圧した手際を警戒しているのか、あるいは仕掛けたタイミングでカウンターを狙っているのか、それとも降参を待っているのか。各々の連携が取れていないが故の膠着状態かもしれない。その状況に対し、宗谷は打開の一手を思案する。
(ふむ。――少し、挑発をしかけてみるか)
宗谷は小さく息を吐き、言葉を紡ぐ準備を終えた。
「いつまで囲っているのかね? 僕はいい加減この状況に飽きてきたよ」
緊張状態を打ち消したのは宗谷の呆れ声だった。男の一人が、それに苛立ったのかダガーで宗谷の顔を勢いよく突く。
宗谷は男のダガーの突きを紙一重で回避すると、クロスカウンターを顔面に叩きこんだ。
「がはっ!」
「六〇点。顔狙いは悪くなかった。だが、君の刃は届かない」
まともにカウンターを受けた男は失神し、崩れ落ちた。男の手から緩んだダガーを、宗谷は素早く奪い取る。
「隙を見せたな! くたばれ!」
同時に行動に移っていた首領らしき男の
「はは、なにッ……! 刃が止められた……だと!」
完璧に直撃させた筈の親玉らしき男の
「本当に良く出来てるスーツだ。この程度の攻撃なら抜けないという事か」
女神エリスから頂いたビジネススーツに施された、高レベルの
(まあ、叩きつけられた衝撃は少し残るか)
宗谷は薙がれた腹の部位を少しさすった。小さな
「……
「汚い? 君達がそれを言うのか」
宗谷は男から奪ったダガーを弄びながら、呆れたような表情を浮かべた。
「だったら剥き出しの首を狙ってやる!」
動きを見せてなかった男の一人が宗谷の首筋を狙う。だが、そんな
「ぐっ……げぼっ」
「二〇点。狙うなら「狙ってやる」なんて声に出すべきではないな。それがフェイントとして機能しているなら別だが」
刃を受け止めると同時に、宗谷の膝蹴りが鳩尾に入っていた。この男も口から泡を吹きながら崩れ落ち、そして失神した。
「……だ、駄目だ、こ、行動を見切られてやがる。……逃げるしかない!」
囲っていた男の一人が囲いから逃げようとしていた。宗谷はその背を見せて逃げる男に対し、片手でダガーを構え、もう片手で黒眼鏡に触れた。女神エリスから貰った黒眼鏡には、相手の弱点がおぼろげに分かる
(彼の弱点は――左足の脛に強いオーラが出ている。脛に傷を持つか。
宗谷は逃げた男の左足の脛に向けて、ダガーを投擲した。
「ぐああああああああああああああ!」
絶叫。逃げた男は左脛にある古傷をダガーにより抉られ、悶絶しながら倒れ込む。相当の激痛のようだ。
「古傷かね? 申し訳ない。あえて左脛である必要は無かったかな。そんな肉厚のダガーが刺されば何処だって基本痛いのだから」
あまりの絶叫ぶりに、宗谷は若干申し訳無さそうに
「さて、あっという間に、囲いは君だけだ。君が親玉か」
「……何者だ? おかしい。おかしいぞ」
「なにもおかしくない。想定通りだよ」
「おかしいぞ、おかしい……何かの達人みたいな動きだ」
「君たちのレベルが低すぎるだけだろう」
「……今から降参。……って訳にはいかねぇか」
「再起不能にはなって貰う。二度と武器が握れなくなるくらいには」
宗谷は冷酷に淡々と告げる。眼鏡の奥の鋭い視線が首領を刺した。
「くそがァ……!」
親玉らしき男は恐慌寸前になり、そして自棄気味に宗谷に向けて
ただ、自棄気味とはいえ、ビジネススーツのどの部位を攻撃しても、防護により
「狙いは良いが、狙ってるとわかれば、対策は容易い」
宗谷は大振りをバックステップで難なくかわすと、前進し、親玉らしき男の首筋に手刀、続けて顔面に拳、最後に顎に飛び蹴りを放った。
「がはっ……強すぎる……ッ」
親玉らしき男は吹っ飛びながら地面に崩れ落ちた。
「五〇点。一発逆転を狙い。その意気は良いが」
宗谷は倒れた親玉らしき男の
「ぎゃあああああああ!」
「……力尽きて倒れている時に、
激痛からか、親玉らしき男は今度こそ失神したようだった。囲いを全滅させた宗谷は一息つくと、ビジネススーツの
(終わりか……いや、敵は確か、囲いに参加した四人以外にも一人居たはずだ。そいつは何処に隠れている)
宗谷はもしやと、
「やれやれ、すっかり失念していた。零点だ。全く……僕は
与えられた仕事は、きっちりこなすのが宗谷の主義だった。だが、与えられた仕事に夢中になりすぎて、画面の外の出来事が意識から抜けていた。そして、それは言い訳にならない失態である。
「……このバケモノ眼鏡野郎、動くんじゃねえ!」
「……あ、あわわわ。ご、ごめんなさい! 捕まってしまいましたっ!」
一〇メートル先で此方の様子を伺っていた神官の少女の元に、囲いに参加しなかった一人の男が丁度到達していて、
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