パネマジダッシュ
バブ太郎
第1話
「しにたい。」
新大久保の、とある古いホテルに取り残された自分の口からつい出た言葉に我ながら驚いた。
相手は悪くなかった、初めてにしてはちゃんとできた(はず)、多少の犠牲を払ったけどお金もきちんと払った、なのに何だろうこの何とも言えない虚無感は。どこで俺は間違えたんだろう?
8月14日
うだるような暑さはやや落ち着き、世間は盆休みを満喫しているこの日、俺はTwitter経由の出会い厨行為に限界を感じ、より強い刺激と直接的な満足感を得るため、ハッピーメールやティンダーといった新しいアプリをインストールしてみた。いわゆる出会い系アプリというやつだ。この種のアプリには業者やサクラも多いと聞く、某巨大掲示板で情報を得て、限りなくリスクを回避しつつ、果実を得るため、若干の課金をしながらターゲットを探していた。目的は当然Sから始まる3文字のエキサイト行為、相手は風俗嬢ではなく素人女性、ちなみに俺は32歳にしてまだ経験がない。そう、俺はDTだった。
課金によって獲得するポイントを消費しながら、アプリ上で相手とやり取りを続けていく。こちらのコメントに対してやたらと長文で返してくる相手もいた、おそらく業者だ、テンプレートで綴られた文章を軽快に読み飛ばし、再び電子の海の向こう側にいるターゲットを探していく。数多くのアカウントを閲覧し、フリック入力に親指が疲れてきたそのころ、とあるテキストに目が留まった。
「割り切り。3万円」
きた。おそらく本物だ。早速アカウントの写真を見てみる。うん、俺好みだ。すぐさまコンタクトを取るべく連絡を取ってみる。しばらくして返信が返ってきた。
「私も慣れてないので…、というかまだ経験無いし」
目を疑った。思わずスマホを落として3度見した。これはなんていうエロゲですか?いきなりトゥルーエンドに入れるのか?。これが天啓というものだろうか。大学中退から狂い始めた俺の人生はここから光に満ち溢れたものに変わるのだろうか。
下品な言い方をすると、いわゆる初モノをいただける期待に胸を躍らせながらさらに返信を打つ。結局その日相手からそれ以上の返信は無かった。短い夢だったのだろうか。
8月15日(終戦記念日)
「うっ!………、ふぅ……。」
昨日のやり取りを半ば忘れつつあった昼過ぎ、自宅で自慰行為を終えて一息つくと、手元にあったスマホの通知音が鳴った。
「今日どうですか?場所は新大久保で…」
どうやら天国に行ける蜘蛛の糸はまだ切れてなかったようだ。瞬間、返信を打つ。そこからのやり取りは早かった。時間、場所、金額、そして今日の俺の服装を相手と確認し、アポを取ることに成功した。
しかしここで重大な事実に気づいた。金がない。バイト代は来週だし、仮に手元の生活費をすべて使ったところで3万円+諸経費には届かない。どうしよう、金のことを正直に話してアポを解消すべきだろうか。落胆と共に逡巡していた時、ふと足元に目をやると、黒い精密機器が目に留まった。ニンテンドーSwitchだ。京都の老舗ゲーム会社から発売された大人気ゲーム機器、これを秋葉原のゲームショップに持っていけば、おそらく天国への片道切符は手に入る。
そこからの俺に迷いはなかった。万が一のことを考えて良好な状態で保存してあったパッケージに機器を詰め込み、急いで秋葉原の中古ゲームショップに持って行った。そこで概ね狙い通りの金額を手にした俺は、念のため着替えを持って新大久保へ向かった。新大久保なんて上京以来初めてじゃないだろうか。
秋葉原から総武線で約25分、新大久保に降り立った俺は、一か所しかない改札から勢いよく飛び出し、まず周りを見回した。まだそれらしい人影は見当たらない。新大久保駅前で待つ。ときおり聞こえる韓国語に、これからの出会いへの一抹の不安を覚えつつ、相手と会った際の会話の糸口をシミュレーションしていた。
「あの…、〇〇さんですか…?」
振り向くと昨日アプリで見たかわいらしい写真と全く同じとまではいかないものの、多少の加工を差し引いても十分俺好みの娘が目の前に立っていた。
途端に跳ね上がる心拍数と動揺を抑えながら、平静を装いつつ、会話を進行していく。新大久保の地理に明るくない俺だったが、どうやら相手(以降A子)に心当たりのホテルがあるらしく、A子の案内に沿って駅から反対側の裏路地を歩いて行った。
