☆3

暗い部屋を照らす唯一の光は月明かりだった。毎日何をしたらいいのか分からない中で、ただひたすらにじっとしていた。いつの間にか抱きしめていたクマはボロボロになってしまった。

パパがくれたものは一枚の服だった。パパと呼ばせるその男についていくと、ランプがあちこちに灯ったイヤな匂いのする店だった。たくさんの男がそこにいて、中に入るとそこからの記憶はない。

だけどいつの間にかこの部屋にいて、また月を見ながらじっとしている。夢だったのかと思うけど、体の色は前とは変わっている。何が起こっているか分からないまま、また眠って、何日かするとパパが来る。この繰り返しだった。

下の部屋に行くと食べるものがあるからそれを食べると、また自分の部屋に戻る。パパから言われたのは絶対にここから出てはいけない、窓も開けてはいけない。それが守れなければ痛い思いをすると、何度も何度も教えられた。

ある時窓の外を立ち上がって見てみると、そこは青と白だけじゃなかった。部屋の中にあった本と同じ景色。色鉛筆で確認した。緑色の世界が広がっている。ずっとずっと先は青色で、でもそれは空の色とは違う。

部屋にいるよりも面白くて、そこにいることにした。

忘れていた頃にパパがやってきて振り向くと、いきなり壁に背中が当たった。声を出す前に髪の毛を掴まれて、パパの大きな声が響いて耳を塞いだ。

「お前……!外に出るなと言っただろ!」

「……っ」

なんのことか分からなかったけど、服をめくられて気づいた。茶色のもっと薄いみたいな……白ともう一つ色がある。なんだか怖くなって手で隠すと、また大きな声が響いた。

とにかく窓はパパが怒るから近づかないことにした。でも部屋の中はとっても退屈で、少しだけ離れたところで見つめていた。

たまに動物が紛れ込むことがある。だけど動きが早くてすぐ行ってしまうからつまらない。誰かここに来てくれたらいいのに。


ある日見たことのない人間が歩いていた。いつも大きい音を立てる男じゃない。ちっちゃい人だ。とっさに部屋にあったものを投げてみた。そしたらこっちを向いたから、もっともっとと続けた。窓を開けた約束を破ってしまったけど、パパは最近来ていないから大丈夫。そんなこと考えたのは一瞬だった。今までのことが全て吹き飛んでしまったように楽しくなっていた。

君は、面白い人だった。



君にあげるものを決めた。僕が一番大切なものを君にあげよう。君が喜んでくれたら嬉しいな。

君が昔にどんなことをしていたって、君が悪いことなんてない。今過ごしているこの毎日が楽しくて幸せで、こんな日々をくれた君に、僕は愛おしさしかない。

「好きだよ」と君に言った。また変な顔をしたけど悪い言葉じゃないってことは分かっていたのか、少し笑った。僕と君は一番の友達だよ。何があっても、永遠に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る