集落の中で

僕達が集落に入って数日、この集落にも馴染んできた・・・この集落には本当に色々な魔族が居る。


手が羽になっている魔族は、細かい作業が出来ないが、翼を使い空を飛び、木々になっている果物を取ってきたり、翼から抜け落ちた羽を使い、他の魔族達の寝床に使っている・・・衛生面で少し心配なのだが、他の魔族達はそんな事を気にした様子もなく使ってる・・・僕達も寝床で使わせてもらっているが、あの羽毛はなかなか気持ちよかった・・・


足が2本では無く、数本ある魔族にはびっくりした・・・しかも、クモの足・・・最初はびっくりして、少し嫌悪感を抱いてしまっていたが、喋ってみたら、気さくで喋りやすい人だった・・・・人は見た目では無い・・・いや人じゃなくて魔族なんだけど・・・それでも衝撃的だった・・・この魔族は狩りが得意で、いつも僕達にとって来た獲物を振舞ってくれている・・・本当に頭が下がる・・・しかも、この魔族は、自分の足を『獲物がとりやすいからこの体は助かる』とまで言っている・・・本当にある意味凄い魔族だ・・・僕がその身体で生まれたら、そんな前向きな発言何て出来ないと思う・・・


その他にも、身体が鱗で覆われた魔族や、口や鼻が無い魔族(どうやって食べたり、喋ったりしているのだろうか?)、角がある魔族や体が小柄な魔族・・・本当に色々な魔族の人達がいた・・・その多種多様な人たちがいる中で、この魔族達は誰かを差別することなく、笑顔で過ごしていた・・・


僕達の世界でも、少なからず、差別という物は存在する。それは、生まれた所でだったり、能力の差であったり、障害であったり・・・様々だ・・・


神達に何故その様な差別が生まれたのか・・・聞いた事がある。その時の答えは・・・神達もその様な差別を望んでいる訳では無いと言う答えだった・・・


だが、生れ落ちて長い間過ごしている内に、人間は自我が強くなってきている・・・・それ自体は成長という意味では嬉しい事なのだが、自分を全面に押し出す余り、他人より自分が如何に優れているのか・・・そういったものを比較するようになり、今の様に、生まれ、能力、先天性、後天性の障害・・・様々な面で優劣をつける様になっていたと言っていた・・・


この魔族達は生まれて間もないせいなのか・・・そういったものが、全然なかった・・・それどころか、他人と違う容姿を気にしている者等おらず、それすら笑顔で話題にしている位だ・・・差別的な意識など微塵もないすがすがしい笑顔だった・・・


生まれたばかりの所為なのか、ここの魔族達は人間の社会より居心地がいいと感じてしまった。身分を気にしたり、嘲る様な笑い、差別による格差・・・・そんなもの、ここには何も無い・・・


1つ問題点があるとしたら、文明レベルがかなり低いという事だ・・・・


全ての住居が蔦と枝で作られたもので、雨はもちろん、風すらまともに防げない・・・仕方なしに、ルザーが木を切って、板を作り、少しでもましな住居を作った(本当に最低限の雨風を防ぐ程度の住居)のだが、それを見た魔族達が自分達の所もやってくれないかと言ってきたのだ・・・


・・・だから、今僕達は魔族達の住居を1から作っていっている状況だ・・・まあ、集落にいさせてもらっているし、情報もあらかた聞き終わってやることが無いから、別にいいけど・・・・どうせ、板を作ったり、組み立てるのは、ルザーだし・・・・僕・・・本当に何も出来ないなあ・・・


自分自身の生活力(この場合サバイバル力ともいう)の無さに溜息をついていると、


「よっわざわざすまないな・・・」


という声が聞こえた。振り返るとそこには、僕達を集落に案内してくれた魔族がいた・・・・この集落にはいろいろな魔族が居るが、この人は肌の色以外ほとんど人と変わりがない・・・


僕の世界でも新種の種族だと言われたら、納得しそうな程僕達と見分けがつかないなあ・・・・


「私達では、戦闘の知識とかはあるんだが、家を作ったり、料理を作ったりとかは、全くやり方を知らないんだ・・・」


そう言いながら彼女は照れながら、頭を掻き始めた・・・うん、初めて生の肉を出された時は、何かの罰ゲーム?なんて思ったよ・・・その後、何とか説明をして、魔法で火を出させて、焼くという料理?の仕方を教えて、何とか過ごしている・・・・さすがに、生の肉は食えないよ!!!!


