返品カタログの商品はキャッチ&クーリングオフ

ちびまるフォイ

心からの贈り物、どうか受け取らないで!

「はい、プレゼントだよ。前からバック、欲しかったんだろう」


「わぁ~! いいんですか! 嬉しい~~!

 こんなところ、奥さんに見られたらどうしよう」


「大丈夫だよ。家内にはゴルフって言ってあるから」


プレゼントを渡して食事を終えて家に帰ると、

ポストに1枚のチラシが入っていた。


「なんだこれ。カタログ……? やば!!」


ネットで愛人へのプレゼントを注文しすぎたせいか

この住所にプレゼント用のカタログチラシが届いてしまった。

こんなところ嫁に見られたら怪しまれるに違いない。


チラシを持ったまま部屋に戻って見てみた。


「いや、これいつも使ってるショッピングサイトじゃないぞ?

 もしかして、全部のポストに入れられてるのか。ビビったぁ……」


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【第二号:返礼プレゼントカタログ】


カタログに書かれている商品を送ってください。

受け取り人が手放した場合は、あなたのものになります。

受取人が受け取った場合は、受取人のものとなります。

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「ますますなんだこれ!?」


クーリングオフありきのプレゼントなのだろうか。

試しに、同僚にカタログ内にある「サラダ油詰め合わせ」を送った。


スマホに送付連絡と宛先、そして配送状況までGPSで出された。

プレゼントが届くと……。


「……戻ってこないな」


いつまでたっても戻ってこなかった。

翌日、同僚にそれとなく確認してみると、にこやかに答えた。


「いやぁ、昨日、誰かからお中元?もらっちゃいましてねぇ。

 ちょうど切らしていたんで助かりましたよ。あはははは!」


「ああ、そうかい……」


のちに、料金の請求は俺に届いた。

どうやら受取人が受け取ってしまうと、送り主が払うらしい。


逆に返品されて俺が受け取れば料金は払わずに済む。


「さて、どうやって受け取らせないようにするかな」


試しに、送付先とは別の住所をかいた宛先シールを貼って

いかにも「間違って届いた荷物」ぽさを出して送ってみたが、効果はなかった。


サラダ油程度なら返品されるだろうが、

中に貴金属とか高級バッグなどが入っていれば誰も送り返さない。


「くそぉ……せっかくプレゼント用にと思ったんだが……」


誰も見ていない場所では見に覚えのない品も受け取ってしまう。

まったく、この世界の良心というやつはどこへ言ったんだ。


「そうだ! 受け取りにくくするんじゃなくて、

 そもそもこんなものを家に置きたくなくすればいいんだ!!」


テレビで世界一臭い食べ物を特集しているのを見て、

雷に打たれたような衝撃の元さっそく実践へと踏み切った。


カタログで世界一臭い食べ物を購入して送りつけると、

案の定、誰も彼も返品してくるものだから手応えを感じた。


「ひひひ。ようし、これを紛れ込ませてやる」


箱を二重にし、外側にはものすごく臭い液体を塗りたくる。

内部の箱にはカタログで注文したものを入れて送りつけることに。


心配だったのでGPSをもとに配送先へと向かっていくと、

まるで知らないどこかの家族に俺の注文した最高級ネックレスが届けられた。


「ママー。なんか届いた……くっさぁ!!!」


玄関で受け取りに出てきた子供はあまりの悪臭に顔をしかめた。

追って出てきた母親も、ニセ宛先を見て自分のものではないとわかるや

すかさず配送業者に押し付けてファブリーズの風呂へと入っていった。


「やった! 大成功だ!!」


悪臭箱作戦はうまく行った。


俺の玄関には悪臭だらけの箱が並ぶことになったが、

金を払わずにいくらでも品物が手に入るのなら問題ない。


中の品物はニオイ移りしないようにしているので、

我が物顔で愛する人へのプレゼントとした。


「嬉しい~~! また買ってくれたの~~!?」


