第23話 僕は帝国の皇帝に第一皇女の護衛を任される
*
「――……僕は、これから魔王を倒すために旅に出ます! だけど、その前にやるべきことがあります! それはサマー家の地位の回復です! つまり、僕をオータム帝国の貴族にしてください!!」
それを聞いた女性は頷くと優しく微笑みながら言った。
「そうですか……。どうしてオータム帝国の貴族になりたいのですか?」
その問いかけに僕は迷いなく答えた。
「僕のお父様とお母様が現在、スプリング王国の地下牢で、とらわれの身となっています。お父様とお母様を助けるためには、おそらく多大なお金が必要になるでしょう。それと、僕のお兄様の動向を知る必要があります。お兄様が一体何を考え、スプリング王国に反旗を翻そうとしていたのかを知る必要もあります。その原因を突き止めたい。だから、まずはサマー家の地位を取り戻したいのです」
そこまで話したところで女性は静かに頷いた。
「……ということですが、どうでしょうか? バーシア様」
「わかりましたよ。ゴーシュ君の願いを叶えたいと思います。これから、ゴーシュ・ジーン・サマーをオータム帝国の貴族として迎え入れますが、よろしいでしょうか……お母様?」
「……仕方ありませんね」
溜め息をついた後、渋々といった感じで了承してくれた女性に礼を述べる。
「ありがとうございます!」
そして顔を上げると気になっていたことを口にした。
「そういえば、あなたは何者なのでしょうか……?」
すると受付嬢であった彼女は微笑を浮かべるとこう答えたのだった。
「私は、ただの……冒険者ギルドの受付嬢です」
その言葉に納得はできないが、とりあえず僕は頷いた。
その後、僕はバーシアに連れられてオータム帝国の城へと向かうことになった――。
*
僕とメイとソフィアはバーシアとともにオータム帝国の城をめざす。
道中、様々な疑問を抱いたまま歩いていたのだが、しばらくしてからふとした拍子に尋ねてみた。
「ところで、なんでバーシア様は剣闘士競技大会に参加していたのですか?」
「それは……もちろん殿方を探すのが目的でしたの」
「……との、がた……?」
「結婚相手、ということです」
「け、結婚!?」
あまりに突拍子もない話だったため驚いてしまったが、よくよく考えてみればおかしなことではないことに気が付いた。
(そうか、彼女も僕と同じで、もうすぐ大人になるんだ……)
そう考えると途端に緊張してしまい、うまく言葉を発することができなかった。
そんな僕を見て何か勘違いしたのかバーシアは慌てて言った。
「あっ、心配しなくても大丈夫ですよ! あたしとゴーシュ君はまだ出会ったばかりですから、いきなり結婚なんてしませんからね!」
それを聞いて安心した僕は胸を撫で下ろしながら答えた。
「そ、そうですよね……すみません」
それを聞いた彼女は笑みを浮かべると言った。
「いえいえ、気にしないでください」
そんなやり取りをしながら歩いているうちに目的地へと到着したようだ。
そこは見るからに豪華な造りをした大きな建物だった。
(これがオータム帝国の城なのか……?)
そんなことを考えながら見上げていると背後から声が聞こえてきた。
「――お待ちしておりました、バーシア様」
その声に振り返るとそこには執事のような恰好をした老人が立っていたのだ。
彼は僕たちに視線を向けると丁寧にお辞儀をして挨拶してきた。
「ようこそ、ゴーシュ・ジーン・サマー様。どうぞ、よろしくお願いいたします」
その丁寧な対応に困惑していると再び彼が話しかけてきた。
「さあ、立ち話もなんですし中へ入りましょう」
そう言うと扉を開けてくれたので中に入ることにした――。
*
城内に入るとメイドや兵士などたくさんの人が出迎えてくれたため恐縮してしまう。
そんな僕に構わず案内された場所は謁見の間と呼ばれる場所だった。
玉座には皇帝らしき人物が座っていた。
おそらく、この人物こそが、このオータム帝国の皇帝だ。
(一体どんな人なんだろう……?)
