ルザーの過去

俺は、幼少の頃の記憶が余りない・・・気づいた時には剣を振っていた・・・一心不乱に剣を振り・・・気がついたら、周りには俺の剣を超える者はいなかった・・・指導者さえ俺は勝ってみせた・・・その所為か、俺は周りから浮いていた・・・・


親は居ない、物心ついた時から、この教会内の学び舎で過ごし、剣を振り、仕事をし、一般常識を学んだ・・・だからこそ、浮いてしまった時は、途方に暮れてしまった・・・俺には剣しかなかったのだが、それを競えるだけの人物がこの学び舎の中で居なくなってしまったのだから・・・


同じ様に、シスターの中で、回復魔法を秀でていた女性がいた・・・彼女も周り以上に回復魔法に長けていた為、浮いていた・・・・


浮いてしまっている者同士の所為か、何故か波長が合い、彼女と過ごし、喋るのが日課になっていた・・・・


そんな日々を過ごしていたある日、執務室に呼び出された・・・彼女も一緒だ・・・何でも、神卸の巫女の護衛に任命されたらしい・・・何故俺達が・・・そう思ったが、剣の修行も競争相手がいない為頭打ちになっていた為、二つ返事で引き受けた・・・彼女も頷いた・・・


「君たちはこれから、ルザーとルウェールと名乗ってもらう」


色々伝達事項を伝えられた後(とは言え、詳しくは現地で聞いてくれと言われたが)、いきなりそう言われた・・・何でも神卸の巫女の関係者はルの文字を頭に付ける事が仕来りらしい・・・・まあ、そこまで名前に愛着がある訳でもないからいいが・・・そうして俺は、ルザー、彼女はルウェールとなった・・・


今まで世話になった学び舎を後に、俺達は神卸の巫女がいる教会に向かう事になった・・とは言え、今まで外に出た事が無い俺達の旅は苦労の連続だった・・・


野営の為のキャンプ地の設置、肌寒い中で眠る野営、念の為野盗を警戒して交代で眠ったりしたが、ルウェール一人で見張りしているのが心配で深い眠りは出来なかった・・・虫も周りで飛んでいて大変だった・・・あいつら、普段ならどうってこと無いが、長旅で疲れてくるとうるさくて大変だ・・・料理はルウェールがやってくれた為、大丈夫だったが、もし居なかったら、生の食材を食べていただろう(料理なんて一度もしたことが無かったしな・・・)


しかも、いきなりの雨や風・・・いきなり気温も上がったりして・・・本当に大変であった・・・いくら今の時期、雨や暑さが厳しいからと言って、こう、立て続けに起こってしまうと困ってしまう・・・


そうこうしている内に、何とか神卸の巫女がいる街の入口にに着いた・・・



街に入り、そこにある教会に行くと、そこに教会を守る門番がいた・・・。俺がここに来た理由をその門番に話すと門番は教会内部に行き、そして、シスターがやって来た・・・


「ようこそいらっしゃいました・・・ルザー様、ルウェール様」


いきなり名前を言われて面を食らったが、俺達が着く予定の日にちは既にこちらの教会には伝わっていたらしく、来た際はすぐに対応し案内するように言われていたようだ・・・話をしながら案内されているとシスターが・・・


「今日来れたのは、運がいいですね・・・ルジャ様の神卸が見られますよ」


と言ってきた。ルジャとは神卸の巫女の名前らしい・・・


何でも、今回の神卸は天候不良で周りの村や町の作物が不作の為、神卸での解決案が可決され、今日それが行われるらしい・・・確かに今回の旅でもいきなり暑くなったり、雨が大量に降ったりして、大変だった・・・そんな季節だと言っても、それでもこの変化は厳しかった・・・


シスターに案内された部屋に入ると、そこには、自分より小さな子供がいっぱいいっぱいになりながらも精一杯踊っている姿が目に入った・・・・すると、子供の周りが光り出し・・・その光が子供の中に吸収される・・・


