その2

 パーマストン・パークは、有名人や名士が別荘代わりに使う全館ペントハウスな施設として知られているが、亜季と教育係が訪れた時には、玄関ホールがてんやわんやの大騒ぎといった具合であった。

「おーい、ラディスローさんはいるかい?」

「はい、ラディスローはいま当館におりますが、なにかご用でしょうか?」

 黒髪で整った風貌をした少年が、怪訝そうに尋ねる。

「『タカシが来た』と伝言してもらえばわかると思う」

「わかりました。早速ラディスローに伝言を伝えます」

と、少年は早足で駆け出した。

「名前、タカシなんですね」

 亜季は、自分が今更名前を知ったということにびっくりして言った。

「ああ、言ってなかったな、今日会ってから今まで。これからはタカシと呼んでくれればいい」

「わかりましたであります!」

「……お前、声がデカイなあ」

「あ、はい、すみません……」

 しばらくして、少年は燕尾服を着た猫、亜季のように耳だけではなく、猫頭で手も毛がはえている猫を連れてきた。

「よう、久しぶりだな、ラディスローさん」

「お久しぶりでございます、タカシさま。こちらの女性は?」

「ああ、俺の新しい相棒だよ」

「阿武隈亜季といいます」

「亜季さまでらっしゃいますね?

私、ご主人の留守とゲストの歓待を任されています、ラディスローと申します」

「はあ、なるほど、よろしくお願いします」

「……私の顔になにかついていますか?」

 ラディスローは自分の猫頭をじろじろ見てられてることに、困惑した風に言った。

「ああ、申し訳ありません!」

 亜季は自分が失礼なことをしたことに気づいて、あわてて深く頭を下げて謝った。

「……まあ、話を変えるが、この惨状はなんだ?

まるで戦場だ」

と、タカシが尋ねると、ラディスローもホッとした様子で、答えを返す。

「はあ、屋敷で大捕物がありましてね。どうやら、来訪者至上主義者のテロ活動があるようで、屋敷にもなにか仕掛けようとしたらしいのです」

 来訪者とは、異世界、主に地球と呼ばれる場所から、この地に連れてこられたり、やって来たもののことである。

「へえ、素人がよくやるな」

「慣れておりますので。それで、警察に引き渡すことにしたのです」

「了解、そいつをニューラグーン警察まで連れていけってことね」

と、タカシは少年がラディスローと一緒に連れていた男を見た。

 男は、坊主で髭を長くのばしていて、作業着を着ている。

「同じ来訪者同士仲良くしたいものだね」

「あら、タカシさんもそうなのでありますか?」

 亜季が尋ねる。

「ああ、まあ色々あってね」

 口ごもるタカシに、あまり言いたくないことらしいと気づいた亜季は、それ以上話を続けなかった。

「とにもかくにも、この人を護送すればいいだけなのですな」

「ああ、なにもなければな」

 タカシは、意味ありげに呟いた。


ドン!

「なにかあったじゃないですか!?」

「そりゃ、そうだろうよ」

 結局、彼らはパーマストン・パークから市街へ向かう道で、来訪者至上主義者によるロケット弾で攻撃を受けた。

 そのまま、銃撃戦となって、今である。

ドン、ドン、ドン!

「にゃあ、どうするんでありますか!?」

「おう、少し待ってろ!」

 タカシは、拳銃の弾の数を確かめた。

「後一発か……」

と、呟くと、相手が乗って来た車のエンジンに狙いを定める。

「南無三……!」

 銃声一発。

トカァァァアン!

「よし、奴等が混乱しているうちにいくぞ!」

「はい、ほら、行きますよ!」

 手錠を付けられた男は、亜季に連れていかれながら、ウンザリしたように呟く

「……、ああ、まったく、ろくなことじゃねえな」


「ご苦労様、なんか証言する気になったみたいだし、万々歳といったところかな?」

「いやあ、本当疲れましたよ、今日は」

「いや、君、毎回あんなんばっかりじゃないか」

「で、テロを潰したんだから、謝礼とかありますよね?」

と、タカシが言うと、係長はアキレタように返す。

「何言ってるの?

むしろ道路で大捕物した賠償とかあるよ。はい始末書書いてね」

「ええ、マジかよ…」

 係長とタカシの会話を聞きながら、亜季はウンザリした風に呟く。

「これが、事件の度とかキツいであります……」

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