「本当にこの集落に来てもらって助かっている・・・この住居という物が出来てから、冷たい風に耐えながら寝なくてもすむようになった・・・・」


・・・そう、感慨深く語った・・・って僕達の作った住居って素人丸出しの住まいだから!!板と屋根をそれっぽく組み合わせて、作っただけだから・・・まあ、それでもやっぱり一本の木から板を作るのに時間が掛かったり・・・作業人数が一人だから(僕はほとんど言われたものを持ってくるだけという雑用、他の魔族も手伝ってくれているが、勝手が解っているルザーがほぼ一人でやっている)、それなりに時間が掛かっているけど・・・


「何か手伝う事があるか?」


「だったら、板を持ってきてくれ・・・先程切った物があっちの方に積み上げている・・・」


そう言って指さした方向には、少ないながらも板が積みあがっていた・・・それを見た、魔族は、


「・・・なあ、何だったら、私が木を切ってやろうか?」


と言って来た・・・確かに、ルザー1人でやるのは、効率は悪いが・・・・


「・・・加工をした事があるのか?」


「いや、無いが・・・教えてもらえれば・・・・」


何だか、ルザーと魔族の人が話し始めちゃった・・・・そうこうしている内に、木の加工の仕方を教えるという形で話が決まった・・・だったら、僕も教えてもらって・・・


「ルジャは料理の方を頼む・・・・」


そう言われてしまった・・・・あからさまに大工仕事させてくれないよね!ルザー!!・・・少しでも手伝いたいのに・・・まあ、料理も重要だけれどさ・・・今だに、焼くという作業すら出来ない人達も多いから・・・


ただ、火を付けて、焼くだけだよ!!何で出来ないの?!何で黒焦げにするの?!加減は?えっ火が強ければその分美味しくなると思った・・・?そうならないから!!加減をして、程よい火加減じゃないと美味しくならないから!!


・・・僕は魔族一人一人に料理?を教えていく・・・本当にここの人達の文明はあべこべだ・・・魔法は使える魔族はいるのに・・・・


やっとこさ、料理を教え終わって、集落を歩いていると、喋らない魔族の人がいた・・・いや正確には喋れない魔族だ・・・何でも、この魔族は喋る器官を最初から持っていないまま生まれたようで、コミュニケーションは身振り手振りで行う・・・まあ、解る人は大柄の魔族の人と一握りの魔族のみだが・・・だが、変わりに魔法を使えるらしく、この集落を覆って危険を結界で感知している・・・


呪文はどうしているのか気になったが、この世界の魔法と僕達が知っている魔法とは違うのだろう・・・気にしない様にしている・・・


その魔族は、手に料理を持っていた・・・そう・・・料理だ・・・ただ、焼くだけでは無く、きちんと食べやすい様に気って、野草や肉をきちんと炒めている・・・ただ、それだけなのに、焼く事すら出来ていなかった今までを見てきた僕は凄い驚いた・・・


「・・・・食えって・・・?」


何だか、身振り手振りで何かを伝えようとしているのを見て、恐らくこれを食わせたいのだろうと思い聞いてみた・・・すると魔族の人は頷いた・・・・


僕は少し手にもって食べてみる・・・・うん・・味付けは調味料が無いからしょうがないとしてきちんと火が通って、食べやすくなっている・・・・本当に料理を覚えたんだ・・・


僕が顔をあげると、何かを期待しながら僕の顔を先程の魔族が覗いていた・・・


「うん、おいしいよ!!」


僕がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべた・・・本当は味が無いからそこまで美味しさは感じられなかったが、食べられないものばかり作られてきた今までを考えるとすごい進歩だ・・・第一僕の為に作って来てくれた・・・その思いだけで、この料理はおいしく感じた・・・


その後、魔族の料理を食べて、お礼を言って別れた・・・・そう言えば、あの人、女性なのだろうか、男性なのだろうか・・・そう言えば、いまだに解らない・・・・後で機会があったら聞こう!


ルザーが大工仕事が終わり、2人で魔族達が狩ってきた肉と野草、果物を料理して皆に振舞った(まあ、焼いたり、煮たりしか出来ないのだけれども)後にふと散歩をしたくなって歩き始めた・・・・周りはすっかり、日が暮れて、星が出ていた・・・


集落をぶらぶら歩いていると、集落のはずれで、夜空を見上げながら、大柄の魔族の人がいた・・・


「何をしているのですか?」


僕は何となく話しかけてみた・・・すると、大柄の魔族の人は空を見上げるのをやめ、僕を見て来た・・・


「・・・いやちょっとな・・・・」


「?どうしたのですか?」


何故だが、大柄の魔族は歯切れが悪い・・・夜空を見ていただけなら、そう言えばいいのに、それを口にせず、口ごもっている・・・僕はついつい、聞いてしまった。余計なお世話かも知れないが、今日までともに過ごしてきた仲だ・・・少しでも力になってあげたい


「・・・・お前達が来てくれて本当に良かった・・・ここに居る住民達本当に喜んでいるよ・・・寒く無くなった・・・食事が美味しい・・・ってな・・・本当にいい傾向だと思う・・・ありがとう・・・」


