one・days 「1.10」始まりの日の先へ

仲仁へび(旧:離久)

序章

第1話 秘密基地:中学2年生(4月)



 彩葉町さいはちょう 星降りの丘 秘密基地(旧温泉施設) PM6:00


「はぁ、今日の授業……全然分からなかったな」


 通っていた中学を下校して寄り道した俺は、ため息を付きながら一つの建物に入っていく。

 

 小高い丘の上にあるその建物は、幼なじみの少女が「秘密基地」と呼んでいる場所だ。


 そこは、学校帰りに集まって、宿題をやったりだべったりする為の場所で……。


 俺やその幼なじみの少女、学校の先輩や友人が、学校帰りや休日に何となく集まるたまり場のような場所でもあった。


 経営がとん挫したとか言って廃墟となったその建物は、元は温泉施設だったのだが、今は俺達の集会所。

 割とお金持ちであるというらしい女性先輩……九条桐谷先輩が、己の家の資金力を発揮して、使えるように改装したのが今の状態だ。

 学生でありながら製薬会社のアドバイザーみたいな事をしている彼女に、この場所を紹介してもらった時はとても驚いたものだ。


 放置されていた当時は茨が覆い放題で、埃も積もり放題だったらしいが、足を踏み入れた建物の中はけっこう綺麗だった。


 受付らしいホールを通り過ぎ、休憩所用に作られた畳の大部屋へと移動する。

 俺を含めてこの場所を利用する人間は、全部で四人しかいないというのに。

 100人ぐらいが並んで座っても余裕のある部屋だ。


 そんな持て余し気味の大部屋のふすまを開けると、先にやって来ていたらしい少女が眠りこけていた。


 元々あったこの施設の備品……長テーブルに突っ伏して寝息を立てている少女の姿が。


 彼女の名前は風見茉莉かざみまつり

 俺の三個下の幼なじみの少女で、小学五年生だ。


 ちなみに俺は中学二年生。茉莉が先に来ているのは、単に小学生の方が学校が早く終わるからだ。

 部活をやっていれば、もう少し遅い時間になるのだろうが、茉莉は何にも所属していないので、下校時間が来たらすぐこの秘密基地に足を運んでいる。


「すー」


 俺は寝息を立てる茉莉に近づいて、その方を掴んで揺する。


「おい、茉莉。手が止まってるぞ。というか寝るな」

「んにゃ……、なーに未来ー。あたし、寝てないよー。寝てないで……すー」

「寝てただろ。いや、寝るな。ほら、起きろって」

「寝てないもんー」


 隣の少女を見つめてみるが、目が開いてない。


 長い栗色の髪に、猫の様な丸い目、実年齢より二、三は下に見られる子供っぽい顔つきをしたその少女……茉莉は、俺の言葉に言い返してきつつも目を閉じて、再びこくりこくりと船を漕ぎ始めた。


「はぁ……」


 ため息で遠回しに文句を言ってみるが、どうやら無駄に労力を使っただけのようだ。

 返って来るのは心地よさそうな寝息のみ。


 横に座って宿題を広げていると、茉莉が動き始めた。

 それで、体を真っすぐにしているのが難しくなったのか、小さな頭がころんと横に座った俺の膝に転がり込んでくる。


 茉莉はその姿勢からもぞもぞと身じろぎして、俺の膝を枕にしてちょうどいい場所を求め、何度か頭を動かした。


「どけ、痺れるだろ」

「むにゃー」

「……ったく、しょうがない奴だな」


 邪魔だという事を伝えるのだが、少女は全く聞きやしない。

 諦めて、枕と化してやることにした。


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