『・・・どのような用件か・・・』


およそ、子供の口から出せるものでは無い声が聞こえる・・・声を発するだけで、周りを圧倒させる力があるそれだけの威圧がその声にはこもっていた・・・


それから、今起きている事、してほしい事を伝えると、神卸の巫女はまた光り出し・・・・


『・・・これで解決したはずだ・・・だが、これからは自らの力でも問題を解決できるようにしなければいけないぞ・・・』


その言葉にこの場に居る全員が頭を下げる・・・・俺もルウェールも周りに合わせて頭を下げる・・・


すると、神卸の巫女にあった光は消え、そこには小さな女の子だけが・・・残った・・・


これが、神卸の巫女・・・本当に自分が護衛係が務まるのか・・・そんな事を考えていたが、その時は神卸の巫女が疲れているという事で、翌日正式に会うという事になった・・・・


次の日、神卸の巫女に会う・・・本来、自分より小さな子供に緊張すると言うのは可笑しいが、昨日の神卸を見て以来、この時間が来るまで会う事に不安を覚えていた・・・本当に大丈夫なのか・・・?


それは、ルウェールも同じらしく、神卸を見て以来、ろくに会話もしていない・・・


そんな心配をよそに、案内人のシスターに部屋に入るろうに促される・・・そして、そこに居たのは・・・


今にも壊れそうな、疲れた目をした子供がいた・・・・


・・・俺は一瞬見間違いかと思った・・・昨日あれだけの威圧感を放ち、人々に希望を与えていた巫女・・・だが、今目の前にいる巫女は・・・・


その後、お互いに自己紹介をした後、案内役のシスターが出ていく・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・」


自己紹介の時も、彼女はにこりともせず、ただ座って疲れた目を向けてくるだけだった・・・・


「・・・どうかされたんですか・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


俺の言葉にも反応しない・・・・俺は段々腹が立ってきた・・・昨日の神卸を見て、どれだけ緊張してここまで来たと思っている・・・


「・・・・疲れた目をしているようですが、何かありました?・・・・」


そう言うと、彼女は俺の顔を見て来た・・・だが、それだけで、喋りもせず、ほとんど反応もしない・・・目もどこを見ているのかさえ解らない状態だ・・・それを見ていると何故だか、イライラする・・・理由は解らない・・・だが、何故か昔の自分を思い出してしまう・・・俺はおもむろに彼女の前に立ち、頭を撫でながら、


「頼りないかもしれませんが、私達は護衛としてやってきたのです。せめて話だけでもしてくれませんか?」


と言った・・・・・・・・やった後に思った・・・何で俺は神卸の巫女である彼女の頭を撫でた!!これバレたら不敬罪で下手したら監獄行だ・・・死刑にはならないよな・・・・


「うぇ・・・」


「えっ?」


「あっうぇ・・・あぁあああああああ!!」


彼女はいきなり泣き出した・・・俺達はどうしていいか解らず、固まっていると・・・


「どうされました?!」


シスター達が入って来た・・・恐らく、見張りとして、何人か配置されていたのだろう・・・俺がどうしようか考えていると・・・


「うぇ・・・いいえ・・・すん・・・何でもありません・・・」


「でも・・・・」


「大丈夫です・・・出て行って下さい・・・・後、見張りもいりませんから・・・」


「ですが・・・」


「・・・貴方達が選んだ護衛がここに居るのでしょう?でしたら、見張り何ていらないのでは?」


「・・・解りました・・・失礼します・・・」


そう言うと、シスターは出て行った・・・俺が胸を撫でおろしていると・・・・


「・・・すみません、お見苦しい所を見せてしまって・・・」


そう言って、また疲れた目をしながら、こちらを見てくる・・・だが、先程までどこを見ていたか解らない状態では無く、きちんとこちらの目を見ての対応だった・・・


その後、神卸の巫女・・・いやルジャから聞いた話を纏めると、周囲による期待、妬み、成果を求められ、疲れている事、周囲の人々も自分を特別扱いをして、孤立している事を話した・・・


(・・・だから、昔の自分を思い出したのか・・・)


自分自身も剣の才能の高さから周りと孤立していた・・・理由は違えど、結果は同じ・・・俺にはルウェールがいたが、ルジャには支えてくれる人が居なかったのだろう・・・だから、彼女は・・・あんなにも・・・・・


「・・・・・ハハハ・・・ごめんなさい・・・初対面の人にこんな話をして・・・」


そう言って彼女は更に涙を流す・・・感情は制御している様だが、それが悲壮感を漂わせていた・・・・・・


(・・・・・くだんねえ)


