第二話 カロン観測所

「正宗、修理はできそうか?」

「ああ、穴は樹脂で固めたから空気の流出は止まった」

「良かったな」

「良くないよ、夕凪。酸素発生装置が逝ったんだよ。残量は4時間分しかない」

「冥王星からの救助は?」

「既に発進したらしいが到着は8時間後になる」

「救助が来る前に俺たちはオダブツだな」

「諦めるなよ。俺は絶対諦めないからな」

「そうだけど、光速を超えるような宇宙船じゃないと間に合わないだろう」

「確かに……そうだな」

「地球で唯一光速を超える宇宙船スーパーコメット」

「そうだ」

「そのスーパーコメットで光速を突破して救助活動をする美少女レスキュー ☆ ビューティーファイブ」

「よく知ってる」

「しかし、今はリーダーが産休に入って活動休止だ」

「……面目ない」

「お前がちゃんと避妊しないからだろ」

「籍を入れたから」

「それで責任を取ったつもりか?」

「個人的には責任を取っている」

「現実にビューティーファイブが動けない状況を作ったのはお前だ!」

「……そんなに俺を責めるなよ。夕凪。確かに不注意だったが、それは俺と美沙希みさきさんの合意の上だったんだ。俺個人の責任だと言われるのは困る」

「何でメンバーのバックアップがいないんだかな」

「確かにそうだが、俺はお前の女癖の悪さもこの事故に関係していると思うぞ」

「どういう意味だよ」

「まずお前が何でここにいるかだ。女から逃げる為だろ。モテるからって複数の女と付き合ってさ。ここにわら人形が何個送られてきたか」

「そう言われてもな」

「108個だ。ついでに不幸の手紙は1250通。再生する機器がないのに怪しいVHSテープが届いたし、カセットテープやフロッピーディスクもある。俺は8インチのフロッピーディスクなんざここで初めて見たよ。画像で大昔のデータを検索してそれがフロッピーディスクだと初めて知ったよ」

「あれは予想外だったな」

「極めつけは酸素ボンベの代わりに入っていた魔術書だ。78冊」

「今時紙の本ってのも珍しいよな」

「確かに……じゃねえよ夕凪。おまえ、どんな地雷を踏んだんだよ」

「悪かった、正宗。興奮するなよ。酸素の消費が多くなる」

「ああ済まない。ちょっと興奮しちまった。喧嘩するなら生き延びてからだ」

「なあ、正宗。一人だけなら確実に助かる方法がある」

「そんなのあるわけないだろ?」

「いや、あるさ」

「まさか?」

「二人いるから酸素も二人分必要だ。一人なら半分で済む。つまり生き延びられる時間は2倍になる」

「夕凪。おまえまさか」

「そのまさかさ」


 節電の為薄暗い観測所内で見つめ合う二人。

 夕凪春彦ゆうなぎはるひこはポケットからナイフを取り出した。

 

 そのナイフを正宗明継まさむねあきつぐへ向ける。


 孤立した絶望の空間の中で、更に絶望を味わう正宗。もうすでに二人とも正気ではいられなかった。

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