21グラムの咆吼
領域Z
序 章:覚醒、ふたたび
―― 99 ――
死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ヌ前ニ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ今スグコロセ一刻モ早クコロセ須臾ニシテコロセ揉ミ消スヨウニコロセ蛆虫ノヨウニコロセ抹殺シテ撲滅シテ排除シテ――
失意の底で震えていた。
イメージするのは心臓の鼓動。
縮小と増大を繰り返して、そこに血を通わせている。
そこに名称なんてない。あったとしても知っているわけがない。
十六年のあいだ共に生きてきたこの体に、こんな恐ろしい場所があったなんて……。
そこでは、なにか、とてもよくないものが渦巻いていた。初めてでもそれだけはわかった。意識を失っても、冴え冴えとわかっていた。どうしてか、自分の体が理解していた。
それからも、よくないものは収縮運動を繰り返しながら、膨張し、増幅し、どんどんどんどん大きくなっていった。
よせ! それ以上の憎悪はっ!
……ビキ、ビキビキ。
だれともわからぬ声とともに、亀裂の走る音が聞こえた。
嫌な予感がして、ふと、まぶたを開く。すると、どこまでも広がる純白が視界いっぱいに映った。たとえるなら、マスのない巨大なサイコロの中に閉じ込められた気分。ためしに後ろを振り向いてみても、足元に視線を落としてみても結果は同じ。自分の影はなく、どん詰りもない。けれど天を仰ぐと、そこにはすこし違った景色があった。
真っ白のなかに、リストカット痕のような形の黒い
目を凝らしてもっと見てみようと思ったそのとき。――ドクン、という大きな拍動とともに、空間は揺れ、地面も細く割れはじめた。
それを皮切りに、空間はめくるめく変化をみせた。
気づいたときには、もはや空間から静謐は失われていた。鼓動が刻まれるたびに天地の亀裂は大きく広がっていき――どこからか鐘の音が聴こえてきた途端、亀裂が空間全体に行き渡った。空間が形を保てなくなると、四方八方の割れ目から赤黒くドロドロした液体が流れ込んできて、世界は一瞬のうちに闇に染まってしまった。
氾濫した液体に埋もれ、必死に息を止めた。窒息する覚悟で呼吸をこばんだ。しかしまもなくすると、液体が体中に染み込んでいくのを感じた。目や耳や鼻や……体の穴という穴に、それはミミズのように入り込んできた。
それから無数の声が聴こえてきた。男の絶叫、女の悲鳴、赤ちゃんの産声も混じっていた気がする。声はどれもノイズがかって、判然と聞き取ることはできなかった。耳をふさぎたくなる気持ちだったけれど、両手を耳に持っていった頃には声は止んでいた。
やはり、まだ完熟には程遠かったか……。
意識と感覚と道理と正当性と倫理性と……なにもかもすべてが淀みはじめていた。そしてまた、あの声がした。今まで聞こえていたものとはちがう、あの厳然とした声が。赤黒い液体におぼれていても、その声だけはなぜか澄んで聞こえた。
感覚という感覚が失われ、死を間近に感じたそのとき。ついに液体を吸い込んではじめて、 ―――はそこで息ができることに気がついた。
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