そう思っていると突然、皇帝が笑い出した。
「――ハッハッハ!! いや~、面白い戦いを見せてもらったぞ!」
その言葉に驚いた僕は慌てて尋ねる。
「もしかして見ていたんですか……?」
すると皇帝は頷いて答える。
「ああ、そうだとも! 私も剣闘士競技大会の観戦が好きでな! 特に決勝戦は毎回欠かさず見ているんだ! 今回も楽しませてもらったよ!」
そこで一呼吸おいた後でさらに続けた。
「……だが、今回は少々気になる点があってだな……まあ、とにかく詳しい話は食事でもしながらにしようではないか!」
そう言って立ち上がると手招きしてきたので僕たちは彼の後に続いた。
*
食堂に案内された僕たちは席に着くとすぐに料理が運ばれてきた。
どうやらコース料理をいただくらしい。
(どれも美味しそうだなぁ……)
そう思いながら目を輝かせていたその時、不意に声をかけられた。
「――それで、お前は何のために戦うのだ?」
唐突な質問だったが、その言葉を聞いた瞬間、自然と口が動いていた。
「僕は自分の大切なものを守るために戦います」
それを聞いた皇帝はニヤリと笑みを浮かべて言った。
「ほう、その大切なものとは何だ?」
その問いに僕は迷わず答えた。
「両親と兄です」
その言葉を聞いた皇帝はしばらく沈黙した後で口を開く。
「――いいだろう! お前に私の娘をやろう!!」
「……えっ!?」
突然の展開に驚きを隠せないでいると皇帝はさらに続ける。
「バーシアは私の愛娘だ! だからお前が気に入ったのなら嫁にくれてやると言っているのだ!!」
「えっ!? あ、あの……」
あまりの衝撃的な発言を受けて戸惑いを隠しきれない僕に対して今度はバーシアが言った。
「そういうことですので、これからよろしくお願いしますね!」
「い、いやいやいや、なんでですか? 愛娘なんですよね!?」
思わず聞き返すと皇帝は笑いながら言う。
「ああ、そうだとも! だが安心しろ!私が認めた男なら安心して託せるからな!」
その言葉に反論することができずにいると隣から声が聞こえた。
「さすがですね……まさかここまで強引に事を進めるとは思っていませんでしたわ……」
そんな呆れ声を発したのは今まで黙っていた女性はバーシアのお母様――つまり、このオータム帝国の皇妃だった。
そんな彼女に向かって皇帝は言った。
「当たり前だ! なんたって我が娘は世界一可愛いのだからな!!」
そんな親バカな発言をする皇帝を見た後、改めて隣に座る少女――つまり、バーシア・ゲン・オータムを見つめる。
すると彼女は照れたような表情を見せた。
でも、僕には……。
「皇帝陛下、申し訳ないのですが、その話はお断りさせていただきます」
はっきりと断ったことで場の空気が凍り付くのがわかったが構わず続けて言った。
「僕には大切な人がいます。その人の気持ちを悲しませるようなことはしたくありません。ですので、申し訳なのですが、バーシア様との結婚はできません」
そう告げるとしばらく静寂が続いた。
メイは、そんな僕を見て、何かを思ったようだ。
僕も、あの時のメイを見て思ったんだ。
*
『あの、ご主人様……』
『うん?』
『その……今日も冒険者ギルドへ行くのですよね?』
『うん、今日から本格的に仲間を集める準備をするからね』
『そ、そうですか……わかりました』
『どうしたの?』
『い、いえ、なんでもありません!』
*
あの時のメイは、僕に新しくできる予定の仲間が恋人になってしまう可能性があると不安になっていたんだと思う。
だから僕はメイを裏切れない。
やがて皇帝が口を開いた。
「――わかった、ならば仕方がないな」
意外なほどあっさりと引き下がったことに驚いていると彼は続けて言った。
「ならば、代わりに娘の護衛を頼もうじゃないか!」
「……はい?」
予想外の言葉に首を傾げると彼は笑みを浮かべたまま答えた。
「実は最近、娘が何者かに狙われているらしくてな……だから君に守ってもらいたいんだ。剣闘士競技大会に優勝した君の腕なら間違いないだろう」
それを聞いた僕は少し考えた後で答えた。
「……わかりました! 引き受けます!」
それを聞いた皇帝の笑みが深まった気がした。
そして隣にいたバーシアが微笑みながら尋ねてきた。
「では、これからよろしくお願いいたしますね、ゴーシュ君」
こうして僕は、新たな仲間であるバーシア・ゲン・オータムの護衛として彼女を守ることとなったのだった――。
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