第17話 祭壇の女神様は僕とメイドの冒険についていく
*
「どうして、そう思うのですか?」
静かな声で問いかけてくる彼女に対して僕は正直に答えた。
「なんていうか雰囲気が以前と違うというか……うまく言えないんですけど、なんとなく、そう思ったんです」
そう答えると彼女は顎に手を当てて何やら考え始めた。
そしてしばらくすると何かを思いついたらしくポンッと手を叩いてから口を開いた。
「どうやら気づかれてしまったみたいですね」
(やっぱり……!)
確信を得たことで驚いている僕を見て小さく笑みを浮かべると、そのまま近づいてきた後で顔を近づけてきた。
突然のことに戸惑っていると耳元で囁かれた。
「安心してください、私は本物ですよ」
「そ、そうなんですか?」
「えぇ、そうです……その証拠にほら、よく見てください」
そう言って自らの顔を指差した後で頬を引っ張ってみせた。
その行動によって本物であることがわかったのだが、それでもまだ完全に信じることができなかった僕は質問した。
「じゃあ、どうしてそんな恰好をしてるんですか?」
今目の前にいる女性はどう見てもメイド服姿であり、どう考えても普段の彼女とはかけ離れていたからだ。
そんな僕の疑問に対し、彼女は苦笑しながら言った。
「実は、これしか服がなくて仕方なく着ているだけなんですよ」
「そうだったんですね……」
「つまり、これしか服がないのです」
「えっ?」
――ソフィアさんの言葉でハッとした。
(ちょっと待って……? それって、つまり、女性用の下着を着けていないってこと……?)
そこまで考えた瞬間、一つの結論に達した。それはつまりメイド服を着たままの状態でノーブラということになるのではないかと思ったのだ。
いや、もしかすると下の方もそうなのかもしれないと思った時だった。
不意に視線を感じた僕は顔を上げるとそこには笑みを浮かべたまま僕を見ている彼女の顔があった。
しかもよく見ると若干頬が赤くなっているように見えるのはきっと気のせいではないだろう。
そのことを認識した瞬間、一気に顔が熱くなったのを感じた僕は慌てて顔を逸らすと、それを見た彼女はクスッと笑った後で再び耳元に顔を寄せてきた。
「もし、よかったら私の胸を触ってみますか?」
「ふぇっ!?」
突然の言葉に驚いて変な声が出てしまった。
するとさらに追い打ちをかけるかのように囁きかけてきた。
「今なら誰も見ていませんし、バレませんよ……?」
それを聞いた途端、心臓がバクバク鳴り出した。
なぜなら今まで見たことのないほど妖艶な表情を浮かべていたからだ。
そのせいで余計に意識してしまい、頭の中が真っ白になってしまったのである。
だが次の瞬間――扉が勢いよく開く音が聞こえたと同時に聞き慣れた声が聞こえてきた。
「――ご主人様から離れてっ!」
その声にハッと我に返った僕は声がした方に視線を向けると、そこにいたのはメイの姿だった。
どうやら怒っているようで物凄い形相で睨みつけているのがわかった。
そんな彼女を見た僕は咄嗟に叫ぶように言った。
「待って! これは違うんだ!」
しかし僕の言葉など聞こえていないと言わんばかりにゆっくりと近づいて来るのを見て思わず身構えていると――。
「――落ち着いてください」
いつの間にかベッドの近くに立っていたその人物――ソフィアさんが静かに声をかけるとメイの動きがピタリと止まった。
それを確認した彼女は続けて言った。
「確かに今の状態を見れば勘違いしてしまうかもしれませんが、これにはちゃんとした理由があるのです」
「……理由ですか?」
警戒したまま聞き返すとソフィアさんは頷いた後で続けた。
「ええ、その通りです……実はあなたにお願いしたいことがありましてこうしてお呼びした次第なのです」
「お願いしたいこと……?」
首を傾げながら尋ねると彼女は頷きながら言った。
「はい、実は私も一緒に旅をさせてほしいのですよ」
その言葉に驚いた僕はすぐさま聞き返した。
「え? でもソフィアさんって祭壇にいるべきなんじゃ……」
すると彼女は苦笑いを浮かべながら答えた。
「たしかに本来はそうなのですが、状況が状況なので致し方ないと判断したわけです」
そう言った後でチラリとメイの方を見ながら付け加えた。
「お願いします……どうか私を連れてってくれませんか?」
縋るような声で頼んでくる姿を見ているうちに自然と頷いていた。
その直後――嬉しそうな表情を浮かべる彼女を見て思った。
(もしかしたらこれが狙いだったのかな……?)
そんなことを考えていると背後から声をかけられた。
「話はまとまりましたか?」
振り向くと笑顔を浮かべるメイの姿が目に映った。
そのことに安堵しながら頷くと彼女は笑みを浮かべながら言った。
「それでは早速準備に取り掛かりましょうか」
その言葉を聞いた僕たちは揃って返事をした後、急いで部屋を出たのだった――。
*
(それにしても一体どうしたんだろう……?)
そんなことを考えながら歩いていると不意に後ろから声をかけられて振り返った。
「どうかしたのですか?」
見ると心配そうな顔をしたソフィアさんが立っていた。
そこでようやく自分が足を止めていたことに気が付いた僕は慌てて謝ると、彼女は笑みを浮かべて言った。
「いえ、大丈夫ですよ……それよりも何か考え事ですか?」
その問いかけに一瞬ドキッとしたがすぐに平静を装って答えた。
「えっと……大したことじゃないんですけど、どうして急に僕たちと一緒に行きたいって思ったのかなって思って……」
「なるほど、そういうことでしたか……」
納得した様子で頷く彼女だったが、やがて少し間を置いてから話し始めた。
「実を言いますとね、あなたたちのことを試していたんですよ」
「どういうことですか?」
意味がわからず問いかけると彼女は小さく笑って言った。
「言葉通りの意味ですよ。勇者様かどうかを確かめたかったのです」
「それはつまり僕が勇者に相応しいかどうかってことですよね?」
確認するように尋ねると彼女は大きく頷いてみせた。
そして真剣な眼差しを向けてきたかと思うと続けて言った。
「率直に申し上げますが、私はあなたが本当に世界を救うことのできる存在なのかを見定めたのです」
「僕を見極めるためにわざわざやって来たんですか……?」
驚きのあまり呆然としていると、彼女は微笑みながら言った。
「そうですね……簡単に言えばそうなるでしょう。結論から言うと、あの水晶に触れたことでわかりました。やはり、あなたは、この世界を救う勇者であることを……」
「えっ……!? それじゃあ……」
「はい、改めてよろしくお願いしますね、ゴーシュさん」
「こちらこそよろしくおねがいします、ソフィアさん」
そう言ってお互いに握手を交わした。
その後――改めて自己紹介をした僕は、これから共に旅に出ることになった経緯について説明することにした。
*
「なるほど。そんなことがあったとは……王国を追放されたのですね」
話を聞き終えたソフィアさんは信じられないといった表情を浮かべたまま呟いた。
そんな様子を見て無理もないと思った。
何せ当事者である僕ですら未だに信じられなかったのだから当然だろう。
だからこそ話を終えた今でも半信半疑の状態なのだ。
(でも実際に体験したことだからなぁ……)
そう思いながら天井を見上げていると不意に肩を叩かれたのでそちらに視線を向けた。
するとそこにはメイがいて心配そうに見つめていた。
僕はそんな少女に向かって微笑みかけると、そのまま優しく頭を撫でたのだった――。
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