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 最初の異変は月面基地跡地で本艦ワタシの任務である現在のテラン人元始星系。その現在を観測・記録を行っている最中、降下作戦が始動から12分48秒が経過した時点。


 現在の金星と過去の金星が一致しなかった。

 大きさ、質量。共に明らかに金星と異なっていた事。

 同時に水星が消失している事も判明した。

 

 過去の事例を参照。その時点で本艦ワタシが出した結論は惑星落とし。

 外部宇宙からの侵略軍が好んで使った代表的な戦法。

 ある一定の質量を持つ小型の惑星を大型の惑星に衝突させ軌道を変更。

 移動式のワープゲードを設置して敵惑星にぶつけるという非効率的な戦法。

 

 過去の大侵攻で侵略した星系の惑星をワープゲートを通じて運び込んだ事例がある。星系を取り戻した後に自分達の星が使われていた事が判明したという事例もある。

 水星は惑星落としに使われたと本艦ワタシは仮定。


 その後も観測を継続。

 ケリュケイオン考古学博士がケイ素変質を起こした植物に襲撃されたのと同時刻。一つの観測結果が<オモイカネ>の戦闘指揮所を騒然とさせた。

 現在の金星の質量は水星を足した質量とほぼ同じ。

 同時に僅かに質量が大きい事も判明。

 惑星そのものを材料とする衛星兵器の類なのではない。

 その可能性が浮上。

 本艦ワタシは観測ドローンを金星に近付ける。

 


『ロックを解除しました。侵入可能です』

「了解。よし、扶桑を先頭に保管室に入るぞ。敵生命体に注意しろ」

「「イエス・サー」」


 C分隊が地下に保管室に到達。

 厳重な保管室を開き端末ワタシが制御する多目的ドローンを先頭に保管室に侵入。台座に固定された石板に酷似した2基のアカシック・レコードを発見。


「こちらC分隊。アカシック・レコードを発見。これより回収する」

「了解。付近に敵性反応が近付いています。速やかに運び入れてください」


 アカシック・レコードを固定している台座を速やかに破壊。

 端末ワタシは多目的ドローンの荷台を開く。

 台座から外したアカシック・レコードを後部作業アームを展開して受け取り荷台に積み込む。


「こちらC分隊。アカシック・レコードを回収。これより地上に戻る。他の部隊はどうか?」

「A分隊、B分隊、共に健在。B分隊は放心したケリュケイオン博士を護衛して離脱しました。A分隊は目標手前で敵生命体と遭遇、戦闘中です」

「そうか。よし諸君!帰りのついでだ、A分隊の救援に行く。扶桑、問題ないか」

『問題ありません。ですが装輪装甲車の周辺に敵生命体反応が近付いています。速やかにお願いします』

「了解した。いくぞ諸君」

「「イエス・サー」」


 本艦ワタシは一部を除いて作戦が遅滞なく進んでいる事を確認。

 同時に<オモイカネ>に迫る脅威の観測を継続。

 金星はこちらに向けて加速を開始。

 同時に金星は擬態を解除。

 観測情報を収蔵している情報と照合。

 同一の兵器……存在せず。

 類似の兵器……存在せず。

 類似の生命体……存在せず…いいえ、類似の生命体を確認。


「扶桑。あれは…下にいる敵の親戚か?」

『はい。観測ドローンによる観測の結果。ケイ素変質を起こした植物と同類の個体と判明。 ただし幾つかの人為的な措置があり、亜光速まで加速。<オモイカネ>に攻撃を仕掛ける可能性…99.98%です』

