黒猫、鳴かず

増黒 豊

アウトプット ゼロ:全てが終わった後の朝

 システムスキャン



 スリープモードから通常モードへ


 環境情報入力インピーダンス:正常

 時刻:〇八二九

 気温:摂氏一九度

 気圧:一〇十三ヘクトパスカル

 風速:室内のため無風

 湿度:四十パーセント


 シナプス接続:良好

 視覚:良好、日照あり

 聴覚:ショパン、幻想即興曲を確認。その他雑音、環境音

 嗅覚:冬咲きのクレマチス、飲み残したコーヒー

 触覚:木綿製の柔らかなシーツ

 運動信号送信:正常



 周辺環境:正常



 だけど、あなたはいない





 通常モード起動完了




 ——眠い。

 それに、とても悲しい。

 いつもと変わらぬ朝だけれど、それが悲しい。

 きっと、これからも、毎日わたしはこうして、朝を迎えてゆくのだろう。

 あなたが、そうしろと言ったから。

 わたしに、生きろと言ったから。

 わたしに、選択肢はない。

 あなたがわたしだったら、辛いと言うのかしら。

 それとも、嬉しいと言うのかしら。


 ねえ、教えて。

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