「なあ・・・お願いがあるんだが・・・・」


いきなりフランクに話しかけた俺にルウェールが慌てる・・・すまねえ・・・心配かけるようなことをして・・・でも、こいつは・・・こいつには・・・・・


「何でしょうか?」


「ぶっちゃけ、敬語苦手だから、ため口でいいか?後、ルジャ様や神卸の巫女って読みづらいからルジャって呼ぶな?いいか?」


そう言い切った・・・ルジャはポカーンとした顔をしたまま固まっている・・・・


「・・・・ハハ・・・そんな事言ってくれる人・・・一人もいませんでした・・・」


「お前も敬語禁止な・・・むずがゆくて仕方がない・・・」


「・・・・は・・・・うん、ありがとう・・・ルザー・・・」


そう言って彼女は満面の笑みを浮かべながら、そう言った・・・その笑顔は年相応の無邪気な笑顔だった・・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――


始めは同情だったのだろうか?解らない・・・ただ、あのままあの子をそのままにしてはおけなかった・・・


ルジャと普通に話をする様になって、周りから色々言われた・・・当り前だ、護衛だからと言っても、対等の立ち位置では無い・・・護衛任務に当たりその事も厳しく言われていた・・・だが、俺にはどうしてもそんな事は出来なかった・・・


ルウェールもそんな俺と合わせてルジャに敬語を使わなくなった・・・


「私だけが使うのも可笑しいですから・・・」


そう言うが、外からの圧力もあるだろうに・・・本当に済まないと思っている・・・


そんな日々を過ごしていたが、段々ルジャの元気がなくなっていた・・・原因は解っている、余りにもルジャと接する人が少なすぎるのだ・・・


一度彼女の神卸の為の訓練を見せてもらった事がある・・・ただ座り、精神統一と名の拘束・・・訓練と言うのはきつい者だと言うのは解るが、これは別の意味できつい・・・何しろ動けないのだ・・・しばらくたった後、聖書の朗読・・・その後、水で清めて最後に神卸をして終わる・・・神卸と言っても、神の力を少しだけ卸すだけで、実際は会話もしないらしい・・・だが、その瞬間は何時ものあいつでは無く、神々しさを放っている・・・


だからこそ、孤独になるのだろう・・・実際、必要最低限しか喋らず、本当に一言二言しか訓練の間他の比とは喋らなかった・・・


それは、本番の神卸の時も変わらない・・・


「ルザー、外の事を教えて!!」


だからこそ、彼女は俺達に懐いたのだろう・・・ルジャは俺達だけになると、様々なことを聞いてきた・・・外の世界の事、俺達がやって来た事・・・本当に様々な事を喋った・・・この教会以外の外の世界に行けない彼女にとって、刺激的だったのだろう・・・何度も聞いてきて来た・・・だから、求めてきたら、何度も話をしたし、その度に、笑顔になる彼女に対し、守っていかなくてはと言う使命感も芽生えてきた頃・・・


彼女が倒れた・・・・原因は心労だという事だが、彼女が目覚めた後、神卸の力が使えないという事が判明し、教会内部が慌ただしくなった・・・


それもそうだろう・・・話を聞くと、ほとんどの問題をルジャの神卸で解決をしていたらしく・・・その解決をしていたルジャが神卸が出来なくなれば、教会の信用、信仰が地に落ちてしまう・・・


落ちてしまえばいい・・・そう思った・・・誰かの犠牲の上に成り立つ平和何て壊れてしまえ・・・あいつが、どれだけ、影で泣いているか、知っているのか・・・どれだけ、笑顔でいるのを我慢しているのかを知っているのか・・・どれだけ、自我を押し込めているのか知っているのか・・・?


・・・上から戻るように言われる・・・力を無くした巫女を守る重要性が低くなったという事だろう・・・だが、俺はその命令に逆らった・・・今ここで居なくなったら、あいつを・・・・ルジャを誰が支えるんだ!!