「・・・・・・・」


ありがとう・・・そう言ってくれたが、気分は晴れなかった・・・それは、大柄の魔族が、今にも泣き出しそうな顔をしていたからだ・・・何故・・・?そんな顔を?その疑問を他所に更に彼は話し続けた・・・


「ここの住民は本当に良い人達だけだ・・・俺の姿を見ても怖がらず、本当に家族の様に接してくれている・・・本当に良い魔族達だ・・・だから、俺は本当にここに居ていいのかと思っていしまう・・・」


「そんなの居て言いに決まってるじゃないですか!!」


思わず大きな声を出してしまった・・・


何を言いだしているのだろうか?この人は、この人が居るからこそ、この集落は纏まっているそう僕は考えている・・・ここの住民達は、元々の性格の所為なのか余り考えない様な気がする・・・それは裏表ない性格という美学かもしれないが、計画性が皆無とも言える・・・


彼はそんな集落の人達を纏めている、まあ、食料の保存の方法すら知らなかった様なので、備蓄をしてこなかったようだが、やり方を教えてあげたら、すぐさま食料をある程度備蓄するように言い、保管する習慣をつける様に指示をした。多分、この集落のリーダーはこの人なのだろう・・・そう言えるほど、集落に居てくれなくてはいけない存在だと思う・・・この住民達が笑っていられるのもこの人の存在が大きいはずだ・・・


・・・それなのに何故・・・?


「・・・俺はこのままだと、皆を殺してしまうかもしれない・・・」


「えっ?」


・・・彼はそんな事を言って来た・・・・皆を殺す・・・?・・・この集落のリーダー的存在である貴方が何故・・・?


「俺達魔族は、異界の住人達を殺す為に生まれて来た・・・ここの住民達は、その傾向が少ないようだがな・・・・だが、俺は違った・・・」


そう言って、彼は言葉を切って、こう言った・・・


「・・・魔族の性だ・・・俺も他の魔族よりはその衝動は少ないようだが、周りの魔族の様に全く無いわけでは無い・・・いや、少しはあるかも知れないが、制御出来ない程では無いのだろう・・・それが、俺には難しい様だ・・・」


大柄の魔族は目に涙を溜めながらそう言った・・・・


「笑いかけながら話しかけてくる仲間達に殺意を持ってしまう・・・無垢な思いを持っている周りに対し、俺は邪な思いを持ってしまう・・・・お前達に対してもそうだ・・・いや、殺意に関しては仲間に対してより大きいのだろう・・・異界の住民らしいからな・・・・そんな思いをずっと抱いているんだ俺は・・・」


そう彼は言った・・・魔族、そうだ、ここに住んで居たから忘れかけていたが、元々魔族は僕達の世界を滅ぼす為に生まれた存在、その習性はいくら理性で抑え込んでも抑えきれるものでは無いのだろう・・・彼の苦悶の顔がそれを物語っていた・・・・


「・・・なあ、お願いがある・・・もし、俺が理性を失ったら、殺してくれないか・・・?」


彼は涙声でそう言った・・・・


「俺は、今まで慕ってくれた仲間達を殺したくない・・・だが、俺の理性もいつまでもつか解らない・・・本当なら、客人である貴方に言うべきことでは無いかもしれない・・・だが、何人か事情を話した住民には断られてしまってな・・・・ははっ何が・・・『もし、死ぬことがあるとしたら一緒です』だ・・・死んでしまったらそれで終わりだろうに・・・」


その言葉には様々な葛藤があったのだろう・・・すざましく震えていた・・・本来なら聞き取るのも困難なはずが・・・その言葉一言一言僕の中に入っていった・・・そして・・・


「なあ、頼む・・・万が一俺が自分を自分で抑えられなくなった時、殺してくれないか・・・?」


彼は僕の前で頭を下げてそう言った・・・僕はどうすればいい・・・どうすれば・・・・・・


その時、浮かんだのは、僕達の世界でされた、魔族達の虐殺・・・魔族の性がどれほどかは解らないが、これだけの苦渋に満ちた顔、それほど大きいのだろう、このままでは、彼自身僕の世界で行った虐殺をしてしまう可能性すらある・・・


僕達の世界で行った虐殺を彼にさせる?仲間である集落の魔族を含めて・・・そんな事・・・させたくはない・・・


「・・・・・解りました・・・僕自身、力がありませんが、もし理性を失ったら最大限の努力はします・・・ただ、それは最終手段です。貴方自身魔族の性を押さえる様に努力して下さい・・・貴方の存在は集落にとっても大きな存在なのですから・・・」


「・・・ありがとう・・・」


彼は涙ながらそう言って手を握ってきた・・・ああ、こんな約束したくなかった・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る