「君の笑顔はプライスレス。そのために高級ネックレスの1つ、大した出費じゃないよ」


「でも、私達終わらせたほうが良いと思うの」

「急にどうして!?」


「奥さんに悪いもの……。私はあなたにふさわしくないわ。奥さんの元に戻って」


「そんな!!」


その後も説得の甲斐なく関係は終わらせることになった。

でも、またプレゼントを持ってやっていけば態度も変わるだろう。


頭の中は次に何を注文しようかな、とカタログリストを思い浮かべていた。


すっかりコツを掴んで、自分の生活用品もカタログで注文した頃。

ついにその日がやってきた。



【注文上限数が迫っています。注文数 99/100】



「ちゅ、注文上限数!?」


そのような存在があるなんて知らなかった。

100個までしか注文できないなら、もっと考えておけばよかった。


「残り最後の注文か……何にすべきだろう」


最後の晩餐を選ぶ以上に難しい問題に直面した。

注文上限に達すると、カタログは返品されてしまうらしい。


待てよ。返品?


「このカタログそのものを送って、返品させれば、ずっと俺のものになるんじゃないか?」


まさにシステムの穴をついたアイデアだった。


カタログは「レンタル」的な扱いになっているものの、

誰かに送りつけて俺のもとに戻ってくれば、完全に俺のものとなる。


カタログには現金だって注文できるくらいなので、

カタログそのものも、しっかり中に載っていた。


慣れた手付きでカタログを二重の箱にしまうと、

カタログそのものを別の誰かに送りつけた。


後は悪臭にむせ返った人が送り返せば、それで終了。


カタログそのものを手に入れて、上限を気にせず注文三昧。


「さーーて、早く届かないかなぁ」


GPSの行方を確かめていると、送付先の住所まで運ばれた後

予想通り突き返されてGPSの場所が戻ってきた。


「よしよし、こっちへ来い」


しだいにGPSのマーカーは俺の家へ近づいて……通り過ぎてしまった。


「うそ!? なんで!?」


慌ててタクシーを止めると配送車を追わせた。


「あの車の横につけてください!」


「こんな公道で、危ないですよ!」


「いいから!!」


タクシーを配送車の横につけると助手席の窓からは、

俺が注文したはずのカタログを開いている男が見えた。


「あの野郎……! 横取りしやがってぇぇ……!!」


毎回カタログの配送は同じ人が行っている。

それだけに配送を繰り返すうちに、このカタログの存在に気づいたんだろう。


横取りなんて、絶対にさせない。


「お客さん! ドアを開けないで! 危ないですよ!!」


「あのカタログに値段なんてつけられない!

 横取りされたら、それこそ人生の終わりなんですよ!!」


タクシードアを開けると、横につけた配送車に飛び移った。

ハリウッド映画さながらのスタントを決めて窓を叩き割る。


「うわぁ!! 誰だあんた!!」


「俺の!! 俺のカタログだーーーーー!!!」


強引にカタログを奪い取った。

カタログにはさまざまに魅力的な商品が並んでいる。


これがもう注文し放題だなんて……最高すぎる!!


「お客さん! 前!! 電柱!!」


カタログから目を前に戻すと、眉間に迫る鉄柱が見えた。


 ・

 ・

 ・


その後、葬儀はしめやかに行われた。


「走る車に飛び移ったらしいわよ……」

「なんでそんなことを……ユーチューバーでもないのに」

「本当に、お気の毒ね……」


「みなさん……本当にありがとうございます……」


夫の棺には死してなお手放さなかったカタログが詰められた。

火葬が終わると、妻は参列した愛人のもとにやってきた。


「やっぱり、あなたのところに送ってよかったわ。

 あなたならきっと夫を返品してくれると思ったもの」


「タイプじゃないですから。でも何を注文したんです?

 カタログに夫なんて項目あるんですか」


「ううん、それじゃないわ」


妻は「第一号:返礼プレゼントカタログ」を開いて指さした。



「遺産」

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