ファルヴェード王城での混沌

有原ハリアー

ドッペルゲンガーの夕べ

「ふふっ。相変わらずなんだね、『貴様の心臓を握りつぶしてやる』ってセリフ」

 橙色に染められた教室にて。

 有原ハリアーは黒田星子の言葉を、反芻していた。

「まあ、僕がそんな事を言えば大騒動になるんだけどね」

 狼の耳をぴこぴこ動かしながら、右手をぐっと握りしめる。



「ふふっ。ある意味、僕の心臓は握り潰されたんだけどね」



 そう呟いたハリアーは、教室を後にした。


     *


「さてと、これで終わりか。全く、公務ってのも大変だよねえ。んんーっ、ファルヴェードの夕焼けも綺麗だ!」

 教室を後にしてから、文字通り一瞬でにファルヴェード王国王子としての姿と化したハリアー、いやアルブレヒト・ファルヴェード・ハーラルトは、机の上に写真を広げる。



「ふふっ、T-4ってどんな免許がいるんだろうね? いっそのこと自衛官になって、ブルーインパルスに乗るのもいいかなぁ♪」



 アルブレヒトは妖しげな笑みを浮かべ、写真をじっと眺めた。


 “学生”と“王子”。

 二つの姿を持つ者は、今日も妄想に耽っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る