第26話 僕とメイドと元許嫁は色々と準備をする
*
翌日、目を覚ました僕は朝食を食べるために食堂へと向かった。
食堂にはドロワットさんの姿があったのだが、その表情は少し暗いように見えた。
(昨日のことを気にしているのかな……。あの時、彼女を傷つけるようなことを言ったから……)
そう思った僕が声をかけようとした時、先に彼女が口を開いた。
「おはようございます、ゴーシュ様」
その口調はいつもと変わらないものだったので安心した僕は笑顔で挨拶をした。
「おはよう、ドロワットさん」
そんな僕らのやり取りを見ていたメイが尋ねてきた。
「あの……何かあったんですか?」
それに対しドロワットさんは首を横に振りながら言った。
「いいえ、何もありませんでしたわよ」
「……そうですか」
それを見た僕はメイに言った。
「メイ、今日の予定は何かあるかい?」
「いえ、特にございませんが……」
「そうか……それなら今日は三人で街へ出かけようと思うのだけどどうかな?」
それを聞いた彼女は一瞬驚いたような表情を見せたもののすぐに笑みを浮かべて言った。
「承知しました! おまかせください!」
それを確認した僕はドロワットさんに視線を移した。
彼女も笑みを浮かべていることから賛成のようだと判断した僕は頷き返した後、声をかけた。
「それじゃあ、決まりだね。準備ができたら、出発しよう」
『はい!』
その言葉に二人が同時に返事をしてきたので思わず笑ってしまった。
それに気づいた二人は顔を見合わせて同じように笑い始めた。
その後、身支度を整えた僕たちは屋敷を出たところで馬車に乗り込んだ。
その際、御者の席に座ろうとした僕をドロワットさんが制した。
「ゴーシュ様、どうか、わたくしにお構いなく」
「いや、そういうわけにはいかないよ」
そこで一度言葉を切った後、さらに続けた。
「それに君にも色々と手伝ってもらいたいことがあるからね」
それを聞いたドロワットさんが首を傾げた。
「それはどういうことですの……?」
そこで彼女の隣に座ったメイが代わりに説明してくれた。
「実はですね……ドロワットさんには、お屋敷の清掃などを手伝っていただきたいのです」
それを聞いた彼女は納得したように頷いた後、微笑みながら答えた。
「そういうことでしたら喜んでお手伝いさせていただきますわ。お屋敷で生活させていただく以上、少しでも恩をお返ししたいと思っていましたの」
「それは助かるよ」
そして僕らは出発した。
しばらく進んだところでメイが話しかけてきた。
「それでご主人様……ドロワット様をお屋敷に住まわせることにしたんですね?」
それに対して僕は頷きつつ答えた。
「ああ、しばらくは、ね……」
「それで、これから、どうするつもりなんですか?」
その問いかけに対して僕は少し考えてから答えた。
「とりあえず、今は保留にしておくつもりだよ」
「……そうですか」
そのやり取りを最後に会話が途切れた。
しばらくして目的地に到着した。
そこは帝都の中心部にある商店街だった。
ここを選んだ理由は、いくつかあるけれど、一番大きな理由としては色々な店があるからだ。
そのためドロワットさんに様々なものを見せてあげることができると考えたのだ。
そんなことを考えていると突然、袖口を引っ張られたのでそちらを見ると彼女が不安そうな表情を浮かべてこちらを見ていた。
その様子を見た僕は安心させるように言った。
「大丈夫だよ、ドロワットさん。ここには君が知らないようなものがたくさんあるんだ。だから、きっと気に入ってくれると思うよ」
すると彼女は嬉しそうに微笑みつつも首を傾げながら聞いてきた。
「それは楽しみですわね。でも、ゴーシュ様は何をお買いになるつもりなのかしら?」
その問いに僕が答えようとする前にメイが口を開いた。
「ゴーシュ様は生活のために必要なものを買いにいくのですよ。まだ、あの屋敷は皇帝様からいただいたばかりで管理が行き届いていませんから……」
「そういえば、剣闘士競技大会で優勝なさって、あの屋敷を手に入れたのでしたわね……」
「ええ、その通りですよ」
「まあ、そういう理由で、これから忙しくなるよ。ほかにも、やらなきゃいけないことがあるしね……」
