Refrain♯4

機材を確保するだけでも死に物狂いだったわ。

だって、全部埋められたんだから。

ギターも、ベースも、ドラムも、キーボードも。


マイクも。


「よし。セキュリティが切れたよ!」

「スコップ、持ってきた?」

「ああ。穴掘り、得意?」

「知らないよ! 初めてなんだから!」


みんな少しでも闇に紛れようと思って黒のTシャツにブラック・ジーン。


多分、数百年前からありとあらゆるものが埋め尽くされてきたこの都市ポリスの集積場。海の風も金属とプラスチックとそのどちらでもない物体との匂いで澱んでいるわ。


「メル。あなたは無理でしょ」

「どうして?」

「だって、そんなに綺麗な白い手でさ」

「ふふ。貸して」


イサキから受け取って、昔取った杵柄ならぬ『スコップ』を大地に突き立てたわ。


「お・お・お・おおーっ!!」


あら。

みんなびっくりしてる。


「すげえな、メル・・・」

「あらネマロ。昔はもっとすごかったのよ。一晩で楽器だけでなくってアンプからPAから全部掘り起こしたわ」

「? 昔・・・?」

「なあ、メル。メルって一体何者なの?」

「さあ。多分ただのヴォーカルだわ」

「ぷ」


『ぷはははははっ!!』


みんなして大笑いしながら掘りに掘ったわ。

それにしてもこんな深くまで埋めるなんて。カナタさんの情報がなかったら出るあてもない明後日の場所を空堀りするところだったわ。


「ああ・・・」


ちょうど狭い湾の短い水平線に光の筋が見え始めてきたの。


「知らなかった。昇り始めの太陽って、こんな色なんだ・・・」

「そうよ。ほんとに眩しい光は銀色なの。わたしの髪みたいにね」


泥除けのスカーフを思い切り引き剥がしたら、わたしの銀髪がなびいたわ。

みんな、繊維の一本一本みたいにお日さまにきらめくわたしの髪を讃えてくれた。


「なあ。やろうよね」

「うん。やってやるよ!」

「メル。一発、キメてくれよ!」


ええ。

リクエストにお答えしましょうか。


「じゃあみんな。手を重ねて」


ちっこい手、大きな手。弦やスティックのストロークで傷だらけの手。


右手を重ねて、女子だけのわたしたちバンドのお約束。


「We are still.......」

『alive & kicking!!』


ふふ。青いっ!


みんな大はしゃぎよ。

だって、明日はギグだもの。


命がけの。

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