ミューズ・オンライン

男爵芋

プロローグ

MMORPG「ミューズ・オンライン」は、正式運用から5年が経過した人気オンライン・ゲームである。

奇しくも専用ヘッドギアを使った世界初のフルダイブ型のVRMMORPGである「アール・オンライン」と同時期に正式運用が始まった。

公開当時は珍しさから「アール・オンライン」が人気を集めたが、「ミューズ・オンライン」は徐々に若年層、かつてMMORPGを遊んだ事のある30代以降のユーザー上手く取り込んだ。

「アール・オンライン」は月額課金制だが、「ミューズ・オンライン」は基本無料である。アイテム課金制だった。

世の中のゲームプレイヤーは、VRよりも昔ながらのMMORPGである「ミューズ・オンライン」を遊びたいというユーザーが多かった。

その為、若年層だけではなく、過去にMMORPGを遊んでいた大人にも絶大な支持を集めたMMORPGだった。

幅広い年齢層に愛されているオンライン・ゲームである。

「ミューズ・オンライン」はパソコンがあれば遊べるが、「アール・オンライン」は高価なヘッドギアが別途必要である。

「アール・オンライン」のクローズドβ版が公開された時、当選者用の為に3万個ものヘッドギアが同時に発売されたが、高価なヘッドギアは販売初日で完売した。

早い者では、発売の2週間前から販売店に列を成していた。

そして、オープンβ版が公開された時、更に3万個のヘッドギアを発売したが、やはり即日完売だった。

だが正式版が公開された時、ヘッドギアは発売されなかった。

これは単にヘッドギアの製造が間に合わなかった為である。

更にVRMMORPGを遊ぶには高スペックのパソコンが必要であり、ヘッドギアも購入しないといけないので支出があまりにも大きい。

VRMMORPGは画像を綺麗に投映させないといけないので、グラフィックボードは最高の製品を用意しないといけない。

運営が使用を勧めるグラフィックボードを指定するほどである。

なお、その指定されているグラフィックボードの価格は、なんと市場価格は35万円である。

グラフィックボードが安い物だと、見られるグラフィックは大きく劣る。

「アール・オンライン」は起動時にグラフィックボードを自動で調べるので、グラフィックボードの製品により投映する画質を自動で調整する。

各周辺機器メーカーは、「アール・オンライン」に特化した高額なグラフィックボードを発売している。

「アール・オンライン」で一番の問題なのは、ヘッドギアの価格が高いのである。

絶対数も少ない。この世には6万個しか存在しない。

オークションサイトにもヘッドギアは流れているが、定価を遥かに超える値段でオークションに登録されている。

在庫が常に欠乏している為、ヘッドギアを購入する事すら難しい。

ヘッドギアを買うには、高スペックのパソコンが軽く一台買える程の価格設定だった。

その為、ゲームに大金を使えない学生や若年層を中心に「ミューズ・オンライン」は徐々に支持を集めた。

「ミューズ・オンライン」は、ゲーミングノートパソコンではなくても、低スペックのノートパソコンでもサクサクと遊べる。

低スペックのパソコンでも遊べるが、グラフィックに関してはどのユーザーも綺麗としか言いようがないグラフィックだった。

金銭的に余裕のある者は、「アール・オンライン」を遊びつつ、「ミューズ・オンライン」も遊んでいる者が多数存在する。

世界初のVRMMORPGである「アール・オンライン」は、まだバグが多数存在する事を運営会社が認めているがバグ情報は一切公開していない。

フルダイブ型の為、何があるかわからないので、バグ情報の開示を要求しているユーザーは少なくない。

そして、「ミューズ・オンライン」は逆にバグ情報を全て開示している。

ただ、バグを不正使用し、何らかの利益を得た者はアカウントを即座に凍結される。

海外からのプレイヤーは、バグの不正使用をする者が多いのでアカウントを即座に凍結される者が多数存在した。

これは24時間体制で監視しているGMが多い為である。

GMとはゲームマスターの事である。運営側のキャラクターである。

あまりにも悪質なユーザーへの対処はIPをブロックする事なので、IPが変わらない限り、二度と「ミューズ・オンライン」を遊ぶ事が出来ない。

IPとはインターネット・プロトコルの事であり、リアルの言葉で言えばインターネット上の住所のような物である。

その為、「ミューズ・オンライン」ではRMT業者、規約の違反者が非常に少ない事で有名だった。

不正行為が発見されれば、すぐアカウントを凍結される為だ。

RMTとは「リアル・マネー・トレード」の略で、実在の現金を銀行振込でRMT業者に支払い、その支払った分のゲーム内通貨を手に入れる不正行為である。

不正行為なのでRMTを利用した者も当然の事だが即座にアカウントが凍結される。

当然、RMT業者のアカウントも即座に凍結される。

「ミューズ・オンライン」は毎週水曜日にアップデートされるが、アップデートされる事により既知のバグは解消されるが、新たなバグを作ってしまうのは愛嬌である。

長年、遊んでいるユーザーは「また、バグが出たのか」と笑っている。

現在の「ミューズ・オンライン」はレベルキャップが開放されて、最高レベルはLv.70まで上げる事ができた。

だが、Lv.70まで開放されたのは10ヶ月前の事だった。

廃ゲーマーは既に僅かな期間にレベルキャップに到達しており、装備も整えているので暇を持て余していた。