しばらく歩くと雑居ビルの間に立つやや古いラブホテルをみとめ、受付に向かう。2時間で2,500円、初めてだったので安いのか高いのか分からないまま料金を前払いし、鍵を渡され、A子と共に部屋に入る。そういえば駅前で会ってからここまで、最初の一言を除いてA子は一言も話していなかったことにここで気が付いた。
2人で部屋に入り、いよいよ人生初の瞬間の訪れをより強く実感した。俺はついに32年間貯めた魔力をこの小さな娘に解き放つのかと考えると、A子の細い肩を見ながら背中がぞわぞわした。
“身体は熱く、心は冷静に”。最近読んだ漫画のフレーズがよぎる。落ち着け俺、ここで結果を出すために今逸ってはいけない。アプリ経由で調べていたA子の趣味に沿って、予め用意していた初音ミクの小さなぬいぐるみ型キーホルダーをA子に渡す。やや驚いていたA子だったが、プロファイリングは成功したらしく、その場で自身のカバンにキーホルダーを付けていた。計算通り。あのとき夜神月もきっとこんな気持ちだったろう。
ほどなくしてシャワーを浴びるために小さなシャワールームに入った。A子は自宅で既に入っていたらしく、俺一人で入ることになった。財布を部屋に置いたままにしていたことを少し後悔しつつ、会って10分くらいのA子のモラルを信用することにした。一人でシャワーを浴びながら、今日は既に自慰行為をしてしまっていたことに気づく。自らの陰茎を摩りながら、がんばれるよな俺、と小さくエールを贈った。一通り洗ったのち、タオルを持ってこなかったことに気づいた。A子に声をかけてタオルを持ってきてもらい、初めて母親以外の女性に全裸を晒す。ちなみに二次性徴後に限定するとA子が初めてになる。
そしていよいよ2人でベッドにつく。経験がないと言っていたA子だったが、意外にも潔く服を脱ぎ、シモンズ製のベッドの反発に身をゆだねていた。同じく全裸の俺もベッドに向かい、勢いよくダイビングした。反発したベッドにA子の身体が少し浮き、脚で隠れていた陰毛が少し見えた。興奮した俺はまずはその白い柔肌をむさぼるべく、とにかくA子の全身を触った。太ももフェチの俺はA子の大腿部を重点的に攻め、途中でA子が笑ってしまうくらいとにかく触った。そして舐めた。
ひとしきりA子の肌を満喫した俺は、自分の物も舐めてほしい旨をA子に告げるものの、A子はやんわりと拒否、妥協点として手で擦ることに落ち着いた。こんな小さな可愛らしい少女に対して剛直を押し付ける俺はさぞ醜悪な顔をしていただろう。しかし結果としてA子の慣れない手つきと低いモチベーションに、俺の剛直は半グレとなってシモンズ製のベッドにその頭を擦り付けることになった。
そしていよいよ新大久保の古びたラブホテルにおいて、ぎこちない雄と雌の邂逅が始まった。A子の同意のもと、いわゆる正常位を選択した俺は、スタンバイ状態のA子に対し半剛直を押し付け、擦り付けた。そこから先は正直よく覚えていない。入ったのかすら覚えていない。とにかく人生で初めての経験に高揚し、無我夢中で腰を振り続けた。ほどなくして(実際は1分ほどだったが)俺はA子の中で果てた。ここで白状すると避妊具を装着しないまま挿入し、そしてそのまま中で果てたのだ。脱力した俺の様子に何かを察したA子は
「中で出した?」
と聞き、俺がごめん、と頷くと、慌ててシャワールームに駆け込み、胎内で蠢く俺の体液を洗い流した。そしてA子の中から再び大気中に解き放たれた俺の陰茎から、再びビュルルッと精液が勢いよく飛び出した。
心地よい倦怠感と共にA子のシャワーを待っていると、なぜか不機嫌そうな顔と共にA子がシャワールームから出て服を着始めた。俺は全裸のままだったので、ピロートークをするのに何故服を着るんだろう、と思いながらA子に何か話をしようと告げると、A子は更に不機嫌そうな顔と口調で「何を?」と言った。予想外の反応に俺は呆気に取られて、そのまま帰り支度を続けるA子を見つめるほかなかった。
約束の3万円をわたすとA子は「ありがとうございました。」とだけ告げて先に部屋を出て行った。
雄と雌の獣臭と余韻の残る部屋に一人残された俺は、経験のない虚無感と焦燥感に苛まれ、
ただ一言「しにたい。」と独りごちた。
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