フェアリーズ・ロスト 夢幻の花

鈴川龍也

プロローグ

 私はあの子を心の底から愛している、と。


 全身全霊をもって、断言することが出来ます。


 私が生まれてきたのはあの子と出会うため。


 私が生まれてきたのはあの子を救うため。


 私がこんな力を持って生まれてきたのも、全部……あの子のためで。


 あぁ、それなら仕方ないなぁと……そう思えるようになりました。



「良かった……本当に良かった。これで全部解決ですね」



 暗い森の中、朧月の下で、私は独りそう零します。


 実は今しがた、世界中の何よりも大切なあの子を救ってきたばかりなのです。


 あの子は、本当にどうしようもないほどに苦しんでいました。


 けれど、誰にも言うことが出来ずにいて。


 ああ、もう、まったく。


 あの子には私が付いていないと駄目だなぁ、なんて思ったりもしまして。


 まぁ、けれど、その苦痛も私が取り除いてあげて。


 もはや何も不安は残っていません。


 明日から始まるであろう夢のような日々に、私の胸はどうしようもなく高鳴っています。



 と、その時でした。



「……姫様、見つけましたよ」



 不意に、閑静な森の中で老婆のしわがれた声が染み渡りました。

 私は驚いて振り返り――思わず顔をしかめました。


「……あら? エメラナ、ですか? これはこれは……一体何十年ぶりでしょうか?」


 皮肉たっぷりに唇を尖らせますが、エメラナは何も言わず俯いたまま。

 思わず眉をひそめました。このババアなら何かしら言い返してくる気がしたのですが……。


「姫様……妖精族は、姫様が残っていればきっと何とかなります……ですから、どうか申し訳ありません」


 そう言って、エメラナは懐から『ある物』を取り出しました。


 それは。


 決して、エメラナなんかが持っていていい代物ではなくて。


「は? な、なぜあなたがそれを持って……」


「どうか、どうか、ご無事で――」




 刹那、光が辺りを埋め尽くし――




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