そう呟いた後で二人に話しかけた。
「それじゃあ、行こうか」
その言葉を合図に三人は歩き始めた。
まずは服屋へ向かった僕は店員の女性に声をかけた。
すると奥から店主が出てきたので彼に事情を説明した上で商品を見繕ってもらった。
その後、支払いを済ませた僕は購入したものを袋に詰めてもらい受け取った後、次の店へ向かった。
その店でも同じように買い物を済ませ、また買い物をする。
その作業をひたすら繰り返した後、大量の荷物を持って屋敷に帰った。
その間、ずっと無言が続いていたのだが、不意にドロワットさんが話しかけてきた。
「ゴーシュ様、本当によろしいんですの? こんなにもたくさんの物をいただいてしまっても……」
そんな彼女の問いかけに僕は頷いてみせた後、笑顔で答えた。
「もちろんだよ。だって君は今、家族同然の存在なんだからさ」
「……ありがとうございます」
彼女は微笑みながら礼を言ってきた。
そんな彼女を見ながら僕は考えていた――。
(この調子だと今日だけでかなりの出費になりそうだな……)
*
結局、その日は一日かけて屋敷の掃除や家具の購入などで大忙しになってしまった。
それでも、なんとか無事に終えることができた。
夕食を食べ終えた後は自室に戻りベッドに横になった。
そして天井を見つめながら考えた。
(これで当面の間は大丈夫だろう……あとはドロワットさんの気持ち次第だな……)
そんなことを考えながら瞼を閉じると、すぐに眠りに落ちてしまった。
*
翌朝、目を覚ますと窓から差し込む朝日が目に入ったのでベッドから起き上がった。
そして着替えた後で一階へと降りた。
すると、すでに起きていたらしいドロワットさんとメイの姿が見えた。
どうやら朝食の準備をしているようだった。
その光景を見て微笑ましく思いながら声をかけた。
「おはよう、二人とも」
二人は、ほぼ同時に振り向きながら挨拶を返してくれた。
「おはようございます、ゴーシュ様」
「おはようございます、ご主人様」
そんな二人に向かって僕は続けて言った。
「昨日は、よく眠れたかい?」
その問いかけにドロワットさんは笑顔を浮かべながら言った。
「はい、とても快適に過ごさせていただきましたわ」
続いてメイも笑みを浮かべながら口を開いた。
「わたしも久しぶりに、ゆっくり休むことができました」
二人の言葉を聞いた僕も笑いながら言った。
「それは、よかったよ」
そんな会話を交わした後、三人で朝食をとった。
食後のお茶を飲みながら今後のことについて話をした。
最初に話したのは僕の予定についてだ。
僕の今日の予定は、オータム帝国の第一皇女であるバーシア・ゲン・オータムの護衛任務だ。
そのため、そろそろ屋敷を出て向かわなければならないことを伝えたところ、ドロワットさんが声をかけてきた。
「護衛の任務って、ゴーシュ様……あなたは貴族でしょう? なんでオータム帝国の第一皇女の護衛をする必要があるのですの? そもそも帝国には腕の立つ兵士がいるではありませんか……」
その疑問に対して僕は苦笑しながら答えた。
「確かにその通りかもしれないけど、バーシアさんは剣闘士競技大会で何度も優勝している猛者でね……。この前の大会で僕が優勝したから、僕以外に護衛できる者がいないって一点張りでさあ……」
「そうなんですの。ゴーシュ様って、いろんなところでフラグを立てていらっしゃるのですわね……」
「……うん?」
彼女の言葉の意味が、よくわからなかった。
まあ、いいか。
話題を変えてみよう。
次はドロワットさん自身のことだ。
彼女は「お手伝いできることがあれば、なんでもしますわ!」と言ってはいるが、どうしようかな……。
「とりあえず、ドロワットさんには屋敷の掃除をお願いします。メイもいるし、なんとかなるでしょ……そんなところかな?」
それを聞いたドロワットさんは大きく頷きながら言った。
「わかりましたわ! 一生懸命がんばりますわね!」
そんなやり取りを終えた後、僕は屋敷を出た。
そのまま馬車に乗り込み、オータム帝国の城へと向かったのだった――。
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