第20話 僕はメイドは冒険者ギルドの受付嬢から勇者と魔王について聞く
*
「本日は、どうなさいますか?」
朝食を済ませたところ、メイが僕に聞いた。
「どうって、何がだい?」
いきなり話しかけられたことに戸惑いながらも聞き返すとメイは答えた。
「魔王について調べるのかということですが……」
「そうだね……とりあえず冒険者ギルドに行ってみようかと思ってるんだけど、どうかな?」
僕の問いかけに頷いた後で口を開いた。
「……そうですね、情報収集ならギルドが一番だと思いますしいいと思いますよ」
よし決まりだと立ち上がった僕がメイと共に早速、宿屋を出て冒険者ギルドへ向かおうとする。
「じゃあ行こうか!」
「はい!!」
元気よく返事をするメイと一緒に外の世界へ出た。
*
冒険者ギルドに着いた。
中へ入ると多くの冒険者たちで賑わっていた。
依頼書が張り出されている掲示板の前でどの依頼を受けようか悩んでいる者、仲間同士でパーティーを組んでいる者たち、受付嬢と話している者や併設されている酒場で飲んでいる者もいるようだ。
そんな中、僕たちはカウンターへと向かうと職員に声をかけた。
「すみません、少しお聞きしたいことがあるのですがいいですか?」
突然声をかけられて驚いたような表情を浮かべるも、すぐに営業スマイルを浮かべると答えてくれた。
「何でしょう? 私にわかることであれば、お答えしますよ」
その言葉に頷くと単刀直入に尋ねた。
「勇者と魔王についての情報が欲しいんですが、何かありませんか?」
「……! 少々お待ちください」
そう言うと女性は奥へと消えていってしまった。
その様子を見ていた僕とメイは顔を見合わせると首を傾げた。
しばらくすると先ほどの女性が戻ってきた。
「お待たせしました、こちらへどうぞ」
そう言って案内されたのは応接室のような場所だった。
ソファーに腰を下ろしたところで対面に座った女性に話しかけた。
「あの、これは一体どういうことなんでしょうか……?」
すると彼女は真剣な表情のまま答えた。
「まずは、これを見てください」
そう言って差し出されたのは一冊の分厚い書物だった。
それを受け取った僕は表紙を開いたところで固まった。
なぜならそこに書かれていたのは――「勇者」という単語だったからだ。
(どういうことだ……?)
そう思いながらページをめくっていくとそこにはこう書かれてあった。
【この世界にはかつて勇者と呼ばれる存在がいた】
そこから先は歴代の勇者たちの記録や伝説などが事細かに記されていたが、その中に気になる記述を見つけた。
そこから先は歴代の勇者たちの記録や伝説などが事細かに記されていたが、その中に気になる記述を見つけた。
それは今から約百年前に起きたとされる事件のことだった。
百年前、突如として現れた魔物の軍勢によって人々は窮地に陥ったという。
だがそんな時、どこからともなく現れ人々を救い始めた者がいたそうだ。
その人物は自らを異世界からやってきたと言い放ち、人々を救うと何処かへと消えてしまったらしい。
その後も各地で次々と起こる災害や事件を解決していくことで、いつしか彼は救世主と呼ばれるようになった。
彼が救った地は徐々に緑豊かになり、人々に笑顔を取り戻したのだと――。
「――ところで魔王についてなんですが……」
「ああ、それは、こちらから話します」
女性は魔王城の場所について教えてくれた。
なんでもその場所は大陸の最北端にある森の奥深くに存在すると言われているのだが、今まで誰一人として辿り着いた者はいないため詳細は不明だということだ。
ただ過去に一度だけその近くまで行った者がいたらしいのだが、結局何も見つけられずに引き返してきたという話が残っているらしい。
つまり現時点でわかっている情報はここまでということになる。
そんな話を聞いて落胆していると、さらに追い打ちをかけるように告げられた内容に思わず固まってしまった。
魔王は相当な力を持っているらしく、その力を恐れた他の国々が同盟を結び協力することで討伐を試みたものの失敗に終わり、逆に返り討ちに遭ってしまったというのだ。
そのことから各国は協力して戦うのではなく個々に攻め込んでいこうという考えに至ったそうだが、それが裏目に出て各個撃破されてしまったらしい。
その結果、残ったのは王国と帝国だけになってしまったというわけである。
ちなみに現在は帝国が中心となって戦力を集めているらしいのだが、まだ準備が整っていないためにもう少し時間がかかるかもしれないとのことなので気長に待つしかないだろう……というのがギルドの見解のようだった。
「あの……そういえば、どうして僕たちに、こんな部屋にまで呼び出して話をしてくれたんですか?」
すると彼女は微笑みながら言った。
「簡単なことです、あなたなら何かを成し遂げる気がしたからです」
その言葉の意味がわからず首を傾げていると、続けて言われた言葉に耳を疑った。
「――あなたがギルドにたむろする、ならず者から少女を守り、勇敢に倒したことが、この目に焼き付いたのです。ですから、あなたにお話ししたのですよ」
その言葉を聞いた僕は思わず息を呑んだ。
まさか、そんなことを言われるとは思ってもいなかったからである。
「……そうですか。わかりました。いろいろと教えてくださってありがとうございます」
お礼を言うと席を立ち、部屋を出ようとしたところで呼び止められた。
「最後に一つよろしいですか?」
その言葉に振り返ると彼女が真剣な表情を浮かべながら言った。
「もし魔王と戦うつもりなら覚悟してくださいね。いくら勇者とはいえ一人で勝てるほど甘くはありませんから……」
それを聞いた僕は大きく頷くと彼女に別れを告げて部屋を出たのだった――。
*
「――はぁ……」
宿に戻るなりベッドに倒れ込むようにして横になった僕は大きなため息をついた。
(まさか魔王を倒すことがこんなにも大変なことだなんて……)
改めて自分の置かれている状況を認識した途端、不安な気持ちが押し寄せてきたのである。
そんな僕の心情を察したのかメイが話しかけてきた。
「ご主人様、大丈夫ですか……?」
心配そうな表情で見つめてくる彼女に向かって笑みを浮かべると優しく頭を撫でながら答えた。
「大丈夫だよ、ありがとう」
そう言って微笑むと彼女も微笑み返してくれたのでホッと胸を撫で下ろした。
その後、しばらく休んでいた僕だったが、いつまでもこうしているわけにもいかないので気持ちを切り替えることにした。
そして立ち上がると、あることを思いついたのだ。
「よし! 決めた! 仲間を集めよう!!」
突然叫んだ僕に驚いた表情を浮かべるメイに説明するように言った。
「魔王を倒しに行くには一人じゃ無理だと思うんだ。だから仲間を集めてパーティーを組んで戦おうと思うんだよ」
そこまで聞いた彼女は少し考えた後で口を開いた。
「……そうですね、わたしも賛成です。ですが、どうやって集めるのですか? わたしたちのような駆け出し冒険者では相手にしてもらえないと思いますが……」
彼女の言うことはもっともなのだが僕には考えがあった。
それは――冒険者ギルドだ。
先ほど訪れた際に見た掲示板には数多くの依頼書が張り出されていたのだが、その内容のほとんどが魔物の討伐や素材集めなどのものばかりだったのだ。
つまり、それだけ実力のある者たちが集まっているということに他ならないわけで、だからこそ彼らの力を借りようと考えてのことだ。
そのことを話すと納得してくれたようで頷いてくれた。
というわけで、早速、準備に取り掛かっていく。
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