ルウェールも一緒に残ってくれた・・・お前は言ってもいいんだぞと言っても、「ルザーがいるのなら、私も残ります」と言って、聞かなかった・・・・・本当にすまない・・・・


教会内部もそうだが、外の住民もルジャに対し、風当たりが強かった・・・今までルジャの恩恵にあずかっていたのに、その恩恵が出来なくなった瞬間、その責任を押し付けてくる・・・本当に身勝手で・・・無責任な奴等だ・・・


そんな奴らの言葉が聞こえない様に、ルジャを守る・・・・唯一の救いは、神卸が出来なくなって、ルジャの笑顔が増えた事だ・・・今までの重圧から解放されたのだろう・・・だからこそ彼女を守る・・・


気が付けば、ルジャを守る事が俺の生き意味になっていた・・・・


そんなある日、民衆達が暴動を起こし始めた・・・何でも神の奇跡が無くなって、生活が苦しくなり、暴動が起きたと言う・・・ふざげるな!ルジャはお前らの道具じゃないんだぞ!!


そんな思いとは裏腹に、教会に住民が押し寄せる・・・俺は一緒に居たルウェールを隠れられる場所に連れて行き、急いでルジャの所に行く・・・


「ルジャ居るか!!・・・・反乱だ・・・・!逃げるぞルジャ!!」


そう言うと、俺はルジャの手を引き、部屋から連れ出した・・・そして、何とか渡り廊下に来た時・・・


「ルジャ!!」


窓から見える外を見て、ルジャが気絶をした・・・迂闊だった・・・今まで、人が怪我をする所すらまともに見ていない彼女が、こんな凄惨な光景を見て、大丈夫な訳が無い・・・外には、死体、大けがを負った人間、争い続ける人間同士がひしめき合っていた・・・そんなのを彼女が見れば、こうなるのは目に見えていたはずだ・・・・俺はルジャを背負って・・・何とか進み始める・・・


「ルザー・・・!!」


少し進むとルウェールが来た・・・お前、隠れて居ろと言っていただろう!!


「ルザー達が心配で・・・」


その言葉にハアとため息を付きながら、先に進む・・・ここで問答している時間はな・・・


「見つけたぞ!!教会の兵士だ!!」


・・・・見つかったか・・・俺は壁の方にルジャとルウェールを押し込み、そこを背に対峙する・・・思っていたより多い・・・剣術は負ける気はしないが・・・これだけの人数どれだけ耐えられるか・・・


そこから、俺は必死になって剣を振るった・・・相手の剣術の腕はそこまででは無いが、ルザーとルウェールの所に一人たりとも行かせることはできない・・・時には、身体を使って止める必要が出てくる・・・それがこれだけの人数・・・逃がすにしても、その隙間が無い!!


何度も切り、何度も防ぎ、何度も二人の所に行かせない為に体を盾にする・・・


「向こうももう限界だ!!畳みかけろ!!!」


もう・・・限界か・・・・か?俺が腹をくくろうとした瞬間・・・ルジャの身体が光り出した・・・そして、踊りだすルジャ・・・これは・・・・神卸・・・?


その光景を見て、剣を捨てる人々・・・・・・ルジャ・・・お前・・・・


「ルザー、守ってくれてありがとう・・・」


そう、神卸をしながら、ルジャは言って来た・・・神卸の最中なのに何故意識があるのか・・・何故いきなり神卸が出来る様になったのか・・・様々な疑問があったが、俺は何より・・・


「・・・これでよかったのか・・・?お前、神卸の巫女に戻ったら、またあの生活・・・普通の女の子として生きられないんだぞ・・・・」


ルジャの笑顔が曇る事を心配をした・・・神卸をしなくなっていこう、ルジャは年相応の笑顔を見せる様になっていた・・・それなのに、また、あの曇った目に戻すのか?!だが、そんな思いは杞憂だった・・・


「大丈夫!・・・ルザーとルウェールが守ってくれたのに、私だけ何もしない何て嫌だしね!!」


そう、笑顔で言うルジャ・・・・


「・・・それに、もう、皆が傷つくのを見るのはもう嫌だ・・」


そう言われて、ハッとする・・・恐らく、この皆はここに居る反乱を起こした人たちの事も指しているのだろう・・・・彼女は優しすぎる程優しいから・・・それは、今まで過ごしてきた解っていたじゃないか・・・


「だから!この争いを止めるね!!神卸の巫女として!!」


そうして、笑顔を見せながら、彼女は外に文字通り飛んでいった・・・・そして、その日の反乱は、ルジャの神卸の巫女としての復活として幕を閉じた・・・

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