あの子

その子にとって世界とは何も興味を抱けない存在だった。


知ろうとすれば、何でもすぐ知ることが出来るし、やろうとすれば大概何でもすることが出来る事を知っていた。


何をしようとせず、何も欲求も無く、その子はただ存在していた。


その子は生まれる前の記憶さえあった、その不完全な状態の時でさえ、全てを解っていた。


この世界の在り方、未来、現在、過去そのすべてが見え、そして、絶望していた。


全てが出来る=幸せでは無い、彼女はそれを痛感した。例えば何でも出来る、何でも知ることが出来るという事は、結果が解っている蛇足みたいなものだ。それを行ったとしてもその結果も解る為、何かをしようとする気にも起きなかった。


そして、生まれる前、無意識にそれはこの世界に自分の知っている未来を変える存在を招いてしまった。曰く転生者や転移者である。


これも無意識に行ったことだが、他の世界に影響が無い様に、死んだ者や転移しても世界に影響が無い者を選んだ。


もしかしたら、転移者や転生者にこれも無自覚に自分の力も与えてしまっていたかもしれないが、もう済んでしまった事だ。


そのおかげで、本来この世界なら数百年に一度しか起きない、異世界転移や転生がそれの所為で百数十回行われた。


―――――――――――――


私は何もするでもなく目の前の木を見ていた。


私は今から一年前に生まれた。生まれたのはいいが、特にやることが無かった。


いややろうとすれば、どんな事でも、例えば世界を壊すことも出来たが、無意味なので、何もしなかった。


私はやりたい事が見つからず仕方なく、この世界の事を調べた。私自身天智の書という、何でも調べることが出来る書物・・・データベース(言い方は世界によって違う)にアクセス出来たので、簡単に知識は増えた。


その際、自分が生まれる前に無意識に行っていたのが行為が、他の世界から人を呼ぶ行為だと知ったが、特に何も感じなかった。


ただ、そう遠くない内にその一人と会うことになるかもしれないと感じていた。


知識を蓄えは2、3日で終わった。だが、その後はどうしようか途方に暮れた。これが、人間なら、食べたり、飲んだり、寝たりするのだが、私には必要ない。


普通の妖精なら興味本位で遊んだり、食べたり、寝たりするのだろうが、私には必要とは感じなかった。


そんな時、精霊王スピンが話しかけてくれたが、特に興味惹かれる事を言ってこなかった。


世界との契約でもしてみたらどうだとも言われたが、この世界に興味すら感じていないのに、契約なんて嫌だった。


今の状態があまりにも力が大きすぎて契約しない事には不安定な状態であったことは知っていたが、この世界に価値を見出せない私は、契約をするなら消えた方がましに思えた。


そんな中精霊王スピンが会ってほしい


「会ってもらいたい人が居るんだ・・・ロイドという人なんだが会ってもらえないか?」


ロイド・・・天智の書で調べる・・・解らない・・・天智の書がうまく使えないという事は・・転生者?


そんな事を考えているとまた、スピンが話し出す・・・


「明日連れてくる・・・とにかく話だけでも聞いてくれないか?」


それだけ言ってスピンは居なくなった・・・明日転生者がやってくる・・・私は初めて興味を持てなかった世界に興味を持った・・・


そして、転生者が来る日、何時もの様に木を見ていると、スピンがやって来た、ハールと小さな男の子を連れて・・・


見たことがないのにハールという人物が解ったのは、天智の書のおかげだ。


だが、小さな男の子の方は解らなかった・・・天智の書が効かない人物・・・


(彼がロイド?)


そう、考えていると、向こうから喋って来た・・・


「やあ、この人達が昨日話をしていた人達、ロイドさんとハールさんだ、少しお話してみないか?」


そう、スピンが言う・・・そう言えば用事について何も聞いていなかったなあ・・・そんな事を思い出す・・・・すると男の子が前に一歩出て来た・・・


「初めましてロイド・ハーンです、今日はお願いがあってきました・・・」


その男の子は私の目を見てそう言ってきた・・・


「・・・何?」


「喋った・・・。」


スピンに私が喋ったことに対して驚かれた・・・興味なかったから無視してた。何だか少し罪悪感様な物を感じる。


まあ、感情自体私には無いみたいなので、これも気の所為だと思う。


「俺は強くなりたい!だから、契約してくれないか!!」


そんなこと言ってきた・・・・なあんだ・・・ただ、私の力が欲しいだけか・・・


私を訪ねてくる人が居るとしたら、私の知識、力そういったものを求めてやってくる可能性を考えていた・・・まあ、一応せっかく来た転生者だし・・・理由だけでも聞こう・・・


