第5話 僕とメイドの平和な日常




  *




 翌日、メイはいつものように僕を起こしてくれた。


「ご主人様、朝ですよ」


「う、う~ん……もう少し寝かせてくれよ」


 僕は布団に潜り込む。メイは困った表情で言った。


「ダメです。起きてください」


「わかったよ……」


 僕は渋々起き上がる。そして、大きなあくびをした。


「おはようございます、ご主人様」


「おはよう、メイ」


 メイは笑顔を浮かべると、朝食の準備を始める。僕はパジャマ姿のまま、食卓についた。しばらくすると、トーストや目玉焼きといった料理が運ばれてくる。


「いただきます」


 僕は手を合わせると、食事を始めた。


「おいしいですか?」


「うん、とてもおいしいよ」


「よかったです」


 メイは嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていると、こちらまで幸せな気持ちになった。


「ご主人様、どこか行きたいところはありますか?」


「特にないけど、一緒にいられるだけでいいな」


「わかりました」


 こうして今日も僕とメイの一日が始まった。




  *




 ――数時間後。


 僕は屋敷のリビングでくつろいでいた。すると、キッチンの方から声が聞こえてきた。


「ご主人様、コーヒーが入りましたよ」


「ありがとう」


 僕はソファから起き上がると、ダイニングテーブルに向かう。そこではすでにメイが座っていた。


「どうぞ」


「ありがとう」


 僕はカップを手に取ると、コーヒーを一口飲む。苦みのある味が口の中に広がった。


「やっぱり、メイの淹れてくれるコーヒーが一番だな」


「ありがとうございます」


 メイは笑みを浮かべると、自分の分のコーヒーを飲む。僕もまた、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。


