第33話 僕は謎の敵との戦いで勇者として覚醒する




  *




 剣を振り下ろした直後のことだった。


 男は不敵な笑みを浮かべながら、その攻撃を回避する。


「うおおおおっ!!」


 雄叫びを上げながら僕は男に向かっていった。


 それと同時にソフィアやドロワットさんたちも動き出したようだった。


 しかし、そんな僕たちの攻撃が届くよりも早く男は口を開いた。


「くっ!? こうなれば仕方ない……!」


 そう言った直後のことだった。


 なんと男は水晶玉のようなアイテムを掲げて叫んだのだ。


「来いっ!!」


 すると巨大な魔法陣が出現して中から何かが姿を現した。


 それは巨大な竜だったのだが――。


(なんて大きさだ……!?)


 現れたドラゴンの大きさに驚いていると男は言った。


「こいつは俺の切り札の一つだ……! さあ、やれぇっ!!」


 その言葉を聞いたドラゴンはこちらに向かってブレスを放った。


 それに対して僕と仲間たちは、それぞれ回避行動を取った。


 その結果、全員が無事だったわけだが、問題はここからだった。


(このドラゴン、普通じゃないぞ……!)


 そんなことを考えていた時だった。


 いつの間にか僕の横にいた男が話しかけてきた。


「ほう、今の攻撃を避けるとはさすがだな」


「お前は、いったい何者なんだ?」


 僕が尋ねると彼は不敵な笑みを浮かべながらこう告げた。


「俺は魔王軍の四天王の一人、ウエスターだ」


「なっ!?」


 それを聞いて僕は驚愕してしまった。


 なぜなら目の前にいる存在こそが魔王軍の幹部だったからだ。


 だが、そこで僕は違和感に気づいた。


「どうして魔王軍の四天王が、こんなところにいるんだ?」


「俺はな、魔王様の予言により、勇者候補をしらみつぶしに処理しているんだよ。それがお前なんだよ、ゴーシュ・ジーン・サマー……!」


「なるほど。それで帝国を襲ったということか。爆発は『フレアランス』によるものだな」


「そうだ。だから、覚悟しろよ」


 ウエスターの発言の突如、地面が大きく揺れたかと思えば、戦闘がおこなわれていた冒険者ギルド近辺に大きな地割れが発生したのだ。


 さらに続けて地震が発生し、さらには竜巻までも発生したのだ。


 さらに追い打ちをかけるように雷が落ちてきたりなどしたのだが――。


(これって、まさか……あいつが引き起こしたのか……!?)


 そう思った直後に大きな声が響き渡った。


 どうやら声の主はあの男のようだ。


「もう終わりにしてやる」


「何をするつもりですか?」


 バーシアさんが男に問いかけると彼は笑みを浮かべてから言った。


「お前たちの命はないということだよ」


 その言葉を合図にして、また戦闘が始まろうとしていた――。




  *




 それからの展開は早かった。


 突如として出現したドラゴンによって、帝国の街全体が破壊されていったのだ。


 それだけでなくモンスターの大群まで出現してしまったのだ。


 しかし、それも長くは続かなかった。


 なぜならメイたちが必死に食い止めてくれたからだ。


 しかし、それでも限界はあったようで、ついには僕も倒れてしまった。


(くそ……ここまでなのか……)


 そんなことを考えていると誰かが近づいてきたようだ。


 それが誰なのかを確認する前に僕の意識は遠のいてしまったのだった――。




  *




(ここは……?)


 そんな疑問を抱きつつ周囲を見渡してみるとそこは見知らぬ空間だった。


 まるで宇宙空間にいるような感じだと言えばわかりやすいだろうか?


 そんなことを考えていると声が聞こえてきた。


『ここは、お前の心の中だ』


(心の中……?)


『そうだ。今、お前の魂はこの空間にいる』


(君は、あの……精神生命体の――)


『そうだ。もう、わかっているかもしれないが……俺は過去の勇者だ』


(そうだったんですね……)


『そんなことよりも、お前に話がある』


(話って?)


『ああ、実はさっきの戦いでお前が使っていた力は本来、お前のものではないんだ』


(どういうこと……?)


『あれは、元々は俺のものだったんだ……』


(えっ!?)


『だけど、今は違うんだ……』


(どうして……?)


『わからないか?』


(うん……)


『だったら、教えてやるよ……』


 そう言うと彼が僕に教えてくれたことは驚くべきことだった。


 まず一つ目は、僕が使った力は、元々は彼のもので間違いないということ。


 二つ目は、その力が僕に継承されていくということ。


 三つ目は、いずれ僕も、そのような存在になるということだ。


 それを聞いた僕は思わず驚いてしまった。


 なぜならその力の正体を知ってしまったからだ。


(じゃあ、もしかして……あれが――)


 そこまで考えたところで僕は彼に問いかけた。


(もしかして、君の力っていうのは――)


 その問いかけに彼は静かに頷いた後でこう言った。


『そうだ、お前は俺の力を受け継いでいくんだ』


(やっぱり……)


『だから、これからの戦いは、お前に任せることにした』


(えっ……?)


『大丈夫だ、お前は一人じゃない……それにお前の周りには頼れる仲間たちがいるだろ?』


(そうかもしれないけど……)


『なら、何も心配はいらないさ』


(本当にいいのかい?)


『ああ、問題ないさ』


(わかった、ありがとう……)


 そう答えた後、再び意識を失ったのだった――。




  *




 再び目を覚ますと、目の前に魔王軍の四天王の一人、ウエスターの姿があった。


 そんな彼に対して僕は尋ねた。


「まだ戦いを続けるつもりなのか……?」


 すると彼は不気味な笑みを浮かべながら答えた。


「当然だ、この戦いで俺が勝てばいいだけの話だからな」


 それを聞き、僕は小さくため息を吐いた後で言った。


「悪いがこれ以上、好きにさせるわけにはいかないな」


「ふんっ! ほざけ!」


 そう言いながら攻撃を仕掛けてきたので僕は先ほどと同じように攻撃を受け止めた。


 その直後だった――。


「――っ!?」


 突然、頭の中にイメージが流れ込んできたのだ。


 それはどこか見覚えのあるような場所で大勢の人たちが戦っている様子だった。


(これは、いったい……?)


 不思議に思っていると突然、僕の口から言葉が飛び出した。


「――っ!?」


 次の瞬間には激しい頭痛に襲われてしまったのだが、何とか耐えることに成功した。


 そして、それと同時にある事実に気がついた。


(そうか……!)


 それは、僕が使っている力の正体についてだ。


 なぜならば彼の記憶が流れ込んでくる中で何度も見たことがあったからだ。


 そう、僕が使うことができるのは彼の能力だったのだ――。




  *




『ようやく思い出したようだな』


(うん。でも、どうやって使えばいいの?)


『簡単だ、ただ念じればいいだけだ』


(わかった、やってみるよ……)


『ああ、頑張れよ』


(うん、ありがとう……)


 心の中でお礼を言うと僕は目を瞑った後で心の中で念じた。


(みんなを守る力を貸してくれ……!!)


 その瞬間、僕の体が光り輝いたかと思うと周囲に変化が起きた。


 というのも、僕の体から光の粒子のようなものが溢れ出してきたのだ。


 それらはやがて形を成していき、最後には武器の姿となった。


 それは大剣の形をしており、刀身は黒く染まっていたのだ。


 それを見た瞬間、僕の中に一つの言葉が浮かんだ。


(闇をまとう光の刃――)


 その言葉の意味をすぐに理解した僕は頭の中で叫んだ。


(――ダークネス・ライトニング・ブレイド!!)


 それと同時に剣を振り上げると黒い光が放たれた。


 その光は一直線にウエスターへと向かっていき、直撃した直後のことだった――。


「ぐわあああああぁぁぁぁぁっ!!」


 断末魔の叫びと共に爆発が起こったのだ。


 その結果、辺り一帯が煙に包まれたのだがしばらくして煙が晴れていくと、そこにはウエスターとドラゴンとモンスターの大群は跡形もなく消え去っていた。


 そして、残されたのは地面にできた大きなクレーターだった。




  *




「終わったのか……?」


 呆然としながら呟いたその時だった。


 不意に背後から声が聞こえた。


 振り返ってみるとそこにいたのはメイたちだった。


 彼女たちは全員無事のようでホッとしているとメイが言った。


「ゴーシュ様! お怪我はありませんか!?」


 そんな彼女に向かって僕は答えた。


「大丈夫だよ、メイこそ大丈夫?」


 すると彼女は笑顔で答えた。


「はい! わたしは大丈夫です! ゴーシュ様が守ってくださったおかげです!」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の心にあった不安や恐怖といった感情が消えていったような気がした。


 そんなことを考えているとドロワットさんやソフィアたちも駆け寄ってきた。


 するとドロワットさんが声をかけてきた。


「どうやら、敵を倒したようですね」


 それに対して僕が答えるよりも先にソフィアが答えていた。


「ええ、ドロワット様のおっしゃる通りです」


 それからしばらくの間、僕たちは会話を楽しんだ。


 その後でドロワットさんが口を開いた。


「さて、そろそろ帰りましょうか」


「そうですね」


 そんなやり取りの後、僕たちは街へと戻ることにしたのだが――。


(あれ……?)


 なぜか視界がぼやけてきた。


 さらに体の感覚も徐々に薄れていったのだ。


 おそらくではあるが、勇者としての力を使い過ぎたせいだろう。


 しかし、それでもどうにか意識を保とうとしたのだが――。


(ダメだ……もう……)


 そんなことを考えた直後のことだった。


 突如として強烈な眠気に襲われたのだ。


 そのまま抗うことができずに意識を失ってしまったのだった――。

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