「どうして?」


「戦争を止めたいから・・・その為に誰にも負けない力が欲しい!!」


「?戦争を止める為に力が欲しいの?」


「そうだ!」


ああ、この子は力さえあれば戦争が止まると勘違いしている


「止まらないよ・・・」


「えっ?」


「絶対に止まらないよ・・・」


私はそう断言する・・・今までの人間の歴史と魔族の歴史からの客観的に見てと言うのもあるけど・・・その前にこの世界では、人間と魔族が争う様に出来ているのだから不可能だ・・・・とりあえず、歴史的な観点と現実的な思考から矛盾をついてみよう・・・


どちらにしても、私にはただの暇つぶしなのだから・・・


「・・・力で戦争を止めるって言っていたけど・・・・どうやって?」


「・・・そりゃあ、大きな力を見せれば、相手が怖がって止まるんじゃないか?」


相手の恐怖心に付け込んで止める方法ね・・・まあ、うまくいけば最初は止まるかも・・・でも・・・


「・・・止まらなかったら・・・」


「えっ?」


「それでも止まらなかったらどうするんですか?」


そう、恐らく今人間側には神が付いている、恐らく低級の神だろうが、それでも自らに神の加護が付いているという大義名分は例え負けると分かっていても、神の為に死ぬことを厭わないだろう・・・例えそれが刷り込まれた物でも・・・


「・・・その時は転移魔法で、遠くに飛ばす・・・」


「それだといつか戻ってきますよね?ただの時間稼ぎでしょうか?」


そう、はっきりと言う・・・そんな事をしても問題の解決にならないと・・・


「後、万が一力で支配したとして、その後をどうするんですか?」


「えっ?」


「まさかずっと力で言う事を聞かせていくのでしょうか?」


「えっと・・・・」


「出来ないと思いますよ・・・人間の土地は膨大ですから、全てを支配しきれるなんてできない・・・どこかしらで暴動が起きて、小さいでしょうがあちこちで争いは無くならないでしょう・・・」


そういうと、男の子は黙る・・・もっと言ってもいいけど・・心が折れたのならもう言う必要性は・・・・


「・・・でも・・・」


ん?


「それでも・・・一瞬でも平和になる可能性があるのなら力が欲しい!例えそれが間違っていたとしても!何か可能性があるのなら試してみたい!!!」


そう、男の子は叫んでいた・・・・


「?・・・力で平和になる方法ってあるの?ああ、人間を全員殺すのね、そうすれば魔族側は平和になる」


私は力で解決する唯一の結論を言った・・・まあ、そんな事をしたら、世界のバランスが崩れて消滅するか、神自身がいらないって事で消すと思うけど・・・


「違う!!俺はあくまで全員を救いたい!!!人間も魔族も関係なく!!!」


そういってまた叫ぶ・・・?どいう事?


「?どうやって?」


「・・・それは・・・力を手に入れてから考える・・・」


なにそれ・・・そんなの不可能じゃないの?


「・・・ねえ、力があれば何でもできるって言ってるけど・・・今のあなたの力はどうなの?私に頼って来てるって時点でどうかと思うけど・・・」


そう私は言う・・・


「・・・・・・・・・・ああ、そうだ・・・結局、自分の力で何も出来ずに・・・お前に頼っているな・・・」


そう言って男の子は涙を流した・・・しかし、次の瞬間


「・・・・だけど、今の力を示す方法ならある・・・」


そういうと、男の子は体に魔力を流しだした・・これって多分


「・・・闘うって事?・・・」


「それが一番手っ取り早いだろ・・・」


はあ、結局短絡的な答えにたどり着くのね・・・・まあ、せっかくあった、転生者だし、一度闘ってみるのも面白いかも・・・


「解った・・ただ、私が勝ったら諦めてね・・・」


そう言って私は・・・彼を私が作った世界に案内した・・・

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