だが、世の中の人たちがお盆休みに入るタイミングに大ニュースが舞い込んだ。

「ミューズ・オンライン」の大規模アップデートの情報である。

「ストーリー8 永遠なる大地」という大規模アップデートがされるとユーザーに情報を発表したのである。

新たなダンジョンが追加され、新しいインスタンスダンジョンも遊ぶ事も出来るようになった。

旧インスタンスダンジョンは、実はボスがやたら強いだけでドロップアイテムがLv.60代用だからだ。

Lv.70代でパーティーを組めば、それほど苦労しないでクリアが可能なのである。

ボスが強いだけで得られる経験値もLv.70では美味しくなかった。

だが、インスタンスダンジョンには秘密がかくされているという話しが噂されているので、どのプレイヤーも何度もインスタンスダンジョンに挑戦したが、誰も秘密は暴けなかった。

新インスタンスダンジョンの要望は、レベルカンストユーザーから非常に多かったので、運営会社はとうとう重い腰を上げた。

Lv.70より先でもやりごたえのある新インスタンスダンジョンが実装する事を発表した。

ただし、レベルによってインスタンスダンジョンを作れる回数も決まっていた。

問題はソロでは新インスタンスダンジョンはを作る事は出来ない。パーティーを組む必要があると書かれていた。

インスタンスダンジョンの面白いところは、ダンジョンをランダムで作成するので、同じマップで遊ぶ事はほぼ不可能に近い。

そして、このダンジョンではパーティーメンバー以外のユーザーが存在しない。

レイドではないからだ。

他のプレイヤーに敵のタゲを取られる心配はない。

タゲとはターゲットの略である。

特筆べきは新インスタンスダンジョンでしか手に入らないアイテムが相当数ある事だ。

「ミューズ・オンライン」ではスクロールと材料さえ持っていれば、装備品やアクセサリー等が作成する事が可能である。

装備を強化する為のアイテムを使えば装備がパワーアップする。

新インスタンスダンジョンの登場で、更に装備品やアクセサリーの作成が可能となる。

このゲームの場合、高レベル者の武器や防具は基本制作する事となっている。

稀に高レベル帯の武器や防具を直接ドロップするMOBがいるが、滅多にドロップはしない。

「ミューズ・オンライン」内で一番取引されているのは、高レベル帯の武器や防具である。

そして、装備作成に必要な素材だ。

基本、高レベル帯の武器や防具は作らねばならないので、Lv.70以降の武器や防具、アクセサリーはフィールド、通常ダンジョン、インスタンスダンジョンで手に入るアイテムで作成をしないといけない。

つまり何度もインスタンスダンジョンに潜り込まねばならないという事である。

その為、やり込み感のあるダンジョンとなる。

そして、レベルキャップも開放されて、Lv.80まで上げる事が可能となる。

「ミューズ・オンライン」が若年層の人気を集めたのは、何よりも課金アイテムの価格の安さである。

課金アイテムがVRMMORPG、他のMMORPGに比べ格安なのである。

「アール・オンライン」にも課金アイテムが存在するが、一回のクジを引くのに500円と高額であるが、「ミューズ・オンライン」は一回150円である。

一般のコンビニやゲーム専門店で仮想通貨を購入し、それを使う事によりこのゲームではクジが引ける。

ただし、クジの価格が格安な分、レアと呼ばれるアイテムはそう簡単には手に入らないが、運が良ければ一回目のクジでレアを引き当てる事は可能である。

これだけは、他のゲーム同様に神頼みである。

課金アイテムのクジが格安なので、レアアイテムのゲーム内市場価格は非常に低い。

金策ダンジョンとユーザーから呼ばれているダンジョンが複数実装されているので、レアアイテムをゲーム内通貨で購入する事が意外と簡単なのである。

ただし、何度も同じダンジョンで金策するしかないので飽きが来る。

それに耐えた者だけが大金を持てるのである。

その為、運営開始から5年が経過したが、このゲームに限ってはインフレは存在しない。

逆にレアアイテムを売らないユーザーがほとんどだからだ。

ただし、金に困っているユーザーは低価格になってしまってもアイテムを売る必要がある。

金策ダンジョンを繰り返すのが嫌なユーザーほどアイテムを売るしか儲けはほぼ無い。

このオンラインゲームの成功は、「アール・オンライン」と真逆なゲーム性にあった。

「アール・オンライン」が未来へのVRMMORPGなのに対し、「ミューズ・オンライン」は過去への回帰といったMMORPGだった。

そして、お盆休み前日の金曜日にほぼ半日を使い、ユーザー待望の「ストーリー8 永遠なる大地」の緊急アップデートが施される事が紹介された。

朝7時から始まった緊急アップデートは、終了時間の延長を繰り返しながら、なんとか夜22時頃には終了した。

ユーザーは待ちに待った大型アップデートだったので、こぞってログインしようとしたので、なかなかログインが出来なかった。

各種掲示板では、「ミューズ・オンライン」がログイン・オンラインになってしまったと嘆く書き込みが多かった。

ログイン・オンラインになった理由は、お盆休みになるので単純に新規プレイヤーが増えたのと復帰組が増えた為である。

その為、サーバーがパンクしていた。

夜の23時頃には緊急メンテナンスとなってしまった。

そして・・・、後に『トラジティー』と呼ばれる時がやってくる。

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