神卸

僕とルザーは急いで住民達に襲撃が来ることを伝えた・・・だが、すぐそこまで来ていた、魔族達は僕達を逃がす余裕すら与えなかった・・・しかも、彼らは集落を囲って逃がす隙間すらなく僕達を追い詰めていた・・・人数ももはや数えきれない程居て、僕達はすぐに追い詰められていった・・・


「ぜえ・・・はあ・・・・」


「・・・これはやばいな・・・」


もはや、立っているのは、僕を除けば、ルザーと大柄の魔族、そして、無口な魔族・・・それ以外の魔族はは死んだか、怪我でもはや立っていられなくなっている・・・僕達は生き残った魔族達で身を寄せ合い、ルザーと大柄の魔族・・・そして、無口な魔族の結界に守られている状況である・・・


そして、周りには数えきれない程の魔族がにやにやとこちらを見て来て居る・・・一斉にかかれば、すぐさま全員殺せるのに、恐らく僕達をいたぶって楽しんでいるのだろう・・・先程から、弓矢や魔法を打たれているが、直接攻撃は全くされていない・・・


・・・このままでは負ける・・・以前勝てたのは、ダールとジュルが神の力を貸し与えてくれた為、勝つことが出来た・・・だが、今この場に二人は居ない・・・そんな状況では、勝てる訳が無い・・・


・・・・この場を凌ぐ方法それは・・・・


「ルザー・・・神卸をする・・・」


「ぜえ・・おま・・・え・・・ほん・・・き・・・で言ってる・・・のか・・・?」


「・・・それ以外、皆を救う方法が無いじゃない!!」


解っている、神卸なんかすれば、すぐさま魔王にこの場所を感知され、僕達の目的すらバレる可能性がある事位は・・・だけど、それ以外この場に居る皆を救う方法は無い・・・過ごした時間は数日間しかなかったけど、僕達を人間だからといって差別することなく、同じ様に接してくれた皆をみすみす殺したくなかった・・・・


「・・・はあ・・・はあ・・・第一上手くいくかどうかだってわから・・・・・・ちい!!」


弓矢を切り落としながら、ルザーは言う・・・知っている・・・そもそも、ダールとジュル達の力を使い、神卸をするのは、この場所自体で神卸の行為が出来ない為である・・・それを、その補助も無しに行うなど上手くいくかどうかすら解らない・・・だが・・・


ボロボロになって僕達を守ってくれているルザーと大柄の魔族・・・無口だけど、必死に障壁を張って、魔法から皆を守っている魔族・・・それに・・・僕達を集落に案内してくれた魔族やそれ以外の皆が傷だらけで地面に倒れているのを見て、何もしない訳にはいかない!!


ぼ・・・私は決心をして・・・舞い始めた・・・勇者としてでは無く、神卸の巫女として・・・僕では無く、私・・・巫女としてやり遂げる!!


私達を囲っている魔族達はゲラゲラ笑いながら、私の舞を見ている・・・・恐らくこの舞の意味を知らずただ、あざけ笑っているのだろう・・・・関係ない・・・笑いたければ笑えばいい・・・とにかく今は、皆を救う為に踊りに集中をする・・・・


私達を案内してくれて、集落にいる間も様々な世話をしてくれた魔族、手が翼になっていて、空は飛べるけど、手を使うような作業はやりづらいと笑いながら話をしていた魔族、クモ様な姿で足もたくさんある魔族は、それを悲観する事も無く、誰かを追いかけたりするのに不便が無いから助かると言っていた・・・


喋れない魔族の人は、喋れないのにいつも私達を気にかけていた、自身の気持ちを身振り手振りで何とか伝えようとしてたい・・・大柄の魔族の人はいつも皆を気にかけていた、どうしたら、全員を守れるか・・・その事を第一に考えていた・・・


皆が良い魔族だった、私達人間よりよっぽど優しさを持っている人達だった・・・そんな皆が、倒れて傷つき、死んでいく状況・・・それを、変える・・・生き残っている皆だけでも・・・守る・・・守って見せる!!その為なら何でもする!!


神卸の舞・・・自身を依代に神を卸す行為・・・舞を舞う事によって神を卸す道標として神を呼び出し、神の力を行使する・・・だが、この場所は私達の神の世界では無い・・・その為、自身を道標にしても、この世界に干渉してもらえるかどうか、それすら解らない・・・


いや、恐らく不可能かもしれない・・・そんな事が頭をよぎる・・・神卸が出来るのであれば、最初から神は私の身体を使い、神の力を行使していたのだから・・・・


無理なのか・・・関係無い・・・無謀じゃないのか・・・関係無い・・・やはり私には・・・関係無い!!ケガを負った皆を黙って見ているなんて私には出来ない!!無謀!無理!!それでも私は・・・やってやる!!


『・・・すざましい思いだな・・・やっぱり勇者に選ばれることはある・・・』


声が聞こえた・・・今まで聞いた事が無い声・・・だけど、この存在感は今まで神卸で感じている者だった・・・・


「・・・届いた・・・」


涙が流れ落ちる・・・今まで魔界が現れてから、どんなに念じても届かなかった思い・・・それがようやく届いた瞬間だった・・・・・・・私はただ、ただ・・・喜んだ・・・






それが、破滅の足音だと気付かずに・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る