第32話 僕は謎の精神生命体と協力して謎の敵と戦う




  *




 炎属性の魔法の中でも上級魔法である「フレアランス」によって放たれた魔法の雨に晒されて、僕らは絶体絶命の危機を迎えるであろう瞬間だったが――。


「――っ!? これは……」


 ソフィアが顕現させた巨大な盾により、すべての魔法を防いだ。


「これで大丈夫です……」


「ありがとう、ソフィア!」


 僕がお礼を言うと彼女は微笑みながら頷いてくれた。


 しかし、状況は何一つとして変わっていないのだ。


(どうすればいい……?)


 そんなことを考えているとドロワットさんが僕の肩に手を置いてきた。


「ゴーシュ様、気をつけてください……!」


「わかっているよ……!」


 彼女に返事をした後、改めて状況を確認したところ、すでに男との戦闘が始まっていた。


 それを横目に見ながら僕はメイに話しかけた。


「メイ、大丈夫か?」


 すると彼女はニッコリと笑ってから言った。


「ええ、大丈夫ですよ! わたしは強いですから!」


 そんな彼女の言葉に僕も自然と笑みがこぼれていた。


(そうだよな……! メイがいれば大丈夫な気がする……!)


「僕も戦う! だから、一緒に戦おう!」


 そう告げると彼女も嬉しそうに笑ってくれるのだった。


「はいっ!!」


 それから、僕たちはそれぞれの武器を構えた。


 それから、戦闘が始まるわけだが――。


「うおおおおっ!!」


 雄叫びを上げながら僕は男に向かっていった。


 それと同時にメイが魔法を放つ準備に入った。


「今です!」


 その言葉を合図にして僕は攻撃を開始した。


 最初に放ったのは長剣による斬撃だ。


 その攻撃を男はあっさりと躱してみせた。


(くそっ! やっぱりダメか……!)


 そう思った直後のことだった。


「――ッ!?」


 突然、後ろから魔力を感じたので慌てて振り返った。


 そこで見たものは、こちらに手をかざしているバーシアさんとドロワットさんの姿だった。


 そして、次の瞬間には凄まじい威力の炎が男を襲っていた。


(す、すごい……)


 二人の連携技の威力を見て驚いていると今度はソフィアが攻撃を仕掛けた。


「――光輪――」


 光の輪っかが無数に現れ、それらが男を目掛けて飛んでいった。


 それを見た僕は咄嗟に叫んだ。


「みんな、伏せろっ!!」


 その直後、男の周囲を取り囲んでいた光の輪っかが一斉に爆発した。


(決まった……!)


 そう思いながら煙が晴れるのを待っていたのだがあることに気づいた。


(あれ? どうして無傷なんだ……!?)


 そんなことを考えていると男が笑い始めた。


「ククッ、面白いものを見せてもらったぞ」


 そう言った後で男はさらに続けた。


「それにしても、その程度の実力しかないとはな……」


「なんだと……!」


「まあいいさ、どうせ全員死ぬんだからな……」


 その言葉に違和感を覚えていると男は右手を前に突き出した。


 その手には紫色の水晶玉のようなものがあった。


(あの水晶玉みたいなやつは一体なんなんだ……?)


 そんな風に思っているとバーシアさんが口を開いた。


「あれは、まさか……!?」


 その表情から察するにどうやら良くないものであることがうかがえた。


 そんな中で男が不気味な笑みを浮かべてから言った。


「さあ、見せてやろう……この俺の力をなっ! 闇の力よっ!! ダーク・ソウル・インパクト!!」


 その言葉と共に水晶玉が輝き、黒い球体のようなものが勢いよく発射された。


(やばいっ!!)


 直感的にそう感じた僕たちはとっさに防御魔法を展開した。


 しかし、それでも防げなかったようで僕らは吹き飛ばされてしまった。


(ぐはっ……!)


 あまりの衝撃の強さに意識が飛びそうになる中で僕はなんとか耐えてみせた。


(ぐっ……! まだだっ……!)


 そう思って立ち上がろうとしたが足に力が入らなかった。


(くそ……! もう限界なのか……!)


 そんなことを考えていると突然、目の前に人影が現れた。


 その人物を見た僕は思わず驚いてしまった。


なぜなら――。


「メイ……なのか……?」


 そこには先ほどまで戦っていた少女の姿があったからだ。


 彼女は僕を守るように両手を広げるとこう言った。


「ゴーシュ様は死なせません! ゴーシュ様! 絶対に守りますから!」


 彼女がそう言うと、僕の意識は、この世界から外れた――。




  *




(ここは、どこだ……?)