「……ふう、おいしかったよ」


「お粗末様でした」


 しばらくして、僕たちはコーヒーを飲み終えた。それからしばらくの間、他愛もない話をする。やがて話題も尽きた頃、僕は立ち上がった。


「そろそろ行こうか」


「はい、ご主人様」




  *




 僕はメイと二人で街を歩いていた。もちろん、恋人同士に見えるように変装している。


「ご主人様、今日は何を買いに行くんですか?」


「うーん……」


「どうしました?」


「いや、何を買うべきなのか迷っているんだよね……」


 僕はメイに訊ねる。


「メイは欲しいものはないのかい?」


「わたしはご主人様と一緒にいるだけで幸せです!」


「そっか……」


 僕は苦笑いを浮かべる。


「メイは欲がないね」


「いいえ、ありますよ?」


「そうなの?」


「はい!」


「じゃあ、どんなものがほしいの?」


「ご主人様です!」


「えっ?」


 僕は驚いてメイの顔を見る。メイは真剣な表情でこちらを見ていた。


「ご主人様がいれば、わたしは何もいりません!」


「メイ……」


 僕はメイの手を握り締める。メイは顔を真っ赤にした。


「ご、ご主人様!?」


「メイ……僕も君がいれば何もいらないよ」


「ご主人様……」


 メイは瞳を潤ませると、こちらに抱きついてきた。僕たちはそのまま歩き続ける。メイの温もりを感じながら、僕は思うのだった。


 メイが望むなら、僕はいつまでも彼女のそばにいようと――。


「ねぇ、メイ……」


「なんでしょうか? ご主人様」


「もし僕が死んだらどうする?」


「嫌です! 絶対に死なせません!」


 メイは大声で叫ぶと僕の腕にしがみつく。その瞳からは涙がこぼれ落ちていた。


「ごめんね、メイ」


「謝る必要なんてありません……」


 メイは泣きながら首を横に振る。それから、震えるような声で言う。


「だって、ご主人様は……わたしの大切な人だから……」


「メイ……」


 僕はメイの涙を指で拭き取ると、優しく抱きしめた。


「大丈夫だよ。僕はメイを残して死んだりしないから」


「本当ですか?」


「うん」


「約束ですよ?」


「ああ、約束する」


 僕は微笑むと、メイにキスをした。


「大好きです……」


「僕もだよ」


「愛しています……」


「僕もだ……」


 それから僕たちは、お互いの存在を確かめ合うかのように、何度も唇を重ねたのだった――。




  *




 ――数日後。


 僕とメイは再びデートをしていた。今回は街中ではなく、森の中を散策している。小鳥たちのさえずりを聞きながら、僕たちはのんびりと歩いていた。


「風が気持ちいいですね、ご主人様」


「そうだね」


「それに緑に囲まれていて、とても落ち着きます」


「本当に自然豊かだね」


 僕たちは周囲を見渡す。木々の隙間から太陽の光が差し込んでいるのが見えた。その光景はとても幻想的だった。


「ねえ、メイ」


「なんですか?」


「前に話したことなんだけどさ……」


「死ぬって話ですか?」


「うん」


 僕は頷く。そして、言葉を続けた。


「あれから考えてみたんだけど、やっぱり死にたくないなって……」


「ご主人様……」


「メイを置いていくわけにはいかないからね」


「嬉しいです……」


 メイは笑みを浮かべると、僕に抱き着いてくる。僕はそんなメイの頭を優しく撫でた。


「これからもずっと一緒にいようね」


「はい、もちろんです!」


 メイは大きく頷いた。僕はそんな彼女を抱きしめながら、心の中で誓うのだった。


(どんなことがあっても、必ずメイと一緒に生きていく)


 そうすることで、大切な恋人を守ることができるのだから――。




  *




 ――その日の夜。


 夕食を終えた後、僕はリビングのソファに座ってくつろいでいた。すると、隣に座ったメイが言う。


「ご主人様……」


「ん?」


「お願いがあるんですけど、いいですか?」


「いいよ。なんでも言ってごらん」


「えっとですね……」


 メイは少し恥ずかしそうにしながら言った。


「今夜は一緒に寝てくれませんか……?」


「えっ?」


 予想外の発言に驚く僕。しかし、すぐに笑顔を浮かべた。


「もちろん構わないよ」


「ありがとうございます!」


 メイは嬉しそうな表情を浮かべると、こちらに体を預けてくる。それから、耳元で囁いた。


「いっぱい、かわいがってくださいね」


「……っ!?」


 その瞬間、僕の心臓が大きく跳ねる。体が熱くなっていった。


「ふふっ……楽しみです」


 メイは小さく笑うと、さらに体を密着させてきた。柔らかな胸の感触が伝わってくる。僕は思わず生唾を飲み込んだ。


「ご主人様……」


 甘い声で囁かれた瞬間、理性が吹き飛ぶのを感じた。僕は本能のままに行動する。次の瞬間には、メイを強く抱きしめていた。


「あっ……ご主人様……」


 腕の中で小さく声を上げる彼女を見て、僕は改めて思うのだった。


(もうこの愛しい少女を手放すことはできないな……)


 メイの存在を確かめるように強く抱きしめながら、僕はそう思うのだった――。




  *




 朝、目を覚ますと彼女が隣で寝ていた。僕は彼女を起こさないようにベッドから出ると、キッチンに向かう。朝食の準備をしていると、後ろから声をかけられた。


「おはようございます、ご主人様」


 振り返ると、そこにはメイド服を着たメイが立っていた。彼女はメイド服の裾を掴みながら言う。


「あの……朝ごはんの準備でしたらわたしがやりますけど……」


「気にしないでくれ。いつも料理を作ってもらっているから、たまには僕がやるよ」


「でも……」


「いいから、僕に任せて」


 僕は笑顔で言うと、調理を再開する。しばらくして、出来上がった料理を食卓に並べた。それを見たメイの表情がパッと輝く。


「わあ! お魚ですね! 美味しそうです!」


「今日は東の国の料理にしてみたんだ! ちゃんとごはんとみそ汁もあるよ!」


「嬉しいです!」


 僕たちは、いつも食事をしているテーブルへと向かう。


 メイは席に着くと手を合わせる。僕もメイに合わせて同じ動作をする。


『いただきます』


 そして、箸を手に取った。一口食べると満面の笑みを浮かべる。


「おいしいです!」


「それはよかった」


 こんな日も悪くないなと、僕は、しみじみと思うのだった――。

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