「ふむ。本艦は現時点より対生戦闘に移行する」

「了解。配置につけます。各部、対生戦闘用意!」


 艦長の号令の下。攻撃指揮官が各部に警報で発令。

 艦内に警報が鳴り響き各部が戦闘配置に付く。

 本艦ワタシは各部が配置に付いたのを確認。

 本艦ワタシは空間レーダーで接近する金星と<オモイカネ>との相対距離と接敵予測時間を攻撃指揮官に伝達。


「艦長。過去に起こった対生戦闘では航宇宙艦に寄生した生物が相手でしたよね?」

「ああ。私も何度か経験した。が、あれは初めてだ」

「仮称は何としますか?」

「ふむ。扶桑。君はどうするかね?」

本艦ワタシは本時作戦目標に準え。古のものオールドワンと仮称する事を提案します』

「ふむ…よし。敵生命体を現時点よりオールドワンと仮称する」


 擬態を解いた姿は本艦ワタシに収蔵されているハワード・フィリップス・ラブクラフトが創作した『狂気山脈にて』に登場する地球外生命体に酷似していた。

 あれに金星と水星は捕食された。

 宇宙空間に適応したケイ素変異生命体。

 その原型は脅威は地球でも猛威を振るっている事を端末ワタシが伝達する。


「小隊長!あれは何ですか!?」

「知らん!とにかく近付けるな。オペレーター!」

「オモイカネより攻撃機が発艦しました。到着予定時刻は15分です」

「聞いたな?踏ん張れ!」


 揚陸艇の搭載砲。海兵隊員の武装。警戒の為に残していた<スパルタ>1機。上空を警戒する駆逐艇1艇。強襲する敵生命体に攻撃を加えるも勢いに変化は無い。

 ケイ素変質の段階で表皮が柔軟性を失わずに硬化。

 高い対弾性を獲得したと思われる。

 <スパルタ>の30mm電磁投射砲の直撃。表皮を容易に貫通・無力化。

 海兵隊隊員の7.92mm電磁投射小銃EMLには…平均4発で貫通・無力化。

 揚陸艇の搭載砲は<スパルタ>と同じ30mm電磁投射砲。

 上空の駆逐艇は76mm電磁投射砲で応戦。

 

 なおも襲撃を続ける敵性生命体。

 端末ワタシは観測ドローンが送る情報を分析。

 形状は蟻に酷似。

 ただしケイ素変質を起こした植物から変異したと思われる植物的特徴を持つ。

 また目と言った感覚器官は確認出来ず。

 口などの器官は捕虫器が変化したと思われる。


「扶桑さん。見つけました、回収します」

『フェレス司書准尉。安全確認が行われていません。緊急時なので回収は端末ワタシが行います』


 警護ドローンの防弾盾内部に収納されているサブアームを展開。

 ネクロノミコンを厳重に空気から遮断する装置を解除。

 端末ワタシは司書補からトランクを受け取り回収したネクロノミコンを収納。司書補にトランクを譲渡。


『回収終了。ウィルス等のブービートラップは確認出来ず。安全は確認されましたが検疫・除染は行ってください』

「了解。ちゃんとした場所で開けるよ」

「お二人さん、いちゃつく暇があったらすぐに戻るぞ。揚陸艇が襲撃を受けていると報告が来た、俺達が戻らねーと揚陸艇が飛び立てねえ!」

『了解。駐機している装輪装甲車が襲撃を受けたという報告はありません。B分隊は装輪装甲車の護衛。C分隊はこちらと合流後に戻る予定です』

「了解した。諸君、遠足は終わった!全速力で帰るぞ!」

「「イエス・サー」」


 端末ワタシはA分隊が目標を回収した事をヴェルガム准将に伝達。

 同時に降下して来た攻撃機に攻撃目標を表示する。


『現在。揚陸艇を包囲する敵生命体は全て端末である可能性が高く、本体を撃破しない限り襲撃は続くと予想されています』

「前置きはいらん。目標だけを表示してくれ!」

『畏まりました。目標。揚陸艇より523m離れた地点にある巨木。果実が本体もしくはプラントだと思われます』

「了解。各機、攻撃開始!」


 カナード付き前進翼という大気圏内での戦闘も考慮して開発された全空間対応型空間戦闘攻撃機。

 防空衛星の破壊時以上の重武装により瞬く間に襲撃する敵生命体の本体を撃破。

 観測ドローンも燃え落ちる本体を確認。 

 同時に一部の端末を除いて一時的に動きを止める。


 動いているのは命令系統の違う端末。

 もしくは本体が消失した際の統率個体。

 端末ワタシは統率個体と思われる端末をマーク。

 端末ワタシは上空に待機する駆逐艇に統率個体を表示。

 駆逐艇は再び動き始めた端末の中から統率個体を優先して砲撃を続ける。

 統率個体が撃破される度に端末達は動き止める。


 爆撃を終えた攻撃機は揚陸艇に戻る装輪装甲車と<スパルタ>の上空を駆逐艇と共に警戒。

 揚陸艇は装輪装甲車と<スパルタ>を回収すると同時に上昇。


「扶桑、どういう事だ。何故、帰投できない?」

『現在。<オモイカネ>は対生戦闘の為、第二戦速で加速中。戦闘終了ま高高度で待機してください』

「対生戦闘?航宇宙生命体が現れたっていうのか!?」

『はい』


 端末ワタシの回答に揚陸艇の艇長と小隊長は愕然としている。

 ヴェルガム准将の判断で伏せていた情報を開示したからだ。

 敵生命体の推定質量は過去に出現した航宇宙生命体の中では最大クラス。

 本艦ワタシは<オモイカネ>の火器管制制限の全解除を攻撃指揮官が発令するのを確認。推定質量及び状況から同盟軍交戦規定に抵触しない事を確認。重質量弾頭を主砲に装填。副砲。舷側砲に実態弾を装填。


「対艦機雷散布弾攻撃始め。目標。オールドワン。弾数4発」

「対艦機雷散布弾発射用意良し」

「対艦機雷散布弾発射始め」

 

 攻撃指揮官の命令。

 <オモイカネ>はVLSから対艦機雷散布弾を発射した。

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