第2話 アルティナ・エインズワースという少女
その呟きの方へ振り返る。今すれ違った赤みがかった茶色の、確か赤褐色だったかな? とても綺麗な髪の女子生徒から聞こえた気がしたんだけど、気のせいかな? はっきりと見つけたと俺に対して言ったような気がしたのは空耳だったとか? 外国人っぽい女子生徒はそのまま職員室の方へ行ってしまった。うん、俺の気のせいだな。外国人の知り合いなんて俺にはいないし。
それにしても、まるで人形のように整った顔立ちをしていた。あんな綺麗な子は美月と生徒会長くらいしか見たことがない。この学校の女子生徒はみんなスペックが高い。それでも、群を抜いているのが身内びいきを抜きにして従妹の美月と生徒会長をしている
「おはよう」
教室に入り、クラスのみんなに挨拶をする。
「おーっす、星夜。朝っぱらから美月ちゃんと仲良く登校とは羨ましいね!」
挨拶と共に茶化してくるのは中学生時代からの親友の一人、
「おはよう葵。そんなこと言ってこの前隣のクラスの女子侍らせてカラオケに行ってただろう。俺らからしたらそっちの方が羨ましいって思うぞ? なぁ?」
そうだそうだと男子連中が言う。それを笑いながら受け止めるのが葵の良いところだ。
「はっはっはっ、確かに可愛い子ちゃん達と遊ぶのも楽しいが、高嶺の花も愛でてみたいと思うのさアタシは。特にあんたの美月ちゃんと生徒会長様は、ね」
何と言うか、ジゴロかスケベ親父みたいなことを言っているが正真正銘女の子だ。そんな葵も美少女の内に入ると思うんだが、本人は自分をそう思っていない節がある。本当に勿体ないとも思う。それに、俺の美月ではないのだが。
「おはよう星夜、葵嬢。今日もまた葵嬢と夫婦漫才かな?」
「いや、どこをどう聞いて今のが夫婦漫才なんだい? まったく、武は天然だなぁ」
葵が俺の後に入ってきた男子生徒にツッコミをいれる。そんな彼は
「おはよう武。今日もまた可愛いな」
「あのさ、異性に言われるならまぁそこまで気にしないけどさ……同性に言われると本当に困るんだけど」
しかし、マジで可愛いのである。一年の時の学祭で女装をさせたら男子生徒に告白されていたのだから。今年も女子の着せ替え人形になるだろうことが既に決定済みなのは内緒の話だ。
「既に告白した男子は両手では数えきれないからね。別の学校の男子生徒からも告白されているのをアタシは知っているんだよ?」
流石、去年開催された嫁にしたい女子生徒第三位に選ばれただけのことはあるな。男子生徒なのにまさかの三位に驚いたが、やはりメイド姿の武には男女共に魅了されていたか。
「何で葵嬢が知ってるんだい? はぁ、本当に困るんだからね。僕にはそんな気はないってのにさ。もう面倒だから星夜が僕の恋人ですって言っても良いかい?」
「止めてくれ、俺の命が狙われてしまう」
撃沈した憐れな男子生徒に命を狙われるのだけは本当に勘弁してください。その後もだらだらと話していたら、いつの間にか先生が来ていた。
「はーい、おしゃべりはそこまでにして席に着いてねー」
おっとりとした喋り方のゆるふわ癒し系、どう見ても二児の母には見えない童顔な我らが担任。嫁にしたい女子生徒第二位の逢澤 美智子先生。先生なのに嫁にしたい女子生徒に分類されているが、それよりも驚くことがある。名字でも解るように生徒会長こと逢澤先輩のお母さんでもあるのだ。
そんな逢澤先生が入ってきてみんなが席に着く。にこにこしたままみんなが席に着くのを確認すると、先生はちらりと教室の扉を見てから話し出す。
「今日はなんと、外国からの転校生が来ています」
えっと、先生。それは留学生と言うのではないでしょうか? 転校生ってのはこの国の他の学校から、この刻流高等学校に来たときに使うモノじゃないんでしょうかってツッコミは入れない方がいいかな?
「先生、ワタシの場合転校生ではなく、留学生が正しいと思います」
そう言って俺と同じようなツッコミを入れながら入ってきたのは、先程すれ違った赤褐色の髪をした少女だった。瞳も赤みがかった色をしていてとても綺麗だ。その容姿は本当に人形のようで、恐ろしいほど整っている。ビックリするくらいの美少女が、一瞬だけど俺と目が合った。
「あらあら、先生間違っちゃったわね。ありがとうアルティナさん。じゃあ、自己紹介をお願いできるかしら」
先生の言葉に頷き、黒板に名前を書いていく。
「初めまして、アルティナ・エインズワースと申します。ロンドンの学校からここに留学して来ました。まだ日本語に不慣れで聞き取りづらいことが多々あるかと思いますが、宜しくお願いします」
とても不慣れには見えないし聞き取りづらいこともない流暢な日本語で、彼女は自己紹介を終えた。そしてまた、彼女と俺は一瞬だけど目が合う。注目しているんだから目が合うのも仕方ないんだけど、何だろう? 彼女の視線が、何かを物語っている。それは何だか少しだけ哀しさが感じられる視線に、俺は言い様の無い苦しさを感じる。それは何処かで感じた痛み。何だろう、俺は彼女を知っている? いやいや、それは錯覚で妄想だろう。今日初めて逢った留学生をどうして俺が知っていると思った?
「どうしたの星夜?」
俺が頭を抱えていることに気付いた隣の席の武が、心配そうにこちらを見ていた。大丈夫とジェスチャーで伝えて、とりあえず今考えていたことを頭の隅へと追いやる。そう、そんなあり得ないことを考えていても仕方がない。
「はい、それじゃあアルティナさんの席は……白銀君の隣ね」
「わかりました」
俺の右隣には武がおり、左隣は今まで席すらなかったのだが、そういえばいつの間にか席があったな。話し込んでて気付かなかった。そうして俺の隣に来たアルティナ・エインズワースさんは、こちらを見て一言。
「宜しくね、えっと……シロガネクン?」
「あぁ、宜しくエインズワースさん」
こうして、俺とアルティナ・エインズワースという少女は出逢った。
どうやら異世界“から”転生してきたらしいんだけど!? 美元貴音 @hyu-ru
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