 そんな疑問を抱いていると声が聞こえた。


『ここは、お前の心の中だ』


(僕の心……だって?)


 声の主が誰かはわからないのだが、どこか懐かしい感じがした。


 そんなことを考えながら辺りを見渡してみたのだが、やはり何も見えなかった。


(一体、どうなっているんだ……?)


 そんなことを思いながら考え込んでいると再び声が聞こえてきた。


『覚えているか、俺を……』


「……?」


『まあ、すっかり忘れているのは、わかっていたさ。精神生命体だからな。少し、お前の体を借りるぞ……』


「……えっ?」


 その直後だった――。


 まるで自分の中に誰かが入ってくるような感覚を覚えた。


(うっ!?)


 そして気がつくと僕は暗闇の中にいた。


 いや、正確には闇の中に一人佇んでいたと言った方が正しいのかもしれない。


 そして不思議なことに自分の体だけはハッキリと見えていたのだ。


(どういうことだ……?)


 そんなふうに戸惑っているとまた声がした。


『お前は見ているんだな。勇者というものを教えてやる……』


 その声に反応する間もなく景色が変わった。


 いや、正確に言えば場所は変わらないのだが、見えるものが変わっていたのだ。


(な、なんだこれ……!?)


 その光景を見た瞬間、驚きのあまり言葉を失ってしまった。


 なぜなら、そこにいたのは紛れもなく僕だからだ。


 場面は再び、男との戦闘に戻っていく――。




  *




(どうなっているんだよ……!?)


 そんなことを考えている間にも戦いは続いていた。


 男は次々と攻撃を仕掛けていくが、その全てをメイが防いでいた。


 しかも、ただ防いでいるだけではなく反撃まで行っていた。


(すごいな……メイの実力は確実に上がっている……)


「ゴーシュ様は殺させません!」


 そんな彼女に対して男は余裕たっぷりに言った。


「お前一人で何ができると言うんだ?」


「確かにあなたの言う通りかもしれません。ですが、わたしにはゴーシュ様がいます! だから、がんばれるのです!」


 それを聞いた僕は思った。


(ああ、そうだな……だから、必ず助けてみせる!)


 そう心に誓った直後のことだった――。


「――っ!?」


 突然、体が軽くなったような気がしたかと思うと次の瞬間には僕の体は勝手に動いていた。


(これはいったい……?)


 僕の眼が、赤く光った。


 すると今までとは比べ物にならないほどのスピードで移動していた。


 その動きはまるで残像のように残っていてとても目で追えるものではなかった。


(もしかして、これが彼の力なのか……?)


 そんなことを考えているとあっという間に男の懐に入り込んでいた。


 そのまま勢いを殺すことなく剣を振り抜いたことで、男の体に一筋の傷がついた。


「ぐっ!? お、おのれぇぇぇぇっ!! よくも傷をつけたなぁぁ!!」


 そんな叫び声と同時に男の手から禍々しい魔力が放たれた。


「ゴーシュ様に手は出させませんよ!」


 そう言ってメイが僕を守ってくれたのだ。


(ありがとう、メイ……でも、このままじゃ……)


 そう思った瞬間、頭の中で声が響いた。


『俺が力を貸してやる……!』


(その声は……まさか……)


『そうだ、俺だよ……さぁ、早くあいつを倒せ!!』


(わかった……!)


 そう答えた後、僕は意識を集中させた。


(もっとだ……もっと速く動けるはずだ……!!)


 そう念じた瞬間、視界が真っ赤に染まった――。




  *




 その瞬間、世界がスローモーションになった気がした。


 いや、実際にそうなのだろう。


 その証拠に目の前で繰り広げられている光景がゆっくりと動いているのだから――。


(よし、これならいけるかもしれない……!)


 そう確信した僕は目にも留まらぬ速さで男との距離を詰めた。


 その速さは尋常ではないほどで気づいた時にはすでに男の眼前に立っていたのだ。


(これで決める!)


 心の中でそう呟いた後で剣を振り上げようとしたその時だった――。


「――ッ!?」


 突然、頭の中に映像が流れ込んできたのだ。


 それは誰かの記憶のようだった。


(なんだ、これは……?)


 戸惑いながらも記憶の再生を続けた結果、あることに気づいたのだった。


(そうか、そういうことだったのか……)


 そのことに気づいた時、自然と笑みが溢れてきた。


 そして――。


(これで終わらせてやる!)


 そう思いながら、は剣を振り下ろしたのだった。

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