【合作小説】アンヘルダウン
高城 真言
1
満点の星空に覆われた街。
一見、栄えているように見える街。
しかしそこは、様々なゴミが街中に落ちている、誰もいない静かな場所だった。
街の中心に、星空へ向かって聳え立つ、時計台がある。
その時計台の中には、双子の天使たちがいて。
頭上に広がる星屑の世界を、静かに見上げていた。
「もうすぐ雨が降るね」
「そうだね」
そんな言葉が交わされた直後。
時計台の針が12時を指し、街中に鐘が鳴り響く。
それを合図に、空からは雨が降り始めた。
ぽつりぽつりと地に落ちる雫は、次第に量が増えていき。
静かな街に、鐘の音と雨降る音のハーモニーが奏でられる。
「ほら、降ってきたよ。
数え切れないほどの……ゴミが」
「今日も、本当にたくさんの人が亡くなったみたいだ」
雨の中、雫とは違う、様々な形の何かが空から降ってくる。
それが、天使たちの言うゴミだった。
それらは全て、不思議なことに、空を舞うようにゆっくりと降ってくる。
降ってくる、というよりかは、降りてくる、という表現のほうが正しいだろう。
ゴミの雨がやみ、再び静かな街に戻った頃。
双子の天使は、時計台の屋根の上に移動する。
そして手を繋いで、周囲に広がるゴミの街を見渡した。
「亡くなった者たちが、次なる生を送るために」
「僕たちから、祝福のキスを送ろう」
「新しき人生を送る者に」
「「幸あらんことを」」
双子の天使は、時計台の上からそれぞれ異なる方向に飛び立つ。
そしてゴミの元へと着地した。
双子の天使がいるこの世界は、人間世界とは異なる世界。
星空広がる夜が続く、昼なき静かな世界。
それでも時間という概念は存在し、夜の12時になると時計台の鐘が鳴り、雨と共にゴミが降ってくる。
そのゴミは、ただのゴミではなく。
──死者の残留思念、だった。
双子は、落ちているゴミをひとつ、両手で掬うように拾い上げる。
そして、そのゴミに優しくキスを落とした。
すると、手にあったゴミはゆっくりと昇華し、星空へと登っていく。
双子が祝福のキスをすることで、死者の残留思念は、次なる生へと向かうのである。
それが、この街にいる双子の役目であり。
双子は役目を全うするだけの毎日を送っていた。
それでも、双子たちの表情は明るくて。
全ての死者を等しく、笑顔で送り出す。
「君は不慮の事故で人生を終えてしまったんだね。
来世はきっと、最期まで幸せな人生が送れるよ。
頑張ってね」
双子の兄は、ひとつひとつのゴミに、声をかけてからキスをする。
ゴミは、その声に答えるように、仄かな光を発してから昇華した。
違う場所では弟が、兄と同じように声をかけながら、ゴミを星へと昇華させる。
病死。
事故死。
老衰。
自殺。
様々な残留思念があり、ガラクタを手にしたとき、双子はそれらの記憶を垣間見る。
しかし、双子にできることは、その残留思念を星へと還すことだけ。
だからこそせめて、次なる生での幸せを願って、双子は声をかけていた。
そうして街から、ガラクタの数が少しずつ減っていく。
──そう、少しずつ、だ。
暫くの時が経過した頃、兄は一度手を止め、周囲の街の様子を見渡した。
「……なかなか減らないなぁ」
そんな言葉が発せられたとき、弟が兄の元へと飛んできた。
「ねぇ、最近多くない?」
「うん、増えたかもしれないね」
「このままじゃ、僕たち二人で、全てを星に返すことなんて……」
心配そうな顔をする弟に、兄は優しく微笑む。
大丈夫だよと、言い聞かせるように。
「この役目を負っているのは私たちだけなんだ。
それはつまり、この役目は私たち二人だけで足りる役目ってことだよ」
「そうだね。僕たち二人だけで足りなかったら、もっとたくさんの天使がいるはずだもんね」
「うん、だからやろう」
「うん、やろう」
二人は頷きあうと、またそれぞれの持ち場へと飛んでいき。
再び、昇華させてゆく。
そして1日が経過した、街の中心の時計台。
12時の鐘がなったとき、雨と共にガラクタが降ってくる。
双子たちは時計台の窓から、ガラクタが降る様子を眺めていた。
「今日もたくさん降るね」
「それだけ亡くなってる人がいるってことだよ」
「もし僕たちがこの役目をやらなくなったら……人間はいなくなっちゃうのかな?」
「私たちが転生を助けてるから……そうかもね」
兄は弟の質問に答えたあと、真っ直ぐな瞳で弟を見た。
「でも、人間がいなくなることは絶対にない」
「なんで?」
「だって、私たちが役目を放棄するなんて、そんなこと絶対にないでしょ?」
「そっか、そうだね」
微笑み合ったあと、双子は再び窓の外を見て、雨が止むのを待つ。
雨が止めば、いつものように時計台の上に登り。
手を繋いで、願いを込める。
「亡くなった者たちが、次なる生を送るために」
「僕たちから、祝福のキスを送ろう」
「新しき人生を送る者に」
「「幸あらんことを」」
星屑の空の下、二人の天使が空を舞う。
彼らは、自分たちの結末を知らない、無垢